2018/11/12
アウターハッピーエンド1
・君と僕だけifだけどmgs陣がこちらに着てない
=
どのタイミングで0が1へと変貌したのかわからない。ただ目の前で傅いた男たちを見下ろす。ご命令を、新しいマスター。そう頭を下げた男に理解した。隠れた場所から感じた視線に、隣から感じる視線に、周りの状況に。あぁ、またか、と。前は彼の為にそれを演じたが、今回も誰かの為にまた演じなければいけないのだろう。ほんの少しの嘲笑。どうか正しい道を進む誰かに幸あれ。
その日は普段と変わりがなかったはずだった。世界は確かにきな臭いが日本は酷く平和だ。いや、着実に戦争の火種は近づいていたが、誰しもが平和だと巻き込まれるわけがないと信じてやまなかったのだろう。高校という、酷く狭いコミュニティでは特に戦争というものはフィクションと同じようなものだ。かくいう私もあんな睡眠学習のようなものが起きなければ恐らくはそちら側だったに違いない。Jアラートと呼ばれるアラートさえも、ああまた鳴っているという認識である。それがいずれ命を落とすことにつながるとは誰も微塵も思っていない。こちらです、とガイドが沢山の学生を率いていくのを一番最後尾から見つめる。修学旅行である。こんなご時世にとも思うが、こんなご時世だからこそ国内の旅行なんだろう。ここからは自由時間だと告げたガイドに並んだ教師に息を吐く。時間だけを聴いて、学生の固まりから逃げるように足を進めた。
ーー世界は一つに統一されつつあった。
それもこれも、新興国からの核の発射から始まる相互確証破壊の延長である。非常に短期間で終わったというのに第三次世界大戦と呼ばれつつあるその戦争は、全てを変えた。人々の思考は疲弊し、考えるのをやめ、一つの権力に身を捧げーーそしてそれは巨大な武力の塊である国家に変貌したのである。とっくに国家は崩れ去ったというのにこの国はまだ国でいる気でいた。頼りにしていたアメリカという国が先の戦争で酷い有様になった、とはこの国の知らない事実だろうか。国民にパニックを起こさない為だなんて言いがかりをつけて伏せられた事実。疑いもせず、ただ平和であると錯覚している周り。どちらもどちらかもしれない。
たどり着いた目的地は閑散としていた。そこはもう抜け殻となっている。元々は外国の兵士たちがいたその場所は無くなった。表向きは撤収扱いであるが、その実は本国の危機に総戦力を注ぎ込んだからである。閑散としたその場所を眺めていれば、ずっと付いてきていた誰かが並んだ。物好きな人もいるものですね、と隣に並んだのは最近赴任してきた英語の講師である。きゃあきゃあと騒がれることが多い彼がいるとなるとほかに生徒がいるかと思えばそういうわけでもない。
「貴女はmilitaryに興味が?」
そうこちらを見下ろした彼は笑顔だ。しかし、その奥にある感情はそうではない。私も「えぇ、まぁ、」と笑みを浮かべて頷く。
「先生は詳しいんですか?」
「いいえ、私は全く。貴女は?」
「ははは、毛が生えた程度ですよ」
そう笑いながらもう一度基地であった場所を見る。
「平和ですね、外国の軍がいなくなるぐらいには」
「えぇ、そうですねぇ、でも、」
彼がこちらを見下ろす。笑顔が消えた彼は口を開いた。
「貴女は本当にそう思ってるんですかねぇ、苗字さん」
その目には愉悦のようなものがある。私は笑いながら、どうでしょうね、と告げた。
「でも、この国は平和でしょう、先生?」
そう尋ねれば彼は「ええ、そうですね」と告げた。
「馬鹿げてるぐらいには」
彼は懐から鍵を取り出す。カチャリとフェンスにかかった鍵を開けてみせた彼はまた笑顔を浮かべた。
「中に入ってみますか?あぁ、周りには秘密ですよ」
人差し指を立てた彼に、ああなるほど確かに整った顔だなと思った。
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飛行場の跡、兵器庫の跡、兵士の宿舎。も抜けの殻のそこを少しの懐かしさを感じながら進む。講師はニコニコと笑いながら私の後ろをついて歩いた。
「先生はどうして鍵を?」
「さて、どうしてでしょうか」
