織姫と彦星
年に一度しか逢えない織姫と彦星。
可哀想なんて思う前に何故、と疑問に思う。
天の川なんて邪魔な川は埋め立ててしまえばいいのに。
そうすれば毎日会うことができるでしょ?
どうして二人は会うための努力をせずに諦めたんだろう。
私なら絶対に諦めることなんてできない。
どうにかしてでも、無理だと言われたとしても、会えるために全力を尽くすよ。
ーーー過激なことをいえば反対した父である天帝と縁を切ってでも。
「…ってことで私は織姫に向いてないと思うの」
「うん、間違いないね」
そんな男前な織姫いないよ。
そう恭弥が苦笑しながらお猪口を傾ける。
私もそれに倣って青いカクテルを一口含むとやっぱりそうだよね、とからからと笑った。
今日は年に一度の七夕。
並盛のショッピングモールには大きな笹の葉が飾られていて、たくさんの願い事が書かれていた。
それを見てたまたま偵察できていた恭弥と私は星を見ながらお酒を飲もうということになり、今にいたるのだが。
月見酒とは違う情緒があっていいのだが、如何せん二人して現実主義。
織姫に文句言うわ、そんな逸話は信じないだの雰囲気なんてあったもんじゃない。
…まぁきっと私たちはこれくらいが丁度いいんだろう。
「恭弥はもし彦星の立場になってしまったらどうする?」
「まず引き離されることなんてないよ。僕に命令するなんて恋人の父親でも許さない」
「あはは、さすが恭弥」
「でも、もし、…僕から引き離されてしまうようなことがあったら、」
いつだって、連れ戻してあげるよ。
仮定の話のはずなのに。
恭弥の目は真っ直ぐ私を向いて、強い光を目に宿していた。
…恭弥なら、きっと、そうだよね。
迎えに来てくれる王子様とは程遠い人だけど、いつだって私を見つけてくれる、最愛の人。
待ってるよ、と微笑むと恭弥の顔がゆっくり近づいてきたから私も静かに目を瞑る。
落ちてきた唇は仄かに甘くて、優しかった。
織姫と彦星
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