STAGE.1

STAGE.22

満月の夜。

町の喧騒から離れ、静かな趣がある料亭にて、その場の沈黙を破るように一人の男が重々しく口を開いた。


「奴がついに動く」


その男―警察庁長官 松平 片栗虎によって、集められた真選組の幹部三名は、かつてないほどの真剣な眼差しに息を飲み、静かに次の言葉を待つ。


「奴らの周りには、常に密偵(イヌ)が張っている…奴もそれに勘づいて、ナリを潜めていやがったが、我慢できずに動き出しやがった」


彼らの中心には、鉄板の上で何とも香ばしい香りを漂わせながら、もんじゃ焼きが焼かれている。
松平は煙草を一口吸うと、「なぁ、そうだろう」と自身のイヌをその場に呼びつけた。

「ハッ」と規律正しい返事と共に襖がスッと開かれ、恭しく頭を垂れながらイヌと呼ばれた少年―名無しくんが顔を覗かせる。


「明朝、奴は必ず動きます。手筈も全て指示通りに…」


突然、現れた人物に、近藤、土方、沖田の三名は僅かに驚きつつも、普段の名無しくんとは思えない神妙な面持ちと、松平の腹を切る覚悟で事に当たると言う言葉に、今回の任務の重要さを感じていた。

そして、大きく白い煙を吐いた松平は、サングラスの奥の瞳を光らせながら宣言する。


「決戦だよ。奴も、奴の企ても全て潰す」


その台詞に、上司の本気を汲み取った近藤は力強く頷いた。


「そうか。とっつぁんがそのつもりなら、俺達の命もアンタに預ける」


松平は、部下の言葉に満足気にフッと口角を上げると、「頼りにしてるぜ」と一言残し、その場を去って行った。
その後ろ姿を、真選組の四人は正座でお辞儀し見送ったが、顔を上げた近藤は確認事があると口を開いた。


「……奴って、誰かな?」

「知らねーのかよ!」

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