2018/11/04

兼任司書if

迷子で図書館にたどり着いたifなナマエ

まごうこと無く迷子である。とりあえずたどり着いた本だらけのそこの中に入ってみる。別に色んな人がいるようだからいいだろう。本を読んで迎えを待つか、と適当に本をとり近くの椅子を陣取った。しばらく本を見つめていると不意に誰かが声をかける。まさか私に?と首を傾げて顔を上げれば男性が私を見下ろした。……この人、人じゃないな。
「ずっとそこに座ってるが、お腹は好かないのか?」
そう私に合わせてかがんだ彼は私が見えているらしい。とりあえず大人しく首を左右に振っておく。やってきた他の人が、あれ?と首を傾げた。
「寛、誰と喋ってるんだい?」
「何言ってんだ、龍。ここに子供がーー」
「?子供?どこに?」
「は?」
「まさか、また何か見えてるのかい?」
その言葉に彼は目をまん丸にして私を見下ろした。

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いま図書館で話題なのは、窓際にいる幽霊の話である。視える人曰く、何時も窓際のソファで本を読んでいたりうたた寝したり、丸まって寝たりしている、らしい。らしいというのは私が見えないからである。みてみたいような、みたくないような。今日も自然主義の一部と小泉先生が見たくて見たくてうろちょろしており、視える人筆頭の菊池さんが迷惑そうだからやめてやれ、と釘を刺した。ちなみに怖がりな人と文豪はそのソファには一切近づかない。
「それにしても居ついたな、幽霊」
そう告げた按司に、棋院がそうだね、と頷いた。館長が苦笑いしながら「よっぽど居心地がいいんだろうな」と告げる。
「文豪の幽霊だったりして」
「いや、女の子だよ?」
私の呟きに大槌さんが首をかしげる。私と大槌さんのそばにいた三好くんがギョッと彼を見た。
「まさか大槌さん視える人なんですか」
「そこそこ?」
「女の子って、立川さんくらいっスか?」
「ううん、この前遊びに来てた館長の姪っ子さんぐらいじゃないかな」
青い目をした大人しい女の子だよ、と告げた大槌さんに私は女の子を思い浮かべる。
「どんなおっさんかと思えば、幼女か」
「あぁ、だから視える人が気にかけるのか」
納得したような棋院に、たしかに幼女なら気にかけるだろうな、と思う。
「よくある怪談話だと成仏できなくて連れて行かれる話だね」
そう笑った棋院に、私と三好くんはまた固まったのはしかたがない。館長が少し考えてーー思い出したようにつぶやく。
「もしかして、菜乃花が一緒に遊んだ子はその子か……?」
「ひぇ、菜乃花ちゃんが連れて行かれちゃう」
「何も無くリリースしてるだろ」
私の言葉に按司がそう突っ込む。確かにそうだけど!

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女の子の幽霊を見てみたい、という文豪が続出したため絵が得意な文豪によるモンタージュ写真ならぬ絵画が作られた。描かれたそれは青い目をした可愛らしい女の子である。おー、そっくりだな、と菊池さんや大槌さんがいっていたのでこういう子がいるらしい。見てみたいような、やつぱりいいような。そんなことを話していれば、不意にひらりと桜が舞った。ん?と思っていれば、ふわりと香ったのは桜の匂いである。ヒラヒラと何処かから舞い落ちる花びらに、私たちが首を傾げているとその花びらは部屋のあちらこちらに舞い落ちた。佐藤先生が目を瞬いてあたりを見た。
「桜の花びら?」
「あの子が喜んでるからだよ!この前もいっしょにおやつを食べたらこうなったんだ!」
そう告げた宮沢さんに、周りは目を瞬く。
「ここにいるの?」
「おー、さっき入ってきたな。部屋の中チョロチョロしてるからそれで花びらだけが落ちてるんだな」
館長が首をかしげる。
「もしかして、ただの幽霊じゃないのか?」
「あの子、足がちゃんとあるよ」
新美さんの言葉に私たちが混乱していれば、按司が人じゃないのは確かだろ、と突っ込んだ。それはそうだ。

