きみの好きなやり方でキスして
言葉でなくても、誉められたみたいに嬉しくて。
名前は軽く掴まれたままだった手を斉藤の指に絡めて、キュッと握り締めた。
「…ッ…」
急に触れ合った指先に、相変わらず斉藤は戸惑いながら視線を左右に巡らせるが、その仕草が可愛くて、思わず握った手を自分の頬に引き寄せる。
少し冷えた掌の感触が気持ちよくて。
名前はそっと瞼を閉じると、おもむろに口を開いた。
『…夢を、見てたんです』
「?」
『初任務の時の…』
瞼の裏に、あの日の光景が甦る。
人を殺した恐怖に心が壊れそうだった。
全身の力が抜けて、足元から崩れ落ちそうだった。
それを優しい温もりで。
『終兄さんが、抱き締めてくれたから…』
自分を繋ぎ止めてくれた。
今も、本当は壊れそうだけど。
優しい人達がいてくれるおかげで、身が削られながらも前に進めている気がする。
全部、すぐ近くにいる彼が人の温かさを教えてくれたおかげだと思いながら、ゆっくり目を開くと。
「……」
『……』
何故か、顔を真っ赤にして冷や汗をダラダラと流す斉藤の姿があった。
『終兄さん?』
「ッッ!」
不思議に思って名前が顔を覗き込むものの、余計に頬を赤く染めながら畳の上を後退る。
恐らく、あの日の出来事を思い出して居たたまれなくなったのだろうが。
何だか自分を拒否するように距離を取る動きが、名前には癪に思えて。
『終兄さん』
斉藤の口元を覆うマスクを人差し指でグイと下げると、相手が後退した分、名前は前に詰めていた。