講師は答える気は無いらしい。入った部屋は管制塔に似た場所だ。たくさんのレーダーを作動させることができる場所である。埃が被ったそこを手で擦る。先生は扉をもたれてこちらをみているだけだ。部屋の電気はつくし、まだレーダーのアンテナはある。恐らくスイッチを押せば起動するだろう。そっとスイッチに手を伸ばしたところで、あの甲高いサイレンのような音が聞こえてハッとする。軍の建物だっただけあり、建物自体は頑丈だろう。いや、軍の建物だからあるだろうモノがあるはずである。そう、シェルターだ。こういう時は、短絡的に避難するすべがあるはずである。例えばーー。地下に通じる階段、とか。チラリと目線を下に向ければ床に見つけたそこを開く。やはり地下に通じる階段、というよりは梯子だ。私のそばに寄ってきた彼はそれを見る。
「シェルターですか」
「先生はどちら派ですか。今日も大丈夫だったと思う人か、今日は大丈夫だったと思う人か」
「後者ですね。そして貴女も後者でしょう」
「ええ、まぁ」
そう言いつつスマートフォンの明かりを元に下に降りる。律儀に上を閉めた彼が降りてくるのを確認してその先に進む。たどり着いたシェルターはやはり埃を被ってはいたが、何が色んなものが置いてあった。4分なんて時間はあっという間である。先生がシェルターの扉を閉めたのが丁度4分だろうか。微かな振動に目を見開いて上を見上げる。それはあの講師も同じだった。運がいい子供だ、と英語で呟かれた言葉は無視するとする。近くにあった携帯食料や予備のバックパックを漁る。数日は持つだろう。そんなことを考えていれば、不意にスマホの音がなった。私のものでは無い。ということは講師のものだろう。英語で話される言葉は相槌と居場所だろうか。いえ、もう一人、と彼が口を開く。何かあっても大丈夫なようにナイフを忍ばせた。
「……もうすぐしたら迎えがきます。貴女はどうしますか?まぁ、外に出てもパニック状態でしょうし交通網はイかれてるので帰れないでしょうけど」
貴女に世界を見せてあげましょう、と口元に笑みを描いた彼を見る。信用していいのか、と見つめる。信用してください、と笑った彼にそれが信用できないのだと息を吐いた。
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彼について外に出れば、風に乗って焼け焦げたような臭いが漂ってきた。そして、理解する。恐らく彼はもとよりここで合流するつもりだったのだろう。私についてきた、というより、私が彼のいく先に先回りしてしまったのだ。軍用ヘリが上から降りてきてーー兵士達がワラワラと降りてきた。彼に向かって敬礼をした兵士達は私を見ると銃を向けたが、彼が私の前に立ったことで彼らはそれをやめる。連れて帰りますので、と英語で告げた彼に、ガスマスクをつけた兵士達は私と彼を見比べた。
彼に手招かれてヘリに乗る。運が良かったな、と呟いた兵士になにも返さず見えてきた地獄絵図を見下ろす。あぁ、あの街に似ている。あの、逃げ回った街に。嫌悪を名乗るあの人に助けられたあの街に、とてもよく似ている。入れ違うように別の街に戦闘機が向かっていく。ああこの国はこれから、たった1日、いや、半日で覆されるのだ。圧倒的な力によって。ぽん、と講師が頭を撫でる。
「よく見ておきなさい、これが貴女の国の最後だ」
愉悦を含んだその言葉に街をただただ眺めた。
ヘリから飛行機に乗り継ぐころには、人が増えた。正しくは人が増えたというよりは迎えの飛行機に人が乗っていたのだろう。長い間ご苦労、と講師に告げた小太りの男が私を見下ろした。それに伴い、彼の後ろにひかえている男達の視線も向くことになる。皆一様にガスマスクをつけている姿は歪だった。
「ファル、コイツは」
英語で尋ねた男に講師は笑みを浮かべて答える。
「欲しいとおっしゃっていたでしょう?日本人の女。彼女はこう見えて18ですよ」
「やはりアジア系は他の国より幼く見えるな」
そう私を見た彼は私の顔を掴む。少しの反抗心を見せて見れば、生意気な面だ、と彼は下品な笑みを向けた。
「調教しがいがある。いいぞ、連れて行け」
わたしから手を離した男は背を向けて歩いていく。チラリと講師を見れば彼は渡されたガスマスクをつけていた。
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異様な空間である。ガスマスクをつけた男たちばかりの空間だ。小太りのあの男は別の場所にいるのを見ると彼は位が高いらしい。わたしについて交わされる英語の会話を無視して目を瞑る。少し神経を尖らせたままだ。これが夢であればいいのだが、実際はそうじゃない。交わされる英語も様々だ。ロシア訛り、ドイツ訛り、それに合わせて日本訛りが聞こえる。近づいた足音に目をゆっくりと開ける。そこにいたのは青年である。何かボードに文字を書いた彼はわたしに見せる。おまえ、いいにおいする、たべもの、ちょうだい!そう書かれた文字に、ああ飴ならあるな、と上着のポケットからドロップ缶を取り出した。少し身構えた彼らに迷彩服を着た男がこちらを見た。
