ハジマリ



私には前世の記憶が少しだけある。

だからといって特別なものはない。前世の記憶があるといっても、自分の好きなもののことのみだ。
―――ぬらりひょんの孫という漫画のこと。

詳しくは覚えていない。主人公はぬらりひょんの孫で、ぬら組をつがないと言っている。何故なら、自分は妖怪なのに人間だと思っているから。
確かお父さんはいなかったはず。…そんな中学生。

それくらいしか覚えていない。

そして、この世界はぬらりひょんの孫のように妖怪という存在があるのだ。
私の両親がまさに、妖怪。…正しくいうと母は確実に妖怪だが、父は恐らく妖怪だと思われる。
―――私には父がいない。
母に一度だけ父のことを聞いたことがあったが、その時母はただ哀しそうに笑っただけだった。
それ以来、父のことは触れず、…いや、触れてはいけないことだと認識した。
だから、父が妖怪なのか、それとも人間なのかはわからない。

今は女子供二人暮らし。
大変なことも多いが村の人はみんな優しくて幸せだった。



「姫、隣のお婆さんからお味噌をいただいてきてくれない?」

「はい、お母さま。お礼に瓜を持っていくね」

「ええ、お願いね」



穏やかに笑うお母さまに私も笑い返すと野菜籠を覗きこんだ。
色とりどりの夏野菜たち。トマトにきゅうり、南瓜にピーマン。
あぁ、そういえばおばあちゃんは瓜より南瓜の方が好きだったはず。
おばあちゃんの嬉しそうな笑顔を思い浮かべて籠を覗きながらお母さまに話しかけた。



「お母さま、おばあちゃんは瓜より南瓜の方が好きだったよね?瓜じゃなくて南瓜を持っていっても、」


―――ドサッ


「いいかな?……、…?お母さま?」



さっきの音、もしかして何か落としたのかな?
だから、返事をしなくて、

そうゆっくりとお母さまの方を振り返る。
どくん、どくんと、嫌な心音は聞こえないふりをして……



「…っ、お母さま!!!」



振り返った先に広がったのは、お母さまの倒れた姿。
慌てて駆け寄り、何度も母を呼んだが返事はなく。


―――私にとってこの最悪の出来事が…物語の始まり。

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