STAGE.15
「ア〜、気持ち悪いヨ」
「ヴェ〜‥‥」
逆さ吊りの状態から開放された銀さん達は地面に寝転び、苦痛な叫びをあげていた。
そんな三人に冷たい水を用意し、団扇で扇ぐ。
「本来ならてめーら叩っ斬ってやるとこだが、生憎てめーらみてーのに関わってる程、今は俺達も暇じゃねーんだ。消えろや」
後ろから近づいてきた土方さんが万事屋一行に対して吐き捨てた。
確かに今はそれどころじゃないけど、その言葉に食い付いた銀さんと神楽ちゃんはニヤリと笑った。
「あァ、幽霊恐くてもうな〜んにも手につかねーってか」
「かわいそーアルな。トイレ一緒に付いてってあげようか?」
「武士を愚弄するかァァァ!」
二人の言葉に対してか、怒りを露に近藤さんが身を乗り出した。
「トイレの前までお願いします!」
「お願いすんのかィィ!」
『‥‥‥‥』
さっきから我慢していたという近藤さんは尊厳なんてものは無視して、神楽ちゃんに連れられてトイレへと行ってしまった。
「ハァ‥‥てめーら、頼むからこの事は他言しねーでくれ。頭下げっから」
銀さんたちに向き直った土方さんが、溜め息混じりに頼んでいる。
まぁ、真選組局長が幽霊が怖くてトイレに行けないというのはいかがなものかと。
「何か相当大変みたいですね。大丈夫なんですか?」
「情けねーよ、まさか幽霊騒ぎごときで隊がここまで乱れちまうとは」
新八くんの言葉に、土方さんが珍しく弱気な発言をする。
「相手に実態があるなら刀で何とでもするが、“無し”ときちゃァこっちもどう出ればいいのか皆目見当もつかねェ」
「え、何?おたく幽霊なんて信じてるの?イテテテテテ、痛いよぅ!お母さーん、ここに頭怪我した人がいるよぅ!」
「お前いつか殺してやるからな」
左手を押さえ痛がるそぶりを見せる銀さんに、土方さんがキレる。
「まさか土方さんも見たんですかィ?赤い着物の女」
「分からねェ‥‥だが妙なモンの気配は感じた。ありゃたぶん人間じゃねェ」
「「イテテテテテ、痛い、痛いよぅ!お父さーん!」」
「!」
「絆創膏持ってきてー!できるだけ大きな、人一人包み込めるくらいのぉ!」
「おめーら、打ち合わせでもしたのか」
銀さんと同じポーズで痛がるそぶりを見せる総悟。
何故か息が合っていることに、土方さんがツッコミを入れる。
「たしか先日の夜、土方さん屯所の塀に何かを見つけてましたね」
「てめーらは気づかなかったようだがな。何かが居たのは間違いねェ」
「「「イテテテテテ、痛い、痛いよぅ!お姉ちゃーん!」」」
「!」
「絆創膏じゃ足りないのー!救急車呼んで病院連れてってー!」
「だから、おめーら打ち合わせでもしたのか」
最後に名無しくんまで加わって同じポーズで叫んでいる。
何なんだ、お前たち。
「赤い着物の女か‥‥たしか、そんな怪談ありましたね」
『何か知ってるの?新八くん』
私の質問に頷いた新八くんは、通っていた寺子屋で流行ったという怪談話を話し始めた。
それは、先日の稲山さんの話と酷似していた。
「もう誰もいないはずの校舎に、赤い着物を着た女がいるんだって‥‥それで、何してんだって聞くとね‥‥」
ゴクリ、と息を呑んだ。
その時だった、
「ぎゃあァァァァァ!!」
近藤さんの悲鳴が聞こえたのは。