It's a Rainy Day
とうとう怒りがMAXに達した私は二人を思いっきり殴ってやった。
ズシャアァという音と共に、雨の泥水に塗れながら地面に転がる男たち。
不意打ちだったこともあってか、かなりの勢いで飛んでいった。
いい気味だ。
そう心の中でほくそ笑み、地面に落ちた傘を取り上げようとした、瞬間、
キキーッ!
ドガッシャァァン!!
『‥‥‥‥』
大変なことが起こりました。
活字ではとても表しにくいのですが、一言で言うと、地面に転がっていた坂田さんと土方さんが車に轢かれました。
しかも、勢いよく突っ込んできたその車は「真選組」と大きく書かれたパトカーで。
助手席の窓が開いて顔を覗かせた人物は、
「名無しさんじゃねーかィ」
『‥‥沖田さん』
つか、何上司を轢いてんだこの人。
完璧ギャグじゃなかったら死んでるって。
そんな目の前の惨劇に青筋を浮かべている私とは対照的に、平然とした表情のまま前方を一瞥しただけの沖田さん。
そして私に視線を移して、簡潔に命令を下す。
「乗りなせぇ」
『え゛‥‥』
あ、ヤバイ。
明からさまに嫌な声を出してしまった。
「‥‥‥‥」
『いやいやいや!乗ります!乗らせていただきます!』
一瞬、氷のような殺気を感じた私は慌てて車に乗り込んだ。
きっと反抗したら殺される。
雨の中を歩いて帰らずに済んだのはいいけど、結局、今日も真選組でご飯を作る羽目になるのか。
ハァと小さいため息を漏らした時、運転席にいた山崎さんが声を掛けてきた。
「急に雨が降り出したけど、名無しさんちゃん濡れなかった?」
『あ、はい大丈夫です。雨宿りしてましたから』
「そう良かった。隊長ったら雨が降り出した途端に車出せって言うから、何事かと思ったけど、こういうこ」
――――バキャッ!!
『‥‥‥‥』
最後まで言葉を聞く前に、左側から伸びた手が山崎さんの頭を掴んで運転席側の窓に叩きつけた。
窓ガラスは大破し、その破片が刺さった山崎さんの頭からはドクドクと血が流れ出ている。
だからギャグじゃなかったら死んでるって。
「ハ、ハハ―――‥」
引きつった笑い声を漏らしながら車を走らせた山崎さん。もちろん窓ガラスが割れてしまっているから、雨が入り込んでめっちゃ濡れていってる。
哀れすぎる。
同情の念を送りつつ、やはり助手席に座る王子には逆らわずに大人しくしていようと、私は密かに心の中で誓った。
すると、その助手席から何か白いものが投げられ、それは私の膝の上に落ちた。
『‥‥何ですかコレ?』
質問に対しての返答はなかったけど、白く柔らかいそれは、ふかふかのタオル。
『‥‥‥‥(これは拭けってことでいいのかな?)』
思いがけない行動に内心驚いた。
それに、さっきの山崎さんの話。
もしかして、迎えに来てくれたのかな―――‥?
そういえば、坂田さんや土方さんもせっかく送ってくれるって言ってくれたのに、酷いことしちゃったな。
今度、会ったら(会えたら)お礼を言おう。
そうボンヤリと考えながら、車の窓から見上げた空は相変わらずの雨模様。
けれど、きっと晴れたら空には綺麗な虹がかかるだろう。
それは、ある日の出来事。
It's a Rainy Day.
大切な君が濡れないように