STAGE.15
コポポポポポ
お盆の上に置かれた数個の湯呑へとお茶を注ぎながら、その湯気を何気なしに見つめていると、誰かの気配が近づいてきた。
「疲れてますね、姉上」
一人だと思っていた台所の中で弟の声が聞こえて、顔を上げる。
その言葉に、笑顔を作って首を横に振ると、名無しくんが私の顔に手を当ててきた。
「先日の夜から何人も寝込んでしまっていますからね。看病で大変でしょう」
『そんなこと言ってられないよ。皆が苦しんでる時に』
あの叫び声が聞こえた夜から、隊士はすでに18人も寝込んでしまっていた。
しかも皆、うわ言のように「赤い着物を着た女」と言っていて、まさしく稲山さんが話していた怪談と一致している。
そのせいで霊の仕業かもしれないという噂もあり、原因不明の病は回復の糸口を見つけられずに皆を苦しませた。
『今回の件、本当に霊が原因なのかなァ?』
「どうですかね。近藤さんはこの屯所に霊が取り憑いていると言って、街の拝み屋を呼んだみたいですが」
『拝み屋?』
「えぇ、さっき山崎が連れてきて客間に案内してましたよ」
『あ、だからお茶頼まれたのか』
お客様が来るから数人分のお茶を用意してほしいと、先ほど近藤さんに呼び止められた。
その拝み屋という人たちに霊を祓ってもらうことで、皆が早く元気になればいいな。
そう考えながら客間へ到着したとき、
『‥‥‥‥』
「‥‥‥‥」
何故か庭の木に逆さ吊りされた万事屋メンバーがいました。
「悪気はなかったんです‥‥、仕事もなかったんです‥‥」
逆さ吊り状態で誰かが弱々しく呟いた。
あ、新八くんか。
どうやらオバケ退治で一儲けしようと企んでいた万事屋一行に制裁中らしい。
三人の真ん中に吊るされていた銀さんの鼻目掛けて、総悟が持っていたコーラをドバドバとかけている。
それに参戦して名無しくんも持ってきたお茶をかけている。
何て惨いんだ、お前たち。
『何やってるんですか、皆して』
近づいて声を掛けると、吊るされている三人は私を凝視した。
「名無しさんじゃねーか!ちょ、おま、助けっ!」
「名無しさん、アタシ頭爆発しそう、バーンて。助けて」
「すみません、名無しさんさん‥‥どうかお願いします」
急に皆から助けを乞われて戸惑ったけど、さすがに夏の暑い中このままの状態は可哀相過ぎる。
そう思って総悟と名無しくんに視線を向けると、渋々とだけど三人を降ろし始めてくれた。