喩えるならキスできそうな距離
結果、しばらく待機するということになったのだが…
『…暑い』
「あ゛?」
夏の蒸し返すような暑さ。
狭い空間。
密着する身体。
『暑い暑い暑いー!』
「黙りやがれっ!余計、暑くなるだろうがっ!」
押入れの中は既にサウナ状態。
二人は汗をポタポタと滴らせながら、その暑さと必死に闘い続けていた。
そんな中。
「オイ、何してんだテメェ」
『何って、服脱いでます』
あまりの暑さに我慢できないと身に纏った制服を脱ぎ始めてしまった名前。
シュルリとスカーフを外し、「待て」という土方の静止の言葉も聞かずに 器用に上着も脱ぎ捨て、あろうことかワイシャツのボタンまで外しにかかった。
「…待てっつってんだろうが!どこまで脱ぐ気だ、貴様!」
『えー?どうせ暗くて見えないでしょー?』
「そーいう問題じゃねーよ!」
『どーいう問題なんですか。…てか、土方さんも脱げば、おあいこじゃないですかァ』
道連れだとばかりに名前はそう言うと、グイッと土方のスカーフを引っ張り、その反動で向き合っていた顔が一気に近付く。
「ーーッ!」
その拍子、額と鼻先が微かに触れて、目の前数センチの距離に互いの顔が。
普通、女子がそんな状況に陥った場合、咄嗟に離れたり恥ずかしがるものだと思うが、真選組三番隊隊長 苗字 名前は気にした様子はなく土方のスカーフをせっせと引き抜きに掛かっている。
それが、何故か癪に触った。
男として意識されていないようで。
「……」
普段なら、そんなことは気にしないはずなのに、暑さのせいで妙な考えが芽生えたのかもしれない。
少し驚かせてやろう、とか。
どういう反応をするのか、とか。
好奇心という名の出来心。
『んーー…』
土方は、数センチの距離を縮めて、その唇を塞いでいた。