甘い薫りが漂う中、僕らは出会った
街の中が甘ったるい香りとともにピンクで彩られるこの時期…僕は君を思い出す。
ねぇ……君は今、どこにいるの…?
〜メーデー、メーデー〜
賑わう校門で、僕は普段よりある理由で不機嫌そうに眉を顰めた。
…今日は本当に不要物を持ってきている草食動物が多い。
バレンタインだかなんだか知らないけど、学校にチョコなんて不要物を持ってくるなんて言語道断。
全部没収と命令して僕はぼんやりと持ち物検査を監視していた。
誰も僕に逆らうことはないから何事もないように思っていた持ち物検査…でもどこからかけたたましい争う声が聞こえてくる。
……咬み殺す対象ができたようだね。
ニヤリと口の端を上げてその騒ぎの中心に向かえば、案の定、名前も知らない風紀委員と女子が言い争っていた。
女子の方はスカートも規定の長さで、髪も二つに結んでいて、後ろ姿だけなら真面目な生徒だ。
でも…どんなに真面目な生徒でも、僕に逆らう人間は許さないよ。
「何の騒ぎ?」
「!委員長!」
「雲雀恭弥…」
僕に頭を下げる風紀委員を傍ら、彼女は振り向いて僕を見つめながらそう呟いた。
普通の草食動物なら顔を真っ青にしてなんでもないです!と言って逃げるか、愚かな奴なら喧嘩を吹っ掛けてくる。
でもその目には恐怖や怯えなんてなくて、ただ真っ直ぐな瞳が見つめていた。
(こんな面白い子がいたなんてね…)
「雲雀さん、没収したチョコを返してください。
今日が何の日かくらい貴方も知っているんでしょう?」
高い声だと思った。
だけど不思議と不快でない、声。
僕に物怖じしない言い様が彼女の強さを表しているようで、面白い。
まっすぐ見つめてくる彼女に僕も正々堂々とまっすぐ見つめて反論を返してやる。
「なら君も知っているだろう?
学校にチョコなんて不要物を持ってきちゃいけないこと」
「…わかっています。
でも、想いを伝えたいという純粋な女の子の気持ちも考えてあげてください」
ちらりと彼女が隣に目を走らせたから僕もつられて隣に目を走らせると彼女の友人らしき女子が顔を青くしておろおろとしていた。
さらにさっき言い争っていた委員の手元を見てみれば風紀委員が持っている箱は一つ……
きっと友人の方が没収されたんだろうね。友人を庇ってるってとこ?
「そんなの知らない。知る必要もないしね」
嘲笑。
凛とした彼女にしては愚かなことを言ったことに対しての、言わば嘲りだった。
好きな男子にチョコをあげる、なんてそんな行事を楽しみにしている女子が愚かで仕方がなかった。
だって、好きな男子にチョコをあげる、なんてただのチョコレート会社の戦略だろ?それにわかっててひっかかるなんて馬鹿げてる。
そんな笑みを浮かべると彼女の頬にカァッと朱が差す。
パンッ!!
一瞬、何が起こったかわからなかった。
ただ最初は…ひりひりとした熱と、じんわりと僕の頬に広がった痛みだけしか感じなかったけど。
拳で殴られるには温い痛みに次第に理解しはじめる。
―――平手打ちされた。
彼女に、思いっきり。
まさか、彼女が殴るとは思わなくて、僕は怒りよりも先に驚きで目を見開いた。
思わず少しよろけた体を立て直すと僕の目に映るのは、
彼女の目に浮かんだ大粒の涙。
「最っ低…!」
そう吐き捨てた彼女に……
何故か目を奪われたんだ。
甘い薫りが漂う中、僕らは出会った
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