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「トラファルガー先生!…っ、姫先生!?」
「オペの準備だ、急げ!!」
「で、ですが、今火事で運ばれてきた患者さん達が…っ!
トラファルガー先生でなければ難しいと、」
「姫を見殺しにするのか!?」
「違いますっ!!トラファルガー先生、落ち着いてください!!」
「オレは落ち着いて「落ち着いてないから、そう言われるんだろ!」
「…!ペンギン先生」
騒ぎが聞こえて駆けつけてみれば、珍しく声を荒げるローと看護師の姿が。
あのローが何故あんなにも取り乱しているのか…普段どんなことがあろうと、冷静に対処するというのに。
よくよく見てみれば、ローの腕の中にぐったりとした姫がいる。
一体姫の身に何があったかわからないが、ローがあんなに取り乱す理由がわかり、小さく息をつく。
…姫に左右されるローに少しの安堵と危機感。
あぁやって感情を見せることができるのは姫のおかげだ。
それはローにとっていい兆候だろう。
しかし、姫が倒れたというだけでこの乱れ方…もし、姫がまたいなくなったり、…昏睡状態になったら。
きっとローは今までにないくらい取り乱すだろう。
それは医師として致命的。…常に冷静でなければならないのだから。
「ロー、姫はオレが診ておく。お前はお前しか助けられない命を救え」
「……っ、だが、」
「ロー」
「……、…っ、わかった。頼む、ペンギン」
「あぁ」
悔しそうに、何かを押し留めるようにぐっと唇を噛むとローは姫をストレッチャーに乗せて走り出す。
その背を見送り、姫の触診を行う。
…姫の病名は一体何だったのだろう。
その手術のために海外へ渡ったと聞いたが……
ぎゅっと姫の手を握りしめ、手術室に運ぶ。
「頼む、無事でいてくれよ…」
その言葉は、姫に届いたのだろうか。
―――……
――…
あれから数時間……
姫の手術は終わり、今は安定している。
火事の患者もそろそろ落ち着く頃だろう。
ローがそろそろ姫の様子を見に来るはずだ。
少しだけ顔色がよくなった姫を見つめながらぼんやりと彼女との思い出を思い出す。
…どれもこれもローがいて、こんなにも姫とローは一緒にいたのかと今さらながら笑う。
あの頃からきっと姫に変な虫がつかないようにしていたのだろう。
その独占欲の強さに、呆れもする。
『ペンギン、あのね、』
秘密話をするみたいに小さな声でわくわくしながらオレに話しかけた姫の声が蘇る。
…あれは確かローが先生に呼び出されて教室で二人、ローを待っていたときか。
そういえばあの時くらいだな、オレと姫が二人っきりって。
ローがいないとき、大体姫とオレ、シャチがいたから。
『どうした?』
『もし、私がいなくなったらどうする?』
『……嫌な冗談だな』
『ごめんごめん。…ローは、さ……悲しんでくれるかな…』
『…姫…?』
『…っなーんてね!』
よく考えたら姫はあの時もう自分の病気のことを知っていたのかもしれない。
誤魔化すように笑った姫にオレはあの時何故かちゃんと応えないと、と思ったんだ。
『悲しむ』
『…え…?』
『ローだけじゃない。オレもシャチも、姫がいないなんて嫌だ』
『ペンギン……』
ありがと。
そう悲しげに笑った姫。
…あの時、ローなら何て答えたのだろうか。
ローなら…姫を嬉しそうに笑わせることができたのだろうか。…なんて、な。
(あの時秘めていた思いを忘れるように自嘲した)
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