デアイ



峠は越えた。しかし、もう、長くはないでしょう。

そんな言葉をまだ信じられなくて、私はずっとお母さまの手を握っていた。
…あれから3日。お母さまは目を覚まさない。
お母さま、…お母さま、お願いだから目を開けて…っ!
そんな私の願いは虚しく、お母さまの手はいつもより冷たく感じた。
そんなとき、

――――どたどたどた…!

私の家から突然誰かが走ってくる音。
そして、すぱん!という音と共に私の後ろの障子が開けられる。
一体誰が来たのだろうと後ろを振り向いた。


「乙女さん!!」


…!な、何故…!何故、この人がここに…!

そんな私の衝撃とは関係なく、その人は私の横に座り込み、母に乙女さん、と呼びかける。
この人がまさか母の知り合いだなんて……

信じられない気持ちが大きくて、呆然とその人を見つめる。



「…ぬらりひょん、さま…」

「…っ!!」

「…!乙女さん、乙女さん!わかるのか!?」

「…よかった…お会いできて…」



弱々しく笑うお母さまに声が出ないくらい嬉しい。
泣きそうになるのを堪えていると彼は…ぬらりひょんさんは母の手をさらに握りしめた。



「すまなかった…わしのせいで、」

「いいえ…ぬらりひょんさまのせいでは、ございません……
…ぬらりひょんさま…お願いがごさいます…」

「…っ、なんじゃ?」

「……そこにいる娘は、私と鯉伴さまのお子です…」

「…!?なんじゃ、と…!?」

「…え…?」



二人の視線が私に向かう。

……今、お母さまは、なんて言った…?
“私と鯉伴さまの、お子”…?
お子って…子供…?私が、鯉判さんの…?

信じられない気持ちが大きくて、何も言うことができなかった。



「まさか…!!鯉伴は妖と子を成せないはず」

「はい…ですが、鯉伴さまと離れてすぐ、…この子が、生まれました」



お母さまの柔らかな視線が私に向かう。
…本当に、私があの奴良鯉伴さんの、娘……
と、いうことは、私は…あの、奴良リクオくんの、兄弟…?
いや、リクオくんがいるとは限らない。私というイレギュラーな存在がいるのだから私の知っているぬらりひょんの孫の世界ではないかもしれない。

…そんな冷静なことを考えている自分に驚いた。



「なら、本当に…」

「はい…ですから、この子を…」

「…わかった。鯉伴の娘じゃ。わしが預かろう」

「……ありがとうございます…」



この子を、どうか……

そう言って、母は意識を失う。
慌てた私たちは一生懸命声をかけたが、…母はもう目を覚ますことはなかった。

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