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「おはよう、恭弥」

「…おはよう」



嫌な夢を見たせいか今日はいつもより遅く着いてしまって美瑠はすでに風紀の仕事をしていた。
いつも通りに笑って僕に挨拶してくれる姿は変わらない。

ふわり、と微笑む姿には僕の心も少しは落ち着いた。

見たところ泣いて目が赤くもなってないし、腫れてもいない。

やっぱりあれはただの夢にすぎなかったんだ。

そう思ってもやはりあの時の美瑠の泣き顔が頭の中をちらついて。
そんなことあるはずない、とわかっていても不安になって。
その不安を埋めるように美瑠をぎゅっと強く抱き締めれば…少しだけ、力が抜けた。

急に抱きついたのが不思議だったのか美瑠は小さく首を傾げて僕の背中に手を回す。
僕の不安が伝わったみたいに美瑠は優しく背中を撫でてくれた。

大丈夫だよ、って…そう暗に伝えてくれているみたいに。



「どうしたの…?」

「…ん、何でも、ないんだ」

「…、…容儀検査始まるよ?」

「……あと少しだけ…このままが、いい」



少し力をこめれば美瑠は何かを察したように「うん」と体を預けてくれる。
ぽんぽん、と一定のリズムで僕の背中を撫でながら。
軽く目を瞑れば美瑠の安心できる体温が心地よく感じられて。
朝の空虚感が海の潮のように静かに引いていった。

やっぱり美瑠の隣が一番落ち着くな……

…本当、僕らしくなかった。あんな風に不安になるなんて。
不安になる必要なんて全くなかったはずなのに。
現に美瑠は腕の中でこうやって笑っていてくれている。


――――ここが、僕と美瑠の居場所。


僕の隣にいていいのは美瑠で、美瑠の隣にいていいのは僕なんだ。

完全に安心しきっているとふいに外が騒がしくなり始めた。
…草食動物達が登校し始めたようだね。もう、時間みたいだ。

もう少しだけこうしていたかったけど、名残惜しそうに体を離して美瑠に笑いかける。



「ありがとう。…行こうか」

「うん」



穏やかな笑みを浮かべる美瑠の手を引いて外に出れば群れがたくさん。
僕がでてきた瞬間うるさかった校門はシンッと静かになって。
…中には美瑠が隣にいることに驚いているやつもいたけど。
草食動物達は無視して草壁の所に行けば挨拶と報告が並べられる。

今のところ目立った人間はいない、か。

まぁこんなに早くくる人間に不真面目な奴はいないだろうし。大抵不真面目な奴は遅く来るものだ。
そのまま続けて、と言い渡して僕は早々に校門に寄りかかった。

美瑠は草壁に挨拶してからボードに色々と書き込んで真面目に風紀の仕事をしている。
真っ青になって通っていく草食動物達を見つめながらぼんやりしていると、いつもの沢田綱吉達が来たのか美瑠は笑って「おはよう!」と挨拶していた。

何か話しているみたいだけど……ここからじゃ聞こえないな。

多分風紀の仕事頑張ってね、みたいなことを言ってるんだと思うけど。
相変わらず仲いいな、と少し不満に思っていれば、…何か、聞こえた。

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