18 許嫁


桜を送った後、昼の姿に戻ってもよかったが、まだ夜だったこともあり、そのままの姿で奴良組の屋敷へと帰る。
屋敷の敷居をまたいで入っていけば、誰だ誰だと周りにいた僕たちが騒ぎ始める。

ったく…自分の主の顔もわからねぇのかい。

何も言わずに奥へと入っていけば青、黒、首無が前から歩いてくる。
オレの姿に気が付くとハッと息をのんだようにその場で立ち止まる。



「…リクオ、さま…?」

「あぁ」



恐る恐る聞いてきた言葉ににやりと笑って肯定すれば「そのお姿…!ついに妖怪に…!?」と騒ぎだす。
周りにいた奴らも「リクオさま!?」と驚きながらもオレをじろじろと見つめる。
オレの姿が一気に広まったのか、屋敷全体が少しずつ騒がしくなっていく。

その騒ぎを聞きつけたのか、総大将であるじじいが走ってやってきた。
オレの姿を見ると目を丸くし、「オレの若けぇ頃にそっくりじゃねぇか」と呟いた。



「リクオ…ついにやったか!!」

「おぉ、リクオ。ずいぶんと男前になったなぁ」

「親父」



いつの間に現れたのか嬉しそうに笑うじじいの隣からにやりと違う意味の嬉しそうな笑みを浮かべて親父が煙管を吹かせていた。
これで一人前じゃ!!と嬉しそうにじじいが頷いていると「リクオさま!」と氷麗が駆け寄ってくる。



「よぉ、氷麗」

「妖怪になられたのですね…!」



氷麗は嬉しゅうございます、と笑う氷麗にオレも小さく笑い返す。
恐らくずっと一緒にいた氷麗はオレが1/4妖怪だとわかっていても妖怪にならないことを気にしていたのだろう。

そんなオレと氷麗をほぉ、とにやにやしながら見つめるじじい。…なんだ、嫌な予感がする。



「男になった記念じゃ!今日より氷麗をリクオの許嫁にする!」

「おぉ!!!」

「雪女がリクオさまの許嫁!」

「えええ!!そ、総大将!?」



かぁぁっと顔を真っ赤にする氷麗。周りで許嫁!許嫁!と騒ぐ僕たち。

おい、勝手に決めるんじゃねぇ、なんていうがじじいは聞く耳を持たない。
親父はにやにやしながら「男になったなぁ、リクオ」なんて言い出す。

話を聞けよ、と肩を落としたくなったが、氷麗があまりにも嬉しそうに笑うから…まぁいいか、なんて思う。
あんなに喜んでいる氷麗に水を差すのも悪りぃしな……

そう考えていたオレに対して、親父がじっと見つめていたことなんて知らず。





「(リクオ、お前ぇ…気付いてないのかい?)」


親父がリクオの許嫁を決めるなんて思ってもみなかった。
桜の存在があるならきっとリクオは本気で止めただろう。
いや、もしかしたらこの場で「心に決めた女がいる」と宣言くらいするはずだ。

それなのにリクオは本気で止めなかった。仕方ない、とばかりに肩をすくめて。



「(それとも…桜に対する思いは本気じゃねぇのか?)」



いや、そんなはずはない。桜に向けていた目は、確かに“男”の目だった。

優しく…愛しいものに向ける目。
ならば、本当に桜への気持ちに気づいちゃいねぇのか……



「(こりゃあ…喜んじゃいけねぇが、チャンスってやつかい?)」



恐らくあの様子だと桜も自分の気持ちに気づいちゃいねぇ。
お互いに気付いていないのだとしたら…それは、ないも同然。



「かっさらうぜ…」



お前に本気の覚悟がないのなら、オレがもらう。
こんなにも心から欲しいと望んだ女は久しぶりだったのだから。

ふぅ、と再び煙管の煙を吐き、そっと空に浮かぶ月を見上げたのだった。


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