STAGE.24
『あ、お茶菓子なくなっちゃった』
近藤さんに頼まれ、お客様用にお茶とお菓子を台所で用意していたところ、今回の分で使い切らしてしまったようで、思わず呟いていた。
そこへ、名無しくんがひょっこり顔を出して。
「後で買いに行きますか?オレ付き合いますよ」
『名無しくん・・・うん、お願いしようかな』
私の言葉を聞いていたのか、弟の提案に有難く頷くと、お盆の上に用意していたお客様用のお茶とお菓子を名無しくんが持ち運ぼうとしていた。
「これ、オレが運んでもいいですか?」
『ん?いいけど、どうしたの?』
「やっぱ間近で生ける伝説とやらを見たいですしね」
『生ける伝説?』
お盆を持つ弟の隣で、客間へと続く廊下を歩きながら尋ねると、今日のお客様について、詳しく説明してくれた。
星海坊主と呼ばれるその人は、宇宙最強のえいりあんばすたーだと言う。数多の星を渡り、第一級危険生物を駆除する宇宙の掃除人。
そんな有名人が来ているのだから、せっかくなら会っておきたいと、お茶を出す係りを買って出たという訳だった。
「あ、でも姉上。その伝説の忠告だと、江戸にえいりあんが逃げ込んだらしいので、買出しはそれが解決してから迎えに行きますね」
『あ、うん。そうだね』
逃げた“えいりあん”がどれだけ恐ろしいものかは分からないけど、危険が伴う外出は控えた方が良さそうだった。
そんな話をしながら、客間に到着すると、「失礼しまーす」と躊躇することなく、中へと入っていく名無しくん。
何も持たない私が入るのも変かな、と思い、入口の前で引こうとしたところ、襖の隙間から見えた、マントに包まれたその生きる伝説は、只ならぬ雰囲気を醸し出しているようだった。