濡れた睫毛にキスをする
『あ、でも制服は今のままでお願いしますね。可愛いんで』
隊長という役職に未練はないが、上着の丈が長くショートパンツという特注の幹部服は気に入っていた。
なので、そこだけは継続でと二人に告げると、名前は稽古の輪に入っていった。
そして、誰よりも目立つオレンジ色のアフロ頭を見付けると、竹刀を両手に持ちながら意気揚々と近付いていく。
『終兄さーん、手合わせお願いします!』
「…」
その声に無言で振り返る斉藤。
一対一での勝負に、特に異論は無いようで、近くの隊士からもう一本の竹刀を受け取ると名前と適度な距離を保ち向き合った。
斉藤の剣術の腕については言わずもがなだが、女だてらに真選組におり、代理とは言え隊長を務めるほどの名前の実力も一目置かれている。
その二人の勝負ということで、稽古を中断した隊士達が自然と道場の端に寄っていき、一定の空間が出来上がった。
『終兄さんがいない間に私も強くなりましたから、手加減は無用ですよ』
「…」
言葉を発することの無い彼は、名前と視線を合わせるとコクリと頷く。
二人は同じく二刀流の使い手であり、グッと重心を低くしていくと、両手に持った竹刀をゆっくりと構えた。
シンと静まり返ったなかで対峙する両者に、見守っている近藤や土方を含め、周りの人間は息を呑む。
『…ッ!』
静寂を破るように、風を切って始めに仕掛けたのは名前だった。
一手目はわざと大振りで、高々と掲げた竹刀を降り下ろした。当然、簡単に防がれるが空いた胴部分を狙い、もう片方の手を横に振り抜く。