君のキスはいつも短い
朝。
まだ日は登りきらずに、空は白むなか。
真選組の任務はすでに始まっていた。
建物と建物の間。
息を潜め、少し離れた位置にある目的の部屋を凝視する人物がひとり。
寝ぼけ眼をこすり必死で眠気と闘いながら、ゴソリと取り出した双眼鏡で覗く先には一室の窓。
しばらく中の様子を伺っていたが、残念ながら動きはない。
「あー…こんな何時間も見張りとか…」
その人物ーー土方はポツリと掠れた声で呟くと同時に大きく溜め息をついた。
この一ヶ月、追ってきた過激派攘夷浪士が出入りしているという部屋。
その動向を掴むことでアジトを突き止める手筈だが、こうして張り込みを続けても、なかなか相手は尻尾を出さない。
進まない捜査に苛立つ気持ちを抑えつつ、ただひたすらに土方の双眸はその部屋を捉えていた。
が。
そんな時に限って、邪魔というのは入るもので。
『土方さーん、来ましたよー』
「……」
振り返った先に現れたのは、尽きない悩みの種である真選組三番隊隊長 苗字 名前。
土方は苦々しい視線を送りつつも、持っていた双眼鏡を差し出し。
「交代の時間か」
これで、ゆっくり休める。
そう考えながら、寄りかかっていたゴミ置き場のカゴから立ち上がり、その場を去ろうとした。
が。
部下は何故か双眼鏡を受け取らずに、己の横にピタリと引っ付いてきて。
「……何してんだ、てめー」
『えー寒いですし、一人で張り込みするのは寂しいじゃないですかー』
「ッざっけんな!俺ぁ帰って寝てーんだよっ!」
昨夜から寝ずの番で、さすがに疲労困憊だ。
これ以上、誰かの任務に付き合わされるなんて冗談じゃないと、その手を振り払おうと試みるが、正論が通じる相手でもなく。