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「フィリー、離れてはいけないよ」
「はい、お父さん」
そう返事しながらも地上とは違う地下街の雰囲気に好奇心を刺激されてキョロキョロとしてしまう。
お父さんは大きな商団の社長で、地上と地下街と両方で商売できる珍しい商人だ。
私はお父さんについて来たのだが、少しの恐怖心と好奇心が混ざり会う。
地下街は不思議なところだ。
治安はすこぶる悪いのだが、弱肉強食という理がよく見えて清々しいくらいだった。
平穏そうに見えて、いじめや格差がある地上とは違うその清々しさが私は好きだった。
お父さんが商品を売り出した時、目に入った小さな花。
「見たことない花…きれい…」
摘んでお母さんに見せてあげたいが、摘んでしまうのももったいない。
しばらく眺めているとドンっと誰かに押されてしまう。
このまま倒れたらこの花が折れてしまう…!!
それだけは避けたくて、変な手のつき方をしてしまう。
じんと手首が痛くなったが、痛みに堪えてぶつかってきた人を見上げる。
そこには少しだけ痩せた男の子が立っていた。
「邪魔だ」
「…ごめんなさい」
「どけよ」
「っ、ごめんなさい…それは、できません」
「は?」
「ここには、綺麗な花が咲いてるの…踏んだらかわいそう…」
目の前の男の子は私の言葉に対して「わけがわからない」とばかりに眉をひそめる。
「お前、地下街のやつじゃねぇだろ」
そう低く言われて少しだけ肩に力が入る。
少しだけ怖くなっていると、お父さんが私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
これ幸いとばかりに私は彼に背を向けて走り出す。
ドキドキとした心臓が、少しだけ痛かった。
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