2018/09/08
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だめだ、だめだ、だめだ。ズルズルと引き摺られて向かう先には行きたくない。武市さんとまたちゃんが何かやろうとしていたから十中八九その渦中であるし、それに、だ。
「ほーら、ナマエちゃん、坂本くんだよー」
華奢な腕から突き飛ばされた先、偶々いたのであろう誰かにぶつかる。見上げた瞬間かち合った視線に頭の中はいっぱいいっぱいになった。それは私だけで、目を瞬いた辰馬くんはあの太陽のような笑みを私にむけあ。
「おんし、ナマエか!!!久しぶりじゃのう!!」
「もうむりかえる……かえらせて、」
そう蹲れば、なんでじゃあ!?と辰馬くんが騒ぐ声が聞こえた。
無理だ。なにが無理って、辰馬くんに会う心の準備もしないまま会うことも無理だし、カメラがついてると言うことは見られていることもわかるから無理だ。羞恥の極みである。ケラケラと上機嫌で隣で笑う辰馬くんは相変わらずである。
「ほんに、久しぶりじゃな」
「なんだ、お前達、てっきり一緒にいるものかと」
「いやぁ、全然ぜよ。攘夷戦争以来じゃき。まぁ、うわさは聞いちょるよ、ナマエせんせ?」
ニコニコと笑った彼に、なんと返せばいいのかわからずにコクコクと頷く。相変わらずじゃ、とケラケラと笑った彼は私の頭を撫でた。うわぁ、ほんとにやばい。漠々となる心臓を落ち着かせるために、視線を下げ、チラリと見上げれば彼は目に優しさを灯して私をみる。
「ナマエ、一緒に行かんちゃ?宇宙に」
あぁ、いけない。私は汚いのであり、彼とともに行くことはできないのだ。ゆるり、と目を閉じて、それはできません、と言おうとする前に小太郎くんと銀時くん友人二人がコソコソと話すのが聞こえた。
「あれだよ、よくあるあれだよ、同窓会で再会してまた恋しちゃうあれだよ」
「お持ち帰りされる鉄板ネタじゃねぇか」
「なんだあの二人、付き合っていたわけではないのか。俺は苗字がてっきり坂本と一緒にいるものだと思っていたが」
「ほら、ナマエは奥手だから。坂本は手が早いかもしれないけど。いや、事実手が早い。キャバ嬢追いかけてるあたり」
「おーい、聞こえちょる、聞こえちょるぜよ。ナマエの前でワシの株下げるのやめて?」
「た、たつまくんの、かぶは、そんなことでさがらない、よ」
そう服を少し摘んで言う。我ながらあざといとは思う。ああ、だめだ、やっぱり調子が狂う、と息を吐けば辰馬くんが私の手を握った。それを慌てて外して、もうキャパシティオーバーだとそのままそこを飛び出す。ああ無理、ああ無理、と廊下を静かに爆走し、慣れた気配があるその部屋に飛び込んだ。
「ナマエ先輩!」
「むり、もうむり、かえる、まきこまれるよていじゃなかった」
ズルズルと襖にもたれて座る。顔が赤いのは仕方ない。大丈夫ッスか!?と慌てるまたちゃんに武市さんが珍しいものを見るかのように私を見た。
「へぇ、貴方の弱点はあの男でしたか」
「弱点というか……」
そう目を逸らして告げる。色々な言葉をため息と共に流す。心の平穏が欲しい。
==なんか俺つえー系になってしまう
あぁ、終わってしまったな、と淡々と思う。彼女たちとの関係も、彼らとの関係も。結局は私は太陽に焦がれるだけで、月の光に照らされるだけで、私自身という存在は闇に呑まれるだけの存在なのである。誰かが「私」を呼ぶ声がする。あの二人に贈られた苗字ナマエという前の世の名前ではなく、作家としてただの民間人としての夏目ナマエという名前でもない。ただただ、私が闇に身を委ねていたころの名前だ。
「首を刎ねられても貴方はおかしくはありませんからね。伊賀の里、甲賀の里の有権者の殆ど、そして鴉の一部をも殺した小さな叛逆者」
そう淡々と、男は紡ぐ。
