きみの好きなやり方でキスして
ふと、深い眠りから目を覚ますと。
道場で気絶したはずの自分は布団の中に横たわっていて、胴着も綺麗な寝衣に着替えさせられていた。
『…』
視線を彷徨わせた名前は、鼻ちょうちんを作りながら眠る人物がすぐ隣に座る姿に気付く。
「Z〜Z〜」
独特の寝息が聞こえてきて、ボンヤリとした記憶の中で、彼が運んでくれた情景を思い出す。
見渡せば自室に戻ってきており、既に日は沈んでいるというのに、恐らく斉藤はずっと自分に付き添っていてくれたのだろう。
『終兄さん』
上半身を起こして少しだけ顔を近付けながら名前を呼ぶが、沈黙の部隊の隊長は眠りが深いらしく、反応がない。
起きて欲しくて、マスクに隠れた斉藤の頬に指を滑らせると、パチンと鼻ちょうちんが割れて目が開かれた。
「!」
『…起きてくれました?終兄さん』
少しだけ驚いた斉藤は反射的に名前の手を掴むと、何か言いたげな心配そうな目線を向ける。
分かりにくい表情ではあるが、己の刃で気絶させてしまった部下の身を案じているのだろう。
だから、名前も安心させるように『大丈夫だ』と笑顔で伝えると、同時に、手加減せずに自分と向き合ってくれたことにも感謝した。
「…」
『今日こそは勝てると思ったのに、私もまだまだ修行が足りないなー』
きっと、周りの隊士達は容赦なく女を吹っ飛ばした斉藤を非道だと思ったかもしれない。
けれど、真剣勝負を望んだのは名前であって。ただ、その思いに真剣に応えてくれたのだ。
だから負けて悔しいと肩を落とすと、「そんな事はない」と言いたげに斉藤は首を横に振ってくれた。