奏でるヴァイオリンに惹かれて
煩わしい人の話し声から遠ざかるため、僕はパーティー会場から抜け出してテラスの椅子に一人腰を落ち着かせる。
はぁ、と今までの窮屈さを全て吐き出すように息をついて目を伏せれば、ヴァイオリンの音が微かに聞こえてきた。
きっとこの会場でヴァイオリンの音に耳を傾けている人間なんていない。
そして、この僕も。
あの子が弾いていた音の方が心地がよかったから……
〜メーデー、メーデー〜
放課後の学校は好きだ。
うるさい草食動物達の声もなく、ただ静かな空間を作り出してくれる。
最終の見回りをしながらその静けさに身を預けていた。
けど、どこからか…いや、十中八九音楽室から楽器の音が聞こえる。
もうとっくに吹奏楽部の活動時間は終わったはず……
誰か残って練習しているんだろう、と思い、早く帰るように注意するために音楽室へ向かう。
しかし次第にはっきりと聞こえてくる音に思わず眉を顰めた。
この音は…ヴァイオリン……
並中の吹奏楽部にはヴァイオリンを弾く人間なんていないはずなのに。
僕は気配を消して音楽室のドアに近づく。もしかしたらただの侵入者かもしれないからね。
誰かは知らないけど…音だけはすごく綺麗だ。
咬み殺すには惜しいくらい。
ずっと聞いていたい、と思う気持ちに首を振ってドアの影からその人物を見る。
「……!」
あの時の…女の子。
確か名前は…姫。
姫は流れるような手つきで弦を押さえ、美しい音を奏でていく。
その表情はとても楽しそうで…ヴァイオリンを弾くのが好きで好きで仕方ない、という顔だった。
その表情を見て、自然と納得したよ。
どうして…こんなにも引き込まれるような音が出せるのかね。
しばらくその音に耳を傾けていると最後の一音が奏でられ、心地よい余韻が残る。
僕は軽く拍手を送ると姫はやっと僕に気づいたのか目を丸くしていた。
「素晴らしかったよ」
「…ありがとうございます」
この間殴ったことを気にしているのか、姫は僕から目を逸らす。
そんな態度をとられるとこっちまでなんだか気まずく思ってしまって、僕らしくもなく目を逸らすと自然に沈黙がおりる。
「…もう一回、」
「え…?」
「もう一回、弾いてくれない?」
突然の言葉に姫が動揺しているのが気配でわかった。
気まずかったからそう言ったわけじゃない。
もう少しだけ……聞いていたいと思ったから。
僕は姫の返事も聞かず、近くにあった椅子に腰掛けると無言で目を瞑った。
「…じゃあ…同じ曲を」
僕の突然のリクエストに驚いていたのか動揺するような気配がしたけれど、そう言って姫は柔らかい音を奏でていく。
子守唄のように優しく、
時には喜びを表すように激しく、
様々な色で音を彩った。
静かに曲が終わると僕はその余韻に合わせてゆっくり目を開く。
(無意識に穏やかな笑みを浮かべて…)
「本当に上手だね」
「ありがとうございます。……あ、の」
「…?何?」
僕が首を傾げればなぜか姫はせわしなく目を泳がせて口籠もる。
あ、だの、えっと、だの繰り返したかと思うと、一息ついて真っ直ぐな瞳で僕を見つめてきた。
「この間は…殴ってしまってごめんなさい…!
私…雲雀さんのこと、誤解していました。
噂みたいに乱暴で自己中心的な人だと……
…でも…本当は、優しいところもあるんですね」
にこり、と。
姫は優しく微笑んでくれた。
乱暴で自己中心的な人間であることは僕も否定しないんだけど……
今の僕はただ、顔が赤くなってしまうのを抑えることしかできなかった。
(彼女の笑顔を、初めて見れたから……)
奏でるヴァイオリンに惹かれて
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