君のキスはいつも短い
『えーヤダヤダ、置いてかないでくださーい』
と、子どものように駄々をこねながら、土方の左手を両腕で巻き込むようにして、しっかりと掴んで離さない。
おまけに、肩口に頬を擦り寄せてきて。
『土方さん、温かいから一緒にいて欲しいです』
「ーーッ!」
そんな風に懇願されて、断れる訳もなく。
土方はハァと盛大に溜め息をこぼしながら、ガシガシと頭を掻いた。
いや、これに深い意味が無いことも理解している。
本当に、ただホッカイロ的な役割を求めての一言だと。
けれど、左腕に感じる温もりを無下に手放せないことも事実で。
完全にほだされた感が否めないが、鬼の副長は「少しだけだからな」と付け足した上で、しばらくは部下と一緒に見張ることにした。
そうして、腕は掴まれ寄り添われたまま張り込みは続いていた、が。
ものの数分が経過した後、妙に静かな隣から聞こえてきたのは規則正しい寝息で。
「…………」
あまりの出来事に、土方はヒクリと頬を引き吊らせた。
まさか、この状況で寝るって。
ブチッと何かの線が切れる音が脳内で響く。
右手で名前の顎をグイと掴み上げ、その反動で彼女の瞳は驚いて見開くが、構うことなく青筋を浮かべながら瞳孔が開いた眼で睨み付けた。
「オイ苗字、なに任務中に寝てんだテメェ」
『ふぇ?私、寝ちゃってました?』
「あぁ、そりゃ気持ち良さそうになぁ」
見張り交替で帰ろうとしていた上司を引き止めたあげくに、自分は惰眠むさぼるとは、どういう了見だと詰め寄る。
つか、眠いから付き合わせたとしか思えない。
『だって、朝早く起きたから眠いんですよー』
「こっちは徹夜してんだよッ!」
どこまでも非礼な部下の行いに怒りは増す一方で、残念ながら収まりそうにない。