人より少し不器用だから



「いったーい!」

「我慢しろ」

「無理…っ、痛っ!死ぬ!痛くて死ぬー!」

「ふふ」

「ローっ、絶対楽しんでるでしょ!?」




このドSがー!と叫んだ女の子に最高の誉め言葉だな、と嬉しそうに笑う男の子が木の下で座っていた。
男の子、ローの手には清潔感漂う真っ白なガーゼに消毒液があり、その目的は女の子、姫の怪我の手当てだった。
しかし、ローの性格故か本来なら少量でいいはずの消毒液をどばどばとかけて姫が痛がる姿を見て楽しんでいる。

これは根っからのSだ。

姫が痛い痛いを繰り返しているうちにローは手早く包帯を巻き付け、手当てを終わらせた。




「…痛い…」

「自業自得だ。あの木には登るなって言っただろ?」

「…そんなのしらないもーいたたたっ!ごめん!知ってた!聞いてたから手離して!」

「ふふ、そう言われると離したくなくなるな」

「このドSっ…!」




わざわざ怪我した方掴むな!と言われ、ローは仕方なく手を離した。
これ以上怪我が酷くなっても困る、と。
姫はこの島で大人達やロー達に登ってはいけないと言われ続けてきた木に好奇心に負けて登ってしまったのだ。
途中でローに見つかり、すぐに降りてくるように言われ慌てて降りようとすれば、今の状況から察せられるように足を滑らせ枝で腕を切ってしまったのだった。
滑り落ちて他に怪我がないのは落下した時しっかりとローが受け止めてくれたからなので姫は内心感謝しているのだが如何せんローが意地悪してくるので未だ素直にお礼を言えてない。




「もう登るなよ?」

「…えー…」

「もう一度掴まれたいか」

「ちょ、待った!……、」




慌てて腕を庇ったが、姫はどうしても登らない、と約束したくなくて困ったように目を泳がせる。
ローはその様子をじっと見つめていたが、やがて諦めたようにハァ、と溜息をついた。
ローは知っていた。姫はあぁ見えて頑固者だということに。




「何であの木に登ったんだ?」

「…海が、……海が、一番見渡せる場所、だから…」

「…成る程な」




ここは岬に近い場所。つまり、海に近い場所でもあった。
姫は昔から海が大好きで大好きで仕方なかった。
いつかあの海に出られれば、と夢見るが姫は女の子で戦う時どうしても男には力負けしてしまう。
そんな女の子が運良く出れても途中で野垂れ死ぬのがおちだ。
その現実をわかっているからこそ姫はただ海を眺めるだけなのだ。
ローは落ち込む姫の頭を優しく撫でて突然姫を俵のように抱き抱える。




「ちょっ、苦しっ、お腹が苦しいんだけどー!」

「ちゃんと掴まってろよ」

「掴まるってどこ、っぎゃあああっ!」

「…ほら」




突然の浮遊感に固く目を瞑っていれば何かの上に座らせられる。
いや、この感触は姫にも心当たりがあり、ゆっくり目を開ければ…大好きな光景が広がった。




「ロー、木!」

「オレと一緒なら許可してもいい」

「…っ、ありが、とう…!」



ちょっとだけ恥ずかしくて小さな声になってしまったがローはフフ、と笑っただけで何も言わなかった。



人より少し不器用だから

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