犯したキスの数だけ
「入ってきなせェ」
名前の手を引いて連れてきたのは屯所内の風呂場。
血を流すには当然の場所なのだが、名前は扉の前に立ち尽くしたまま、また動こうとせずに。
「…勝手にしろィ」
そんな様子に沖田は呆れ果て、これ以上の面倒は見きれないと背を向け、その場を去ろうとした。
が、咄嗟に着流しの袖口を掴まれ、強い力で引き戻される。
『い…行かないで…』
震えながら小さく懇願する声。
独りにしないで、と紡がれた。
彼女は、自身に何を求めているのだろうか。
優しく慰めてやるとでも思っているのだろうか。
「……」
それならば、求める相手を間違っている。
沖田はしばらく無言でいたが、ゆっくり振り返ると鋭く赤光る瞳で彼女を見据えた。
そして。
──── ガタンッ
『…ッ!』
脱衣所の中へ乱暴に連れ込み鍵をかけると、名前を壁際に追い詰め、顔の横の壁を叩きつけるように手を置いた。
バンッと激しい音に名前もさすがにビクリと身体を震わせるが、それ以上に、目の前で睨み付けてくる沖田の双眸は怒りを露にしたようで恐ろしかった。
『何で…』
そんなに怒っているのだろう。
名前が続けようとした言葉は、荒々しく唇を塞がれたことで消えてしまう。
『ん
──── …』
それから、角度をつけて深く深く口付けられた。