17 妖怪の彼



「ごめん、遅くなっちゃったね」

「大丈夫です」



夕方と夜が入り混じる頃、私とリクオさんは川辺を急いで歩いていた。

今日は少し遠出をしようと言って少しだけ遠い場所へ行っていた。
そのせいか、いつもより帰るのが遅くなってしまい、もうすぐ夜になりそうな薄暗さだった。

リクオさんは申し訳なさそうにしていたけど、楽しい時間がすぐに過ぎてしまうのは仕方ないことだ。
大丈夫、と笑えばリクオさんは小さく笑い返してくれた。

…それにしても、こんな時間に外にいて大丈夫だろうか。

国にいたときは絶対にこの時間には城にいた。…私の力を狙う妖怪が出てくる時間だから。
リクオさんが隣にいる状態で妖怪に襲われてしまったら、大変なことになる。

早く帰れるなら、早く帰ることが最善だろう。

少しだけ急ぎ足で帰っていると、背筋がぞっとするような感覚が自分を襲ってくる。


――まずい、狙われている。



「おじょーさん」

「…っ」



纏わりつくような声で後ろから呼ばれる。

そっと、後ろを振り返れば気味の悪い笑顔を浮かべた男が立っていた。
リクオさんが何かを感じ取ったのか、私をかばうように背中に隠してくれる。



「オレに…生き胆ちょうだーい!!」



目の前の男の姿が一気に変わり果て、妖怪の姿へと変化し、私たちに襲い掛かってくる。

リクオさん!と彼の名前を呼んで、避けるために彼の手を取り、走り出す。
それでも妖怪はしつこく私たちを追いかけてきて、何度も何度も私に手を伸ばしてくる。

そのたびにリクオさんが私の体を引っ張って避けてくれた。

でも、避けるにも限界があって、私の足が妖怪の手に捕まり、転んでしまう。



「桜さん!!」

「…っ、リクオさん、逃げて!!私は大丈夫だからっ…」

「生き胆ぉ…」

「…っ!!」



早く、早く逃げて…この妖怪は私を狙っている…だから…!!

そう心の中で叫ぶのに、リクオさんは怖い顔をしたままその場から動こうとしない。
リクオさん!!と叫んだ瞬間、妖怪は私に襲い掛かり、…リクオさんは覚悟を決めたような目をした。

食べられる…っ!!!

そう覚悟し、目を瞑ったがその衝撃は襲ってこず、妖怪の苦しそうな叫び声が聞こえてきた。

驚きで目を開ければ、…真っ二つに切られていた妖怪に、長い髪を靡かせた、ドスを持つ妖怪が立っていた。



「リクオ、さん…?」



無意識に呼んでいた名前に、私はハッとする。どうして目の前の彼をリクオさんだと……

…でも、間違いない。姿形が全く違うとしても、あの美しい目の輝きだけは変わらないのだから。

ゆっくりとリクオさんは私を振り返ると「怪我はないかい?」と静かに問われる。
はい、と頷くとよかった、と心底安心したように息をついた。

…あぁ、やっぱり、リクオさんだ。間違いない。



「妖怪、…だったんですね」

「…怖いかい?」



ハッとしてリクオさんを見上げれば、悲しげな色を灯して私を見つめていた。

怖い…?確かに彼は妖怪だ。私を襲ってきたものと、同じ。


…でも。



「私を守ってくれた妖怪さんを怖いと思うわけがありません」



ありがとう、リクオさん。


そう笑って、リクオさんをまっすぐと見つめればリクオさんは少しだけ目を丸くする。
しばらくは呆気にとられていたのか、私を見つめていたけど、リクオさんはしばらくするとフッと綺麗な笑みを浮かべて私に手を差し伸べた。

その手を優しく握り返し、立ち上がるとリクオさんは「送る」と言って私をお姫様抱っこしてくれたのだった。


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