STAGE.1

STAGE.5

「悪かったな、色々と付き合わせちまって」


病院からの帰り道、隣を歩く銀さんが、そう話し掛けてきた。
悪いと思ってたのか。
ちょっと驚きつつも、私は首を横に振った。


『いいえ、おかげと言ったら変ですけど、素敵な経験ができました』


おじいさんの最後の笑顔。
自分が何かした訳でもないのに、それを見れただけで、ただ単純に嬉しかった。


『万事屋って、良いお仕事ですね』


人の役に立ってなんぼ、と言う銀さんの言葉じゃないけど、依頼人の笑顔が見れる素敵な仕事。
もちろん、真選組の仕事が悪いって訳じゃなくて、それぞれに充足感があると思う。


『‥‥‥‥?』


そんな事を考えながら歩いていると、隣に居たはずの銀さんが数歩後で立ち止まっていることに気付いた。

『どうしたんですか?』と声を掛けると、慌てた様子で「銀さんそんなんじゃないからね」なんて言っているけど、

全然意味分かんねーよ。

首をかしげて、とくに気にすることもなくそのまま歩き続けた。

しばらくすると、分かれ道に差し掛かる。


『あの、私こっちなので‥‥』


屯所へと続く道を指さして自分の帰る道を示す。
別れを告げると、「気をつけて」と新八くんや神楽ちゃんが手を振ってくれた。

軽くお辞儀をして、皆とは別の道へ私は歩き出したところ。


「名無しさん」


後ろから名前を呼ばれた。


『銀さん‥‥?』


(私の名前――‥)


覚えているとは思わなかったから、名前を呼ばれて少し驚いた。
なんだか面倒くさそうに近づいてきているけど、その手には何か握られていた。

差し出してきた“それ”には見覚えがあって‥‥


『ハンカチ‥‥?』


いつか、私が銀さんに渡した無地のハンカチ。

律儀に持っていたことも、綺麗に洗われていたことも、何より、渡した相手が私だと覚えていたことの全部に驚きだ。
返すつもりなのか、と目線を向けても、夕日に照らされて銀さんの表情は読めない。

でも、


『持っててください』

「‥‥?」

『今度は忘れないでくださいね』


そう、笑顔で言ってみる。

きっと銀さんは困惑しているかもしれないけど、また忘れられるのは癪だしね。ハンカチを持っていることで覚えているかもしれないし。

期待、ではなく意地悪として。


「ちょ、待っ‥‥」


制止する銀さんの言葉が聞こえたけど、聞こえないフリをして、そのまま踵を返した。

素敵な出来事。
素敵な人たち。

そんな、暖かい感情が私の胸を満たして、足取りは軽く屯所への帰路につきました。




って、優雅に終わっている場合じゃない!
戻るのが遅くなるって、屯所に連絡してないし!

最悪の状況を思い出して、私は走り急いだ。

着いた先で待ち構えていたのは、鬼の副長の説教、ではなく、


「お帰りなさい、姉上」


‥‥‥‥‥‥何でいるの?


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『いつの間に退院したの?』
「裏ワザを使って」
『何、裏ワザって』

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