誰かが名付けたわけでもない。私たちの利便上桜を散らすから桜と名付けられたあの幽霊(仮)に文豪たちが偶に喋りかけているのを見る。視える人いわく、偶に鬱陶しそうにしてたり見当違いな方向を見てるため困ってたりするらしい。珍しく佐藤さんが彼女の所有物となったソファに座っていたため首を傾げれば佐藤さんが困ったような顔をした。
「多分、桜が俺の膝の上で寝てる」
「佐藤さん視える人ですっけ」
「いや、視えないんだが子供くらいの重さがある」
幽霊に重さとは。そう思っていたら菊池さんが通りがかった。
「お、佐藤、役得だな。桜がお前の膝を枕にして寝てるぞ」
「視えないんだよ、起こしてやってくれ。かれこれ3時間ぐらいはこうだ」
「昼寝には充分すぎる時間だな。おーい、桜ー、起きろー」
そう何かを揺らした菊池さんは、起きたか、といって体を離す。誰かがたしかにいるんだろう。
「お前、佐藤を枕に寝てたみたいだぞ、三時間ぐらい……って、まだ眠たそうだな」
「もう立ち上がって大丈夫か?」
「ああ、退いたから大丈夫だろ」
菊池さんの言葉に佐藤さんが立ち上がる。不意に裾がくん、と引っ張られたのが見えた。おお、怪奇現象。
「よほど桜のお気に入りになったみたいだな、お前」
「見えない奴に好かれてもなぁ」

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牧水さんがあのソファの近くに座って短歌を詠んだら近くの紙(恐らく啄木さんのメモ)を通して返歌がかえってきたらしい。牧水さんが上機嫌に見せてくれたメモを見ればなるほど達筆である。私は読めない。百人一首でみるような文字だ。内容も枕詞がきちんとついた和歌らしい。……本当に幼女なんだろうか。
そんなことを考えながら今日の業務である手紙の分別をしていれば、達筆な文字で書かれた手紙を見つける。誰宛だろう。丁度牧水さんがいたので見せれば「おお」と声をあげた。
「返事が来た」
「牧水さん宛ですか?」
「あぁ、桜に手紙を出したんだよ。手紙セットと一緒にな。そしたら手紙も手紙セットも無くなってたからどうしたもんかと」
封筒の中からひらりと落ちたのは黄色く色づいた銀杏の葉っぱだ。それを拾い上げた彼は鼻歌を歌いながら手紙を持って立ち去った。……文通できるんだ。

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「でもこの前から牧水さん手紙交換してますよ」
そういえば一部が食いついた。そして、彼女宛の手紙が少しブームになる。牧水さんは笑ってたけど。
とりあえず、自然主義とか一部の文豪が調べた結果、桜ちゃんに関してわかったことは年は自分でもわからないこと、本を読むのが好きなことなどなどなど。名前は何度聞いてもそこだけ文字が滲んで読めなかったり消えてたりしていたのでみんな諦めた。そして問題は。
「迷子だったのか……」
館長がそう言って頭を抱える。だからそこから動こうとはしなかったのかもしれない。ちなみに菊池先生の手紙に書かれた言葉である。
「そのうち迎えがくるから待ってるらしい。いつもはすぐ来るんだが、今回は迎えが遅いらしいぞ」
「幽霊に迎えって不思議だね」
「というか、よく迷子になるのか……」
「ああ、らしい。最近は開き直ってるみたいだ」
「だから最近はうろちょろしてるんだな。まぁ、こちらに害がないからいいんだが」
館長はそう言って苦笑いする。偶に餌付けしてるからなぁ、この人。

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ふわり、と桜が舞った。どうやら桜ちゃんが志賀先生の料理を食べたらしい。くるくると喜びをあらわすように桜の花びらが舞う。なんとか彼女の食べる姿を見たかったらしい一部が落胆したけど。いつのまにか消えてるのだ。
「うまかったか、もっと食え食え」
そうもりもりと桜ちゃんと武者さん、大食らい組のお皿に料理を盛る志賀先生に、眺めていた森先生がいう。
「桜殿、トマトは食べないのか」
「露骨に嫌な顔したな」
見えている菊池先生が笑う。どうやらトマトが嫌いらしい。たしかに、皿に乗ったトマトは消えない。
「好き嫌いはいけないぞ、桜殿」
「本当に何者なんでしょうね、桜さんは」
姿が見えればふつうの子供なんでしょうけれど。
夏目先生はそう告げて桜ちゃんがいるだろう場所をみた。

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「あのう、すいません」
そう図書館で私たちに声をかけたのは小学生高学年ーーいや中学生ぐらいの男の子である。スーツに似た服を着こなした、といえばかっこいい中学生に聞こえるかもしれないが、顔の半分を隠してる狐面が目を引いた。不思議な少年である。
「……これ見えてんだよな、おーい?オニイサーン?オネイサーン?」
「……どうかした?」
そう返答した棋院に少年はホッと息を吐く。
「女の子迷い込んでません?これくらいの」
そう腰のあたりに手を当てた少年に私たちは首をかしげる。今日は特に迷子のお知らせもしてないし、迷子をみたわけでもない。
「いや、みてないなぁ」
「あれ?たしかに気配したんだけどな……」
少し考えるそぶりをした少年に、按司がはっとした。
「もしかして、桜のことか?」
「桜?」
「姿が見えねぇガキだ」
「それだ」
指をパチンと鳴らして少年は按司をみた。
「ってことは君が迎えかい?」
「あぁ、って、オニイサン達姿見えねぇのに喋れんのか?」
「手紙交換してるんだよ。桜ちゃんどこにいるんだろうね……」
「さぁな。アイツ最近いろんな場所いるからな」
「でかい声だしていい?」
そう首を傾げた少年に、棋院くんが少し迷う。呼び出しマイクを使うかい?といって棋院は少年を手招いた。