ーー恐らく、松陽先生は私を知っていた。私がどんな存在であるか知っている上で私を生かした。貴方も悩みなさい、苦しみなさい、答えはその先にあるのですから。そう告げた彼はとうの昔に死んだ。
「貴方は焦がれる太陽に抱かれることもない。なぜなら貴方は昼に生きられない人間だからだ」
そう、私は坂本辰馬について行ってはならない。なぜなら彼は清らかで暖かな、太陽のような存在だからだ。だから私は彼に焦がれてもそばにいることはない。相容れないから。男はそのまま言葉を続ける。
「しかし、貴方は月夜に抱かれることもない。馴染んで見せても、それは上部だけに過ぎない」
私は高杉晋助について行った。それは同じ闇夜だからだ。でも、違うのだ。彼はそれを照らす月でもある。緩やかに照らす月は居心地がいい。
「あぁ、そうだね」
そう息を吐き、穏やかに笑う。ナマエさん、と小さく誰かが「私」を呼ぶ。男はいい気になって、言葉を続ける。
「いくら名前を変えたって本質は変わらない。君はまさしく闇だ。底知れない闇だ」
「それもそうだ」
私の言葉に彼に頷く自嘲したように。
「私の本性見抜いたお礼をあげるよ。2秒後にさようなら」
ひらりと手を振る。男が目を見開く。男の首がとぶ。血しぶきが上がる。それをみた敵がたじろぐ。
「馬鹿だなぁ、ただの苗字ナマエでいさせてくれればこんなことにはならなかったのにね。それもこれも、君たちの上司が悪い。せめてもの慈悲をあげよう」
笑みを消す。
「ただ、一瞬で死ね」
そう棒手裏剣を叩き込む。何人かの首が吹き飛ぶ。指を曲げる。その瞬間、棒手裏剣から伸びたワイヤーがほかの首を撥ねる。周りにできた血だまりに、ああやってしまったな、と冷静に、客観的に思う。
「ナマエ……?」
友人が私の名前を呼ぶ。誰かがえずく音もする。あぁ、あぁ、戻れ、戻るんだ。振り返らなければいいというのに、振り返れば彼らは後ずさる。あぁ、正しい反応だ。
「幼い君たちが拾ったのは、とんだ化け物だったわけだ。ごめんね、怖がらせて」
そういつも通り告げる。ごめんね、ともう一度呟く。ああ、ああ、こんなはずではなかったのに。
==
こんなはずではなかった。
白の集団の中で唯一の黒色として生まれた私はは歪な忌子には間違いがなかった。何もかもが可笑しい子供。進んで忍術を、体術を、人の殺し方を勉強するくせに人を殺せないおかしな子供。そんな認識だろう。私の師であった師と長はそれを十二分に理解していたが、父と母はなぜできないのかと怒った。こんな子供なら、と手にかけられそうになった瞬間、私は両親を殺した。いとも簡単に、首をはねて。それでいいんだ、と、師は告げた。長はただ何も言わなかったが。そうして私は10になるまでのうのうと生きて、あの日任務に駆り出されーー帰った時にはもう里は夥しいほどの屍だけで。
こんなはずではなかった。
ふと気がつくと、足元には屍が沢山積み上がっていた。あぁ、自分が殺したのだと理解したのは、殺し方が私のそれと一致したからだ。体を引きずるように進む。早くここから移動しなければ、私は彼らと同じ結末を辿るだろう。私達は歪だったのだ。ほかの里からは私の里は歪にみえる。だからこそ恐ろしいのだとは嫌なほど理解していた。あの時、親の目に移ったのは紛れもなく恐怖だったからだ。体を引きずらせ、痕跡を消して進んだ先で倒れる。復讐心などあるとは思わなかった、と自分を嘲笑う。これも定めなのだと。
こんなはずではなかった。
前の世の友人達に拾われて、彼女らの護衛になった。拒みようがなかった。私は彼女達を知っていたからだ。彼女らの親にいいように使われることもあれば、彼女らがいく学問所に迎えにいくこともある。同世代には奇妙な視線を向けられる。私の愛想がないからだろう。二人と仲がいい三人だって、私を遠巻きに見る。ある雨の日だ。門の前で傘をさして待っていると、彼が来たのは。
「貴方も学んで行きませんか」
そんな言葉が、降って来たのは。
ーーこんなはずでは、なかったのだ。
