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「恭弥!」



ありえない声。いや…セリフ。―――僕の下の名前。
しかも美瑠以外の女子の声で。そんな風に親しく呼ぶ人間なんていないはずなの、に。

美瑠も吃驚したように僕の方を見つめる。
草食動物達も一斉に声のした方を向いて―――顔を赤くした。

中には、え!?と驚いて悲鳴をあげる女子もいる。…何なんだ、一体。

僕は校門から背中を離してその声が聞こえる方を見た。
…その、刹那、



「会いたかった…!」



トンッと小さな衝撃と、甘い香り。
は、?と呆けてしまったのは一瞬、理解するのに数秒。

少し視線をずらせば…ワォ、誰かに抱きつかれてるんだけど。

予想外の出来事に頭が追いつかなくて固まっていれば…抱きついた女が、顔をあげる。

……、何この子。…多分、世間的に言ったら整った顔をしてるんだけど。
真っ白な肌に天然色なのか綺麗に太陽に反射する亜麻色の髪。
くりっとした大きな目に、上品に化粧をした顔。

―――そして、どこか見覚えのある、顔。

その女子はニッコリと華やかな笑みを浮かべて「吃驚した?」なんて聞いてくる。

吃驚したもなにも……君、誰?確かにどこか見覚えがあるけど……

無表情に黙っていればどこからか「あれって仁科歌愛ちゃん!?」という声。
仁科、歌愛……歌愛……?…まさか、



「君、は……」

「貴方の幼馴染みの、歌愛だよ!恭弥。忘れちゃったの?」



それとも綺麗になりすぎてわからなかった?


なんて悪戯に笑う彼女に周りが赤くなっている。

……はっきり言って忘れてた、が正しいんだけど……


仁科歌愛……彼女がいうように僕らは所謂「幼馴染み」とかいう関係。
僕はなった覚えはないけど、結果的にはそういうことになる。

幼い頃…まだ僕がトンファーを扱っていなかった頃。
僕が記憶する限り、彼女はその時から隣にいた。…不本意だけど。
いや、隣にいたというより僕の後ろをついてきていた、という方が正しいか。

家が近かったのと親同士(…これも不本意)が仲がよかったため、自然に一緒に育った。


でも確か彼女はヨーロッパに留学したんじゃ……



「やっと帰って来れたの。本当に…会いたかった」



そう本当に―――心から嬉しそうに笑って再び僕を抱き締める。
…例え幼馴染みだとしても、今の僕には何の関係もない。

だからこうやって抱きつかれる覚えもない。

離れろ、と言おうと思い口を開こうとした瞬間、…どうしてか、美瑠の姿が目に入って。
僕は美瑠の思いもしない表情に、固まった。


―――とても、哀しそうで…まるで、嫉妬、してくれているみたいな……


その時こみ上げた感情は美瑠には悪いけど、嬉しさ。

驚きもあったけど……それ以上に嬉しかったんだ。

美瑠が嫉妬してくれるなんて今まで無かった。
…僕が女子を近づけてなかったからだけかもしれないけど。
少なくてもいつも嫉妬しているのは僕の方。僕だけだった。

でも……今は、いつも嫉妬させる美瑠が嫉妬してくれている。
その事実に大きな愛を感じて―――僕だけが好きじゃないってことを、教えてくれた。

ごめんね、不謹慎だけど…嬉しいんだ、すごく。
嬉しくて…思わず、欲張ってしまう。もっと、もっとって。

もっと僕を愛してるって表情を見たい……

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