A HAPPY NEW YEAR
『明けましておめでとうございます』
元旦の清々しい朝日が真選組屯所を照らす中、大広間に集まった隊士たちへ新年の挨拶を行うと、
皆から「おめでとう」という言葉が返ってきた。
新しい一年がこれから始まろうとしているだけで、何だかワクワクしてくる。
女中である私はそんなことを考えていたけど、警察に正月なんてのは関係なく、
大広間に集まった後は各々持ち場を確認しつつ、巡回へと繰り出していくのだった。
「じゃあ、後のことはよろしく頼むよ」
『はい、お気をつけて』
最後に近藤さんが玄関を出て行った後、パトカーがすべて出発するまで屯所前で見送った。
せっかくのお正月なのに、一人はさすがに切ないな。
そう思ったけど、他の女中さんたちは皆実家へ帰省中だし、初詣になんて誘えそうな人はいない。
しばらく思索した結果、やはり一人でも初詣に出掛けようと、私は部屋へと戻って支度を始めた。
◆◇◆
『うーわー、ホントに人でいっぱい』
元日の昼間だということもあってか、江戸で一番大きな神社には予想以上の人々でごったがえしていた。
こんな中で参拝はできるのかと不安になったけど、このまま引き返す訳にはいかない。
妙な使命感と誇りを胸に、大きな一歩を踏み出した時だった、
『きゃっ!』
後ろから団体客が押しかけてきたのか、新年の一歩目はもろくも崩れ去り、
私は盛大にコケてしまった。(はたから見たらだいぶ情けない格好だったと思う)
しかも、膝から石の階段にダイブしてしまったため、地味に痛い。
虚しい感情が胸を締め付けたが、誰にもぶつけられないこの思いを独り噛み締めるしかなかった。
やっぱり、
一人で来るんじゃなかったかも。
いやいや、そんなネガティブな感情はいらない。
新年を祝う気持ちが台無しだ。
思い直してすくっと私は立ち上がった。
そして果敢にも参拝者がひしめく人混みの中へと再突入を図る。
たとえ押し返されても、めげずに何度も挑戦した。
「‥‥なーにやってんでィ」
と、遠くで見ていた幼なじみが呟いていたことも知らずに。