愛してるという呪縛



愛してるぜ、と囁き、若は私の頬に手を添えて熱っぽく見つめる。
するりと私の頬を優しく撫で、その手を顎にかけると優しい口づけが降ってくる。

…いや、優しいのは最初だけ。だんだんその口づけは私を求めるように激しくなっていく。
ん、とか声が出てしまっても、若は私を煽るように舌を絡ませた。

―――まるで、もっと俺を求めろと、主張するかのように。



「ん…わ、か…」

「…っ、リクオ、だろ…」

「や…っ」



呼べよ、俺の名前。

そう囁きながら耳たぶを甘くかまれて、思わず体がふるりと震える。
甘い痺れが全身を支配するけれど、私は自身を叱咤し、意識を保とうと若を見上げた。

…そこにいるのは、自分を…自分の心を欲している、若。
獲物を狙うような…獰猛な光をもった瞳にハッと息を飲む。



逃がさねぇ。


そう言われているようで、…体が震えた。
…それが恐怖なのか…歓喜なのか、わからないが。



「お前の好きなやつは、誰だ?」

「…っ」

「答えろよ」



わからない。私が好きなのは…首無さんだったはずなのに。

ずっと…ずっと好きだったのは、首無さんだった。
だから……首無さんに「付き合おう」と言われたとき、泣きたくなるくらい…嬉しかった。

それなのに……いつからこの関係は崩れてしまったのだろう。
…思えば、首無さんと一緒に若に挨拶したときからかもしれない。
尊敬し、支えたい人なんだ、と首無さんからいつも聞いていた。
立派な三代目にしたいんだと嬉しそうに話す首無さんの横顔を見るのが大好きだった。
だから、私も…三代目である若を支えたいと思って、若に挨拶に行った。

よろしくな、と言った若の目は…今の若と同じように、私を欲した目だった。…私を、女として見た、目。

その目を怖く思ったことは、今でも鮮明に覚えている。

せっかくだから泊まっていけ、という若に最初は断りをいれた。…本当は、怖くて。
でも、周りの妖怪さんたちも「泊まれ泊まれ!」と勧めてくれて、断りづらくなって。

結局泊まることになり、客間に寝ていると…若が、現れた。
最初は「どうされました?」と冷静を装って接していたが、…若は男の目をして言った。


――お前が欲しい、と。

お戯れを、と笑って流そうとしたが、若は私の腕を縛り、…そのまま布団に押し倒した。
やめて、と何度も言った。キスなんてしたくない、触らないで、とも。
でも…若は、無理やり私の体をこじ開けた。

それから若は…私を離れに閉じ込めた。

誰も近づけさせない。来るのは、若だけ。
最初は何度も首無さんを呼んだ。助けて、ここから出して、と。
でも、首無さんは…領地をもらい、遠くへと飛ばされてしまったらしい。

そこからは、もう…覚えていない。

若は毎日私を求めに来た。好きだ、愛してる、こっちを見て、会いたかった…そんなことを言って。
今日だって、そう。

目の前の若は答えを求めている。…私も愛しているという言葉を。いや、それ以外は不必要だ、と。



「若…、もう、…私を…解放して…」

「…っ離さねぇよ…絶対ぇに…!!」

「やっ…!あ、若…っ」



乱暴に布団に押し倒されて、無理やり与えられる熱に、どうにかなってしまいそうだった。

愛してる。お願いだ、オレにも愛してるって言ってくれ……、…笑顔を、向けてくれよ……

そう涙を流しながらキスする若から私は視線をそらし、そっと…目を閉じたのだった。






愛してるという呪縛

狂ってる、と誰かが囁く。
それでも…姫の愛を、手に入れたかった。


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