キーーン、というあの金属音がして、文豪たちがなんだなんだとやってきた。少年はやってきた文豪達の間に見知った顔を見つけたのだろう。あ、と小さく声をあげた。
「おいこら、ーー!勝手にどっか行ったらだめだろ!またすごい騒ぎになってんだからな!」
そう誰かの手を繋ぎながら怒った少年に、集まってきた文豪達が目を瞬く。
「そんな顔しても許しません。ダメです……お兄ちゃんはお前を連れ戻して父親に捧げるのが役目です。怒られなさい。……あぁ?……近道しようとした?……いっつもそれで迷子なってるだろ!」
「……会話してるの?」
恐る恐るそう呟けば少年はハッとした。そして私たちをみて、桜ちゃんがいるだろう場所をみて、また私たちをみる。
「妹が世話になったみたいですいません」
「妹?妹ってことは……」
「ほら、ーー、そんな顔してもダメ。帰るぞ。お礼はちゃんと言ったのか?」
「おい坊主、言ったところで俺たちには何にも聞こえねぇぞ」
按司がそう茶々を入れる。少年はそりゃそうだ、と頷いた。
「じゃあ窓の外観ててくれよ。いいこと起こるから」
「窓の外?」
「じゃ。ーーはちゃんとやるんだぞ」
そう手を挙げた。少年はヒラヒラと青い葉を舞い落として消える。
「うえ、消えた、」
「桜ちゃんのお兄さんみたいだから、やっぱり人じゃないんだなぁ」
「大槌さん、そんな問題?」
「桜置いていったけどアイツ大丈夫か」
「え!?」
「なんだ?桜、窓開けて欲しいのか?」
そう尋ねた菊池さんは窓を開ける。見えてる人が総じて、あ、桜!?と窓際に寄ったということは彼女は窓から降りたらしい。そのあと、みんな安堵したのをみると無事らしい。
不意に、シャン、と鈴の音が聞こえた。神社で聞こえるような。そして、もう一度シャン、という音がして子供の声が聞こえた気がした。しかし、それは明確な言葉になることなく消える。ひらり、と舞った桜の花、そして聞こえ始める笛の音。それと一緒に、女の子の姿がちか、ちか、と瞬くようにみえる。何かを歌いながら舞をおどっている女の子に、庭の花が全て咲いた。本来ならば咲くことのない桜も、同じ時期に咲くことがない花も、全てだ。目を瞬いた私たちに、女の子が舞を止める。笛の音がやむと彼女は私たちに頭を下げ、そこに現れた男の人とあの少年と一緒に花びらを散らして消えた。まるで小説のような出来事に呆然と私達はそこをみる。
「ははぁ、アイツら幽霊とか妖じゃねぇな、あれは」
訳知り顔で愉快そうにタバコに火をつけた按司は口を開く。
「え、じゃあなんやったん、あのこ」
「しらねぇな。ただ、俺たちが本当の名前を言えないくらいすげぇ奴ってことだよ。こんなことができるぐらいな」

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目の前にあるのは華やかな風呂敷に包まれた包みである。それも三つ。館長いわく図書館の前に落ちていたらしい。警察に届けるか、と迷っている私たちに様子を見ていた正岡さんが指を指す。
「でもこれ手紙ついてるぞ」
「手紙?」
「ほら」
正岡さんはそう手紙を取り出した。手紙はかなりの達筆である。夏目先生と森先生が覗き込む。
「ここに住む人たちへ、というよりこの文字は桜殿の字だな」
「桜さんからおてがみですかね」
正岡さんが戸惑うことなくあければ、時代劇に出てきそうな手紙が二枚現れた。両方ミミズ文字である。か細い文字か太いのかで分かれてるけど。
「こっちは桜からと……こっちは桜の父ちゃんからだな」
「え」
「娘がお世話になったって書いてるからな、どうやら父親からのお礼の手紙だ」
「些細なものですが、ということはお礼の品ですね」館長がその言葉を聞いて風呂敷をあける。一つは立派なお重、もう一つが美しい布地、一つはうつくしい装飾が施された箱である。
「昔話みたいだな……」
館長はそう言ってお重を開く。中からは可愛らしいお菓子が現れた。なんてファンシー。



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