「まさかのJKがドロップ缶」
日本語である。日本人なんだろうか。とりあえずドロップ缶を振って青年の手の上に飴を出す。丁度青年の髪と同じ緑色である。それを口に含んだ彼は上機嫌になった。苦笑いをしてもう一度目を伏せようとすれば「英語は読めるのか」と声が聞こえた。
「えぇ、彼女は成績優秀ですからね。恐らくは我々の言葉も理解できますし、英語も喋れるでしょう」
「あら、理解できてるのに黙ってたの?」
「まぁ、我々だけで会話が終わっていましたしね。ねぇ、苗字さん」
振られた言葉に、ため息をついて、ええそうですね、と返す。
「綺麗な英語ね。元西側の発音だけど」
「……ありがとうございます」
「名前は?」
「苗字ナマエです。ファミリーネームが苗字です」
「ねぇ、いまどんな気分?」
そう見上げたのは少年である。
「住んでいた場所を焼野原にされて、どんな気分?家族を残してきちゃったね、死んじゃってるんじゃない?」
ニコニコと、毒を吐く彼に、そうですね、と目を伏せた。
「全てが夢であれと思います」
そう、全てが夢であればいい。あそこで、ジャックに殺される。それが現実であればいい。つまんなそうな表情をした彼に笑みを浮かべた。
「泣き喚いて欲しかったんですか?それとも罵倒、絶望すればよかったですか。すいませんね、静かで」
「こういう子なんですよねぇ、この子」
先生が可笑しそうにそういった。変わった子供だな、と呟いた男性は目を伏せた。
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たどり着いたのはホワイトハウスに似た場所だろうか。そこにあの男がやってきて、私を誰かに合わせると言って私だけを引き連れて行く。謁見室のような場所である。玉座に座っているのは壮年の男だ。自分の手柄のように全てを報告する小太りの男の声を聞きつつ、私はその先にいる男を見た。男がちらりと私を見下ろす。
「それで、そいつがお前の今回のお気に入りか」
「いえ、正しくはファルが拾ったものです。擬態して潜り込んだからか情が湧いたのかはわかりませんが。すぐに飽きる」
小太りの男はそういってまた私を見た。カツン、と革靴がなる。カツン、カツン、と音を鳴らして壮年の男は私を見下ろした。
「お前の名前は?」
「……苗字です。ナマエ・苗字」
「そうか。遠路はるばるご苦労、ナマエ。疲れただろう、部屋で休めばいい」
くしゃりと彼は私の頭を撫でる。空いている部屋に連れて行け、という声に近くにいた兵士が私の前に立ちーー連れ出した。
通されたのは広い部屋だ。前にも誰か住んでいたのだろう。あまり自分の好みではない、女性らしい彩の部屋である。私をここまで連れてきた兵士は可哀想にと呟いた。この部屋についた人の末路を私は知らない。いや兵士達の同情の視線や交わされる会話を聞けばわかる。飽きられたら殺されるのだろう。とりあえずベッドに座り、窓から外を見た。この部屋に通じるテラスの先では赤い花が揺れている。
ーー一面の花畑。そっと目を閉じればジャックが私を見下ろしている。不意にノックの音がして目を開けば、ガスマスクをつけた人がいた。あら、起こしちゃったかしら、と告げた彼、もしくは彼女は私に近づいた。
「いえ、ただ寝転んでいただけですから」
「そう、よかったわ。今日は貴女の歓迎晩餐会よ。ドレスを選ばなきゃね。ここにあるのを好きに選んでいいわ、と言いたいけれど、貴女にあうサイズが、ねぇ」
クローゼットを開けた彼はああでもないこうでもないと服を選ぶ。買いに行くしかないかしら、と悩んだ彼に「何してるんですか」と先生の声がした。
「あら、ファル。何ってこのお嬢様がおめかしに無関心そうだからお洋服を選んであげてるのよ」
「ここにあるのは全て大きいでしょう」
そう彼は1着のドレスを差し出す。あら、アインスお兄様の色ね、といった彼に首を傾げれば彼もしくは彼女は私を見下ろした。
「ほら、一番大柄だったお兄様よ」
「あぁ、ドイツ系の」
「……ドイツ?」
「あれ違いました?言葉が少しドイツ系の人っぽいなって思ったんですけど」
自分が呟いた言葉が発端なのでそう首を傾げてみる。二人は顔を見合わせた。違うんだろうか、と思えば彼らはクスクスわらった。
