出直しておいで、坊や


*主人公かなり年上設定。





彼女はずるい。
いつだって大人ぶって、何でもないような顔をして、笑ってあしらう。

彼女はもう何千年も生きる神。たった数年しか生きていないオレなんて赤ん坊のようなものなのだろう。
…自分で考えていていらっとしたが。

今日も艶やかな着物を着こなして緩やかな笑みを浮かべる。




「おや、坊や。今日も来たのかい?」

「坊やじゃなくてリクオだ」

「ふふ、ムキになるようならまだまだ“坊や”で充分だよ」




ふわり、と蕾が綻ぶように笑う姿は美しい。悔しいほど。

一緒に飲むかい?と盃を一つ差し出され、ゆっくりとその盃を受けとる。
姫は満足そうに笑うと丁寧に酒を注いだ。

芳醇な香りが充満して、噎せかえるような香りにくらくらする。
…酒の香りなのか、……姫の色香なのか、わからないが。



「坊や、私にも注いでくれ」

「あぁ」



注がれる酒を見つめる姫が綺麗で、思わず目を奪われる。
盃を見てなかった俺は姫の「っ、おい、溢れてるぞ」という声があがるまで酒を入れ続けていた。
はっとして、すまねぇ、と慌てて注ぐのをやめたが、姫の手は酒でべたついていた。

はぁ、やれやれと姫は盃をおくと胸元にあった手拭いを取り出して手を拭こうとした。
…が、その手を掴み、俺の方へと引き寄せる。

何、と眉を顰める姫に笑みを浮かべるとその手をぺろりと舐める。
姫は「子犬か。やめろ」と冷静に止めるから、顔色を変えない姫が面白くなくてわざと姫を見つめながらゆっくり舐め上げる。

しばらく姫は何も言わずその様子を見つめていたが、…微かに姫の頬が赤くなっていくのがわかる。
それが嬉しくてちゅ、と音を立てて手にキスを落とした途端、



ーーー姫に体を押し倒されていた。




「坊や」

「…っ、」



あぁ、……なんという、畏。

今までに感じたことのない、色香という、畏。
溢れ出す姫の色香に、俺は無意識に唾を飲んでいた。



「私に火をつけたんだ。…覚悟はいいね?」

「……あぁ、…望むところだ」

「ふ、…いい度胸だ」



噛みつかれるようなキス。

それなのに、どこか感情を高ぶらせる…飲み込まれそうなキスだった。

舌が絡み合う感覚が気持ちよくて、夢中になる。
ふわふわと浮かぶような感覚にずっと…ずっと溺れていたいと思った。




「…ん、残念。時間切れ、だ」

「は…」

「若ぁあああ!!!」



心配しましたぞー!!!と泣きながら入ってきたのは烏天狗。
姫はすでに裾を直して、知らぬ顔して酒を傾けていた。

………おいおい、なんだよこのおあずけ。

とりあえずうるさい烏天狗を掴みあげ、遠くへと投げ飛ばす。
若あああ!なんて叫び声は聞こえないふりをした。

姫、と彼女の名前を呼んだが、姫は再び艶やかな笑みを浮かべた。






出直しておいで、坊や


「いや、…リクオ」

「…!」


彼女は、本当に俺を翻弄し…甘やかすが得意だ。


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