助けた男は今日もやかましいくらいに私に構う。成り行きで参加した攘夷戦争。そこにいたのが彼だった。後方支援に回る二人に対し、私は前線にいるのは仕方ない。天人に囲まれた彼を、助けたのが間違いだったらしい。ナマエ、ナマエ、と構う彼に呆れを通り越して尊敬を覚える。そんなことを言おうものなら、彼は調子に乗りそうだ。
なんの拍子だったか。彼ーー坂本辰馬に手を引かれて歩いて、あの五人のもとに向かったときである。あまりに彼がおかしくて、笑ってしまったのだ。あの時の四天王と呼ばれる彼らの様子もおかしかったが。友人二人は嬉しそうに笑っただけだ。
「ナマエ、そっちの方がええ。やっぱ女子は笑うべきじゃ」
「は!?」
ぴしり、と固まった三人に坂本辰馬は首をかしげる。
「どした?まさか、おんしらワシよりナマエと長い付き合いっちゅーのに、ナマエを男じゃと思っとったんか?」
「い、いや、だってあんまり喋らないし……というか俺喋ったこと片手で事足りるくらいしかないし……」
「それもナマエがあまりの銀時の視線にプリンいる?って聞いた時ぐらいだよね」
「そういや俺もあんまり喋ったことがないな。いつも学問所ではなく二人の迎えに門に立っていただろう?ああ、傘を貰ったことはあったが」
「アレはテメェのせいかぁぁぁ!!ナマエが無くしたって言ったから私らの両親に折檻食らったんだからね!!!」
「あれれー?高杉くーん、君、よく作戦に苗字連れ回ってたよなぁ?なになに?気づかなかったわけ??」
そう言った坂田銀時に、高杉晋助は無言で蹴りを入れる。フォローをいれておくか、と口を開く。
「普通は気づかないと思うよ」
「いや、でも坂本は」
「あぁ、彼は水浴びしてるの見られたから知ってるだけ」
サラリと言えば、いやぁ、偶々じゃき、偶々、と彼は笑う。
「ナマエが水浴びにいくの見えたき、ワシもご一緒しようと思って」
「引き換えしたんでしょうね?」
「いや、最後までご一緒……」
「この変態モジャ男がぁぁぁ!!!」
そう坂本辰馬を一本背負いを決めた友人に、私はおかしくてまた笑う。あぁ、おかしい。
「坂本辰馬、おかしい。というか、貴方達がおかしい。貴方達といると、飽きないね」
そう笑って、そろそろいかないと、とその場を離れた。そこからだ、彼らが私の名をよぶようになりーー彼らの名前を呼ぶようになったのは。
こんな、はずでは。
太陽のように笑う彼に、惹かれるはずではなかったのに。もう人を殺さなくていいのだ、と、彼に言われたはずなのに。
だから、こんな、はずでは。
「ナマエ、約束したはずぜよ」
ああ、彼は怒っている。 大半が一歩引いた中、悠々とこちらに歩み寄った辰馬くんは怒っている。
「攘夷戦争が終わったら、おんしは人ば殺さんと、約束したはずぜよ」
そうだ、約束した。彼は自分が側にいるから、私に殺さないように告げた。約束した。でも、実際は彼はいなかった。だから、彼の前では、彼らの前では普通の人でいようと思っていたのに。手を擦り合わせて、そうだね、約束した、と言う。
ーーでも、あの戦争の後、最初に人を殺したのは。
「やっぱり、辰馬くんと一緒には行けないなぁ」
「なんでじゃ」
ムッとした声だ。空からの気配に、私は彼を押し倒し、棒手裏剣で苦無を弾く。呆気にとられた彼に、こう言うこと、と笑って立ち上がった。
「晋助くんもごめんだけど動けない他つれていってくれない?いつもの来ちゃったみたい」
「らしいな、一人でいけるか」
「余裕。ごめんね、辰馬くん、怪我はない?」
そう言いつつ指折るを曲げる。どこかで呻きがあがる。さて、と思っていれば立ち上がった辰馬くんが私をひっつかんで俵担ぎにした。
「う、え、?」
「何してんだ、坂本」
「高杉じゃからそうなるんぜよ、一緒に逃げる」
没!!!
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