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「美瑠に触っていいのは僕だけだ。気安く触るな」

「恭弥…」



すでに気絶している男の人に向かってそう言い放つ恭弥にドキッとする。
かっこいい…いつもかっこいいけど、今日はいつも以上にかっこよく見える。
きゅんと締まる心に私の視界には恭弥しか入らなくなった。



「大丈夫?美瑠」

「うん。恭弥が助けてくれたから」

「よかった」



するり、と恭弥は優しい手つきで私の頬を撫でる。
見つめる恭弥から目が離せなくて私も恭弥の目をじっと見つめ返した。

―――なんてしている間に喧嘩が終了していたことに気づいたのは喧嘩が終わって3分後だった。
(ツナたちごめんね!ありがとう!)




「じゃあひったくった金はもらうよ」

「オレらのも!?」



恭弥がひったくり犯から押収したお金の入った金庫の山をツナたちが見やる。
たぶん、自分たちのを探しているんだろう。
恭弥が風紀委員に電話をしているうちに武に声をかける。



「武、」

「!これ…もしかして、俺らの金庫?」

「うん。恭弥にバレる前に持っていって。中身も無事だから」

「サンキュー」

「ううん、助けてもらったから」

「じゃまた後でチョコバナナおごるな」

「楽しみにしてるね」



こっそり三人に手を振って、恭弥に気づかれないうちに三人はその場からいなくなる。
恭弥が帰ってきて、三人とその金庫がなくなっていることに気づいたみたいだけど、恭弥は何も言わなかった。
後から風紀委員の先輩たちはロープを持っていて、犯人たちを縛り始めた。
たぶん警察に届けるのだろう。
ただ、引ったくり犯が盗っていたお金はちゃっかり回収していた。
さすが恭弥…しっかりしている、と小さく笑った。



「恭弥、怪我はない?」

「うん。美瑠は?あの男に触られたところとか」

「大丈夫だよ。恭弥が守ってくれたし…」



そう照れながら伝えると恭弥が私の身体を力強く抱きしめる。
…さっきの男の人にはただ嫌悪しか感じなかったのに……
恭弥っていうだけで、安心する。



「夏って暑いのに恭弥に抱きしめられても暑くないね。むしろ、温かくて心地いい」

「(何でこの子こんなに可愛いの?あぁもう、本当に愛しい…)」



私の言葉に恭弥の腕の力が一層強くなった気がした。
…それに、心臓の音も、大きくなった。
恭弥も照れているのかな、と思うと大好きの気持ちがもっと大きくなる。
これ以上私を好きにさせてどうするの?
大好き、と小さく呟くとそれと同時にドンッ!という花火の音が鳴り始めた。

夜空に咲き誇る大輪の花……
その美しさに目を奪われて、自分でもわかるくらい目を輝かせた。



「綺麗ー…」

「初めて見るの?」

「ううん。でも、すごく綺麗に見えるの」


きっと大好きな人と―――恭弥と一緒に見てるから。


「そうかな?僕は花火より美瑠の方が綺麗に見えるよ」

「……っ」



今日の恭弥はすごく、饒舌。しかも、私をどきどきさせる言葉ばっかり。
嬉しい反面、恥ずかしくて心臓が煩い。

恭弥の饒舌さにつられて、私まで素直になる。



「さっき恭弥が『美瑠に触っていいのは僕だけだ』って言ってくれて…嬉しかったよ」



恭弥を見上げると同時に私の視界には恭弥でいっぱいになる。
…そして、唇には暖かい感触。
優しいキスに私は驚きながらもそっと目を瞑る。

遠くで花火がぱちぱちと弾ける音が、した。

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