遅いよ。僕を待たせるなんて偉くなったものだね。



“明日10時駅”





それだけ書かれたメールが来て、私は小さく瞠目した。
お風呂からあがってテレビでも見ようかな、とか思っていた矢先、この前この前付き合い始めた雲雀恭弥さんからのメール。
どうして付き合い始めたのかは色々とあったんだけど、今は割愛しようと思う。
それにしたってこの簡潔すぎるメールの意味はなんだろう。
明日の10時に駅…に来いってこと?
…そう考える方が自然だよね、うん。
急に言われても私に明日予定があったらどうするつもりだったんだろう。
いや、恭弥のことだから私のことを暇人と思ってメールしたのだろう。まさにその通りだけど。

仕事が明日なくてよかった、なんて思いながらオレンジジュースを取り出すと、はたり、と行動がとまる。




「…なんで呼び出されたの?」




10時に駅、なんて一体どうして。

風紀のお仕事が忙しい彼のことだからお仕事を手伝えということだろうか。
でも、それなら駅で待ち合わせしなくても私が直接風紀財団に行けばいい話。
メールの返信が大変だし、電話してみようかな。

着信履歴から恭弥の名前を出して、発信。
今頃恭弥の携帯から校歌が流れてるんだろうな、なんて密かに笑っていると何コール目かに「もしもし」という声。




「もしもし、恭弥?姫だけど」

「何?」

「明日駅で待ち合わせなんてどうしたの?風紀のお仕事?」

「そんなわけないでしょ。この鈍感」

「えー!恭弥に鈍感とか言われた!人類最強の鈍感男なのに…!」

「咬み殺す」

「ごめんなさい調子乗りました。…ん?で、何で明日駅で待ち合わせなの?」

「…デート、行きたいんでしょ」




ぱちり、と一つ瞬き。

デート行きたいんでしょ。デート……デート!?
ああああの恭弥からデートなんて言葉!

あまりの驚きに声が出せずにいると電話口で恭弥が照れているのか「やっぱり行かない」とか言い出してしまったので慌てて言葉を繋いだ。




「や、やだ!行きたい!」

「…そう」

「恭弥とデートとか嬉しい!楽しみ!」

「……うん、僕も」




小さな声だったけど肯定の声に思わず顔が弛んでしまう。
デート。うん、すごく恥ずかしいけど、すごく楽しみ。

じゃあまた明日ね、と言って切られる電話。
しばらくデート、デート、って浮かれてたけど重大なことに気づいた。




「何着ていこう…!!」




普段フォーマルな格好しかしないから私服全然ないじゃん!

慌ててドレッサーにかじりつき、私は夜中までずっと服に悩み……





「寝坊したー!!」




次の日、起きたのは待ち合わせの時間30分前。
駅まで20分かかるから…あと10分で準備!?
無理だよー!と叫びながらバタバタと化粧や髪型をセットして慌てて家を出る。
あの待つの大嫌いな恭弥が待ってくれているはずない。
もしかしたら先に帰ってしまっているかもしれない。あぁもう最悪。

半分泣きながら駅まで走っていくと駅の前で不機嫌そうに腕組んで待ってくれている恭弥の姿を見つける。
待っててくれた、という嬉しさと申し訳なさでいっぱいになりながら「恭弥!」と声をかけると恭弥の不機嫌顔が一気にしかめられた。




「遅いよ。僕を待たせるなんて偉くなったものだね」

「ごめんなさい!服迷って、それで…っ」

「言い訳はいい。…待たせた罰として、」




恭弥の腕が私に向かってきて、思わずぎゅっと目を瞑る。
恭弥が私を殴ったりしたことないし、しないと信じているが今回ばかりは私にも非があるので仕方ない。

そう思ったけど、感じたのは痛い衝撃じゃなくて軽い腕が引っ張られた感覚。
へ、と惚ければ恭弥の手と私の手が所謂“恋人繋ぎ”とやらをしていた。
恭弥との指が絡み合って、ぎゅっと……




「……っ」



赤くなる頬を一生懸命おさえながら恭弥を見上げると微かに耳が赤くなっている。
あぁなんだ、恭弥も照れてるんだ。
そう思ったらもうにやける顔をおさえられなくて、私は小さく笑みをこぼした。

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