本音
「……悟?」

 店を出てから、無言でしばらく歩き続ける悟を不思議に思い呼びかけるも、まったく反応がなかった。
 その姿は怒っているように見え、相変わらず立ち止まらず腕を引いたまま歩き続ける悟に、今度は不安が募ってきた。

「…はぁ」

 その状況がしばらく続いて声を掛けることも諦めていると、漸く立ち止まった悟は今度は寛大に溜息を吐いた。

「名前はさ、僕をどうしたいわけ?」
「え?どうしたいって…」

 掴まれていた腕が開放されたかと思えば、突然と振り返った悟の責め立てるような声に戸惑う。

「酔っ払って自分から"抱いて"と言っておきながら忘れろと言ったり、僕に気があるようなこと言ったかと思えばイタリアンなんかで合コンして口説かれて、」

 "人の気持ち弄ぶのも大概にしろよ"

 そんな言葉が耳に流れ込んだ時、腕を引かれてふわりと温かいものに包まれていた。

「……悟?」

 それが悟に抱きしめられているのだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。

「忘れられるわけないだろ」
「っ………」
「無かったことに出来るわけないだろ」

 その言葉が何を差しているか理解した私は、ドキドキと伝わってくる自分のではない鼓動に、何故だか分からないけど涙が込み上げてきて。

「好きで好きで仕方ないのに、どうやって全部無かったことに出来るってんだよ」

 その言葉に、込み上げていた涙はついに零れ落ちた。

「悟、」
「それになんなんだよ、あんな男にヘラヘラ笑って」
「ちょっと、悟?」
「誰にも渡したくないよ、お前のこと」
「分かった、分かったから」

 苦しくなるくらいにぎゅうっと抱きしめる悟の背中をポンポンと叩けば、漸く身体を離してくれた悟と視線がカチ合う。

「……本当に?」
「うん、本当」
「本当の本当に?」
「何度言わせんの。渾身の愛の告白なんですけど」
「ぷ、ふふ」

 場を和ますようないつもの口振りに、なんだか可笑しくなって笑いが込み上げてきた。

「酷いなー名前は。人が真剣に告ってんのに笑うなんて」
「ごめん、いつもの悟だーって思って可笑しくなっちゃった」

 ふふふと笑っていると、再びぎゅうっと抱きしめられた。

「僕の愛は受け取ってくれますか?」

 耳元で艶っぽく囁かれた言葉に、ゾクっと

「……いいえと言ったら?」
「言わせねぇよ」

 揶揄うように言った余裕ある名前の唇を、あっという間に塞いでやった。これはもう、同じ気持ちだと言っているようなものだったから。

「私も好き、悟が好き」

 しばらくして唇を離し、漸く素直になった名前の唇をもう一度塞いだ。