犯したキスの数だけ
──── ガタッ
ふいに物音が聞こえ、眠りについていた意識が覚醒する。
深夜の屯所。
誰かが自室に入ってきた。
瞼は閉じたままだったが、布団に横たわる己に近づく気配に、さすがに無視もできずガッと相手の顎を掴む。
「なに、血の匂いを充満させたまま、抱きついてきてんでィ」
『あ…総悟…』
自身に覆い被さってきた、その人物
─── 苗字 名前は、虚ろな表情で己の名前を呼んだ。
そして、薄暗闇に慣れてきた沖田の双眸に映るは、赤黒い血に染まった彼女の顔と髪。
勢いで掴んだ己の手の指先にも、血が滑っている。
「…何やってんでィ」
『……』
呆れたように沖田は呟くが、名前は何も答えない。
仕方なく上半身を起こし、覆い被さっていた身体を引き剥がすが、彼女はそこから動く気配もなかった。
「……」
名前自身の血ではなく、恐らく返り血。
その状況から、人を斬ってきたことは間違いない。
しかも、この憔悴ぶりから察するに、恐らく仲間の粛清。
だからこそ、人肌を求めて血を拭う間もなく沖田の部屋を訪れたのだろうが、さすがに隊服までベットリと着いた血液の匂いは気持ちいいものではなかった。
「とりあえず、ソレ何とかしろィ」
『あ…』
深夜に起こされたあげく、こんな面倒を見るなんて不本意極まりないが、黙ったままの名前に痺れを切らし、沖田はその腕を掴んで強引に立ち上がらせる。
そして部屋を出ると、ある場所を目指した。