「そうかもしれないわね」
「いやはや、貴女はやはり耳がいい。エスコートはアインスがしてくれるでしょう。テーブルマナーは?」
「自信がありませんが」
「そのまま頑張るしかありませんね」
そうドレスを私に渡した講師だった人はあとはお願いしますよ、とそばにいた人に告げる。わかったわ、と告げた彼は私を見下ろした。
「最後の晩餐にならないように気をつけなくちゃね」
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値踏みをされているのだろうと思う。どこの貴族の晩餐会だろうか。長い机の一番奥、私の正面にいるのはあの壮年の男性であるのを見ると彼は一番偉いらしい。左右に並ぶのは男性ばかりで、若そうな人といえばあの小太りな男のそばに座る彼らくらいだろうか。まだ子供だとか、なんとか、そう口々にぼやく彼らは権力者なんだろう。哀れな子供だ、と呟いた誰か。二、三人いる軍服を着た男は黙ったままであるが。
こういう席での立ち振る舞いは理解している。何故ならボスに叩き込まれ、またエヴァとも話をしたからだ。にこり、と人の良い笑顔を浮かべる。
「このような場所に只の日本人の学生をお招きいただき、ありがとうございます」
そうドレスをつまみあげて挨拶をする。一斉に向いた視線に、ああ勝負が始まったのだと理解する。値踏みだ。
「綺麗な英語だな、どこか留学を?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、自然に身についたといいますか」
「この場で泣きわめかないのは珍しい」
「生憎、すぐに先生ーーミスターファル連れ出して頂いたので実感がわかないのです。いえ、母親の教育のたわものでしょうか。ただ、こういう場ではきちんとしなさいと」
そう少し表情を落として告げる。立っていてはという言葉にアインスと呼ばれた男が椅子を引いた。ありがとうございますと笑んでそこに浅く座る。彼もまた席に着いた。ただ運ばれた料理を口に運ぶだけ。それだけで彼らは次々と判断を下す。たまに年相応の少しのミスもする。まぁ、話を振ってくるのは貴族のような人だけで、軍服をきた人達は一向に話を振らないが。正面にいたあの男性と目があったので少し笑みを浮かべれば、彼は小太りな男を見た。
「お前はどうやらいい拾い物をしたらしい」
「いい拾い物?こんなただの小娘が、ですか?」
「あぁ、そうだ。少し興味が湧いた。将以外は席を外せ。お前もだ、ザライ。アインス達は残せ」
そう言った彼に小太りな男が顔をしかめた。男は鋭い目で彼を見る。命令だと再度促した彼に私によく話を振った連中は席を外した。彼と軍服を着た男達がこちらを見る。
「さて、有意義な問答をしようか、ナマエ」
そう腕をついた彼は私を見る。
「君は出来すぎている、ただの学生としては」
「そんなことは……」
「猫は被らなくていい。命の保証はする。君は何者だ?」
「言ったでしょう、実感がわかないただの学生だと」
「実感が湧かなくても普通は泣き喚くかここは何処か尋ねる」
「……ここに来る時、貴女達はいくつか飛行機を乗り継いだ。最短ルートじゃないということは教えたくない場所ということでしょう」
「そうだ、君は賢いな。ちなみにどこだと?」
面白そうに尋ねたら彼に息を吐いて答える。
「貴方達が仮に日本政府が隠したい存在だったとして恐らく先の戦争で大国であったアメリカロシアの主要都市は核攻撃により多大なダメージをうけている。おそらくそこは除外される。かといって、街を見れば発展途上のそれではないし、気候的に赤道に近い場所でもない。東欧から中央アジアと考えるのが妥当かと。ただ、それも日本で得た知識の範囲内でしかありませんが」
正解だと彼はまた口元に笑みを浮かべた。
「では、もう一つ君に一つ尋ねよう。この場で全員が君に銃口を向けれたとき、君はどうする?」
物騒な言葉である。ピリッとした空気を無視して私はニコリと笑みを浮かべて頬杖をついた。
「そうですね、席を立たせていただきましょうか」
神経を研ぎ澄ませる。誰かの動きに反応できるように。数秒の沈黙。そして彼は大笑いした。
「面白い。君は他と違うようだ」
そう口元を覆った彼は私を見る。
「われらは君を歓迎しよう、ナマエ?」
掲げられたワイングラスにグラスを傾ける。
「お気に召していただけたようで、ミスター」
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