STAGE.1

STAGE.28

それから、あの赤ん坊の母親であるお房さんは私達に色々と話をしてくれた。

若くして橋田屋の使用人となった彼女は、当主の息子である勘太郎さんのお世話をしており惹かれ合った二人は駆け落ちしたと。

けれど、慎ましくも幸せな生活はすぐに引き裂かれてしまい、病弱だった勘太郎さんが亡くなるまで会うことは叶わないまま。

堕胎を強要されたはずの二人の赤ん坊は、掌を返した当主によって跡取りとするため追っ手を差し向けられ、我が子だけでも助けたい一心で万事屋の前に置いていったのだと語られた。

「あなた達には、すまないことをしたと思っています。私の勝手な都合で、こんなことに巻き込んでしまって…」

ビル内を移動しながら彼女の話に耳を傾けていたけれど、こんな話を聞いたら何とかしたいと思うのが人というもので。隣を歩くお房さんの背中をそっと撫でながら私も力になろうと決意する。

『大丈夫です、私達は巻き込まれたなんて思ってませんから』

「…ありがとうございます」

そう話し掛けると、彼女は少しだけ笑いながら感謝の言葉を返してくれた。

「しかし、賀兵衛って野郎は、とんでもねェ下衆野郎らしい…」

「下衆はそこの女だ」

私達五人が何処かのフロアに出たところ、長谷川さんが発した言葉に対し刺すような声が降り掛かった。

橋のような一本の道を挟んで逆側の入口には大勢の浪士達を引き連れた橋田賀兵衛の姿があり、戸惑う私達の元にゆっくりと歩み寄ってくる。

「息子を殺したのは、そこの女だ」と冷たい台詞を吐きながら。

「勘太郎様は、あなたのそういうところを嫌っていました!何故そんなに、この店に執着するのですか?…お金ですか?権力ですか?」

汚いことにも手を染め、どんな手段を使っても橋田屋を護ってきたと言う橋田賀兵衛に、お房さんは声を荒げた。

しかし、その訴えは届くことはなく、主人は語った、一つの芸術品である橋田屋を美しくするためにはいくらでも汚れられると。

3/11
(107/115)
ALICE+