STAGE.1

君のキスはいつも短い

『えーヤダヤダ、置いてかないでくださーい』


と、子どものように駄々をこねながら、土方の左手を両腕で巻き込むようにして、しっかりと掴んで離さない。
おまけに、肩口に頬を擦り寄せてきて。


『土方さん、温かいから一緒にいて欲しいです』

「ーーッ!」


そんな風に懇願されて、断れる訳もなく。
土方はハァと盛大に溜め息をこぼしながら、ガシガシと頭を掻いた。

いや、これに深い意味が無いことも理解している。
本当に、ただホッカイロ的な役割を求めての一言だと。

けれど、左腕に感じる温もりを無下に手放せないことも事実で。

完全にほだされた感が否めないが、鬼の副長は「少しだけだからな」と付け足した上で、しばらくは部下と一緒に見張ることにした。

そうして、腕は掴まれ寄り添われたまま張り込みは続いていた、が。

ものの数分が経過した後、妙に静かな隣から聞こえてきたのは規則正しい寝息で。


「…………」


あまりの出来事に、土方はヒクリと頬を引き吊らせた。

まさか、この状況で寝るって。

ブチッと何かの線が切れる音が脳内で響く。

右手で名前の顎をグイと掴み上げ、その反動で彼女の瞳は驚いて見開くが、構うことなく青筋を浮かべながら瞳孔が開いた眼で睨み付けた。


「オイ苗字、なに任務中に寝てんだテメェ」

『ふぇ?私、寝ちゃってました?』

「あぁ、そりゃ気持ち良さそうになぁ」


見張り交替で帰ろうとしていた上司を引き止めたあげくに、自分は惰眠むさぼるとは、どういう了見だと詰め寄る。
つか、眠いから付き合わせたとしか思えない。


『だって、朝早く起きたから眠いんですよー』

「こっちは徹夜してんだよッ!」


どこまでも非礼な部下の行いに怒りは増す一方で、残念ながら収まりそうにない。

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