喩えるならキスできそうな距離
ことの始まりは屯所内での幽霊騒動。
変装した万事屋一行まで現れ、近藤さんも他隊士と同様、赤い着物の女性の幽霊か来るとうなされ寝込んでしまった。
そして生き残った(?)人物が一つの部屋に集まっていたところ。
見てしまったのだ。
その幽霊を。
『ーーで、こんな所に逃げ込んじゃったと』
「逃げてねーよ!これはアレだ、マヨネーズ王国の入口をだな…」
『ソレもーいいですって。それより、早く出て行ってくださいよォ、私はここに隠れてますから』
「てめー何一人だけ助かろうとしてんだ。それでも警察か」
『土方さんだって警察じゃないですか。それに、こんな狭い所に大人二人でいるってのは…』
無理がある。
幽霊が現れ、土方と名前が咄嗟に逃げ込んだ先は、狭い押入れの中。
他の連中は部屋を出て行ったようだが、その後どうなったかまでは分からない。
しかし今、解決すべきはこの状況であって。
壁を背に体操座りの名前の前に、その身体を挟んで両サイドの床に手をついて、まるでキスを迫っているような体勢の土方。
吐息が聞こえそうなほどの距離に互いの顔があり、全身の半分くらいは相手と密着している。
しかも薄暗い密室で。
そんな状況を長時間続ける訳にもいかず。
『じゃあ私がダッシュで出て行きますから、すぐ襖は閉めてくださいね。…あと、骨は拾ってください』
意を決し脱出を試みようと名前が襖に手を掛けたが、ガッと恐ろしい勢いで手首を掴まれた。
「まままま待てっ、早まるな!」
『えー?もー何なんですかー?』
「いたらどうすんの?!開けた途端にヤツの顔があったらどうすんのー?!」
ものっそい焦った表情で襖を開くことを阻止しようとする土方に、呆れた視線を送った名前だったが、確かに隙間から幽霊に覗かれたら怖い。
そう思うと、出した手を引っ込めるしかなかった。
「とりあえず作戦を練ろう!なっ?なっ?」
『何ですか作戦って…』