ずっと夢だったから



唇が離れるとローはぎゅうっと息苦しいくらい強く姫の体を抱き締めた。
姫は自分の好きな人にキスされ、抱き締められて頭は既にショート寸前。
しかし、それでも意識がはっきりしているのは…ローの様子がどことなく変だから。

あの、いきなり抱き締めにきたあの日みたいに。




「…ロー…?」

「…っ、姫、…姫っ」

「どうしたの?何かあったの?私なら、大丈夫だよ…?」

「っ、」




もう一度ぎゅっと抱き締めるとローは体を離し、再び姫を見つめる。
姫は何故かその瞳に嫌な予感がしてローから何かを言うのを待った。

しばらく無言が続いたが、意を決したようにローは口を開く。




「数週間後、オレは海に出る」

「……!」

「ベポやシャチ、ペンギンも一緒だ」

「そ、っか…」

「けど…っ」

「私は連れていけない、でしょ?」

「……っ、悪りぃ」



悲しげに目を伏せるローに苦笑して、努めて明るく笑いながら視線を星に向けた。

…そうでないと、泣いてしまいそうだったから。

ロー達が自分だけを仲間外れにしたわけじゃないことくらい、長年一緒にいた姫はわかっている。
ロー達は心配性だから誤って能力者になってしまった自分に危険が及んでほしくないから敢えてこの平和な街に残していくことくらい、理解していた。
…でも、いくら頭で理解はしていても心は納得していなかった。

何があってもずっと一緒だった。

遊ぶ時も怒られる時もずっと…ずっと一緒だった。
だから、今回も一緒に行きたい。そう心は叫ぶが口に出すことは躊躇われた。
…ロー達の気持ちを何より無駄にしたくなかったから。




「謝らないで!でもそっか!ついに海に出るんだね!」

「…あぁ」

「“ワンピース”を見つけて海賊王になる。…それが小さい頃からのローの夢だもんね!」

「あぁ…」

「ふふ、きっとローなら見つけられるよ!」

「姫、」

「ん?」

「……、…ありがとな」



ずっと夢だったから
(知ってるよ。だから、止めない)

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