2018/11/13
アウターハッピーエンド2
アウターハッピーエンド2
ここにはあるとあらゆるものがある。正しくはあるとあらゆる兵器がある。すべての国の軍から押収したそれらはあの三人の将により分類され、配備されている。あの三人や周りに皇帝と呼ばれる男に連れてこられた先にあったのは厳重に保管された何かである。黒い布を退けたその先には青い宝石のようなものがあった。
「これは?」
「さぁな、私にもわからない。だが、これを手にしたものは不思議な力を得る」
「不思議な力?」
訝しげに彼を見上げる。彼もまたこちらを見下ろした。
「ある意味の選別だ」
そう言って彼は革手袋をはめた手でその青い宝石を私の掌に乗せた。宝石から反射した光が手に荊のようなものを描く。それを認識した瞬間、激痛が走った。
「落とすな」
ただその声に石を握る。声を出さないのは癖だろう。掌のようなものに描かれた荊のようなものが蔓を伸ばす。膝をつく。痛みが蔓に沿って上がりーーそしてそれが目に達した瞬間、燃えるような痛みへと変わった。しかし、それを感じたのは一瞬である。小さな悲鳴をあげたと同時に次に襲ったのは誰かの悲鳴だ。駆け抜けるように遠のいたそれに目の前の男の服を握る。荒い息で彼を見上げれば、彼は穏やかに私を見下ろした。
「やはり耐えたか」
そう私の目線に合わせて屈んだ彼は私の頬に手を触れる。
「右目か。新しいな。今までは四肢の何処かだったが。眼帯を用意しよう。今はこれで我慢してくれ」
彼はそう言ってポケットから白い布を取り出し、私の目にあてがうようにして簡易的な眼帯を作り上げる。私は片方の目で掌に閉じ込めた宝石を見た。掌に伸びていた荊はない。幻覚だったんだろうか。それにしてはあの痛みは。彼は宝石を私から取り上げるとその宝石をまたその台座に戻した。抱き上げようとした彼に、立てる、と呟くように告げて無理やり立つ。幾分かフラついたが大丈夫だろう。気丈なやつだな、と笑った彼は私を手招いた。
「君の処遇は考えるとしよう。とりあえず、今は休め。何かあればファルやアインスーー君が先生と呼んだ男と君をエスコートした男を頼ればいい……噂をすればきたな」
そう廊下をみた先には講師と先程の男がいる。皇帝と呼ばれる彼に一礼した彼らに彼は私の背を押した。
「部屋に案内してやってくれ」
「かしこまりました」
「では、また明日、ナマエ」
少しの笑みを浮かべた彼は、誰かに似ている気がする。はい、とただ返して頭を下げる。コツコツと足音を立てて廊下を行く彼を見送る。彼が曲がり角に消えたのをみて二人が寄ってきた。
「生きていたようだな」
「……物騒ですね」
「青い宝石に触れたでしょう?あれを持った人間は二種類に分かれるんですよ。触れてもなお息をしているか、息絶えているか。あまりの激痛にショック死する人間が殆どです。指先を触れただけなのに」
「待ってください、指先を触れただけ……?」
怪訝そうに私が二人を見れば二人は顔を見合わせた。
「あぁ、なんだ、有無を言わさず掌に乗せられましたか。貴女は宝石に興味がなさそうですもんね。と、いうことは、荊ではなく」
「薔薇の花か……右目を隠してるな、それか?」
「おっしゃっている意味がよくわかりません」
「眼帯を外しても?」
「別にいいですが」
私の返答に男がそっと眼帯を外す。こちらの目を覗き込んだ彼らに何だろうかと首を傾げた。
「……瞳の中は初めて見るな。あの方達は四肢だろう」
「えぇ、そうですね」
「今日は休んだほうがいい。部屋まで案内する。歩けるか?」
男の問いによくわからないままはいと答える。そのまま廊下を進みーー最初に通された部屋についた頃には12時を回っていた。
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その眞白な空間で、彼は心底嬉しそうに笑った。私を抱き寄せた彼は髪を撫で、私の名前を紡ぐ。その手を払ったのは私だというのに、彼はそんなことを気にも止めていないかのように。ナマエ、と私の名前を呼んだ。
静かに覚醒した意識に、ゆっくりと目を開く。感じた人の気配に勢いよく起き上がれば、誰かが座っていた。手元にはスマートフォンである。そちらに熱中している彼は迷彩服を着ていた。ということはあの日本訛りの言葉を喋る人だろうか。あぁ、マジクソだわ、とぼやくように告げた彼はスマートフォンの画面からこちらをみた。
「あ、起きたのかよ?」
少し不機嫌そうに日本語でそう告げた彼はスマートフォンをポケットの中に滑らせる。
「遅いお目覚めなことで。今何時だと思ってんだ?」
その言葉に時計を探す。唯一ある飾り時計は9時を指していた。
「9時ですね」
「よくもまぁ、あんな啖呵切っててぐっすり寝れるな。ま、そのおかげでお前のおもりを任された俺はゲームできたけど」
「あの、お名前は?」
「あぁ……89式だ」
「はちじゅう……?」
「89でいい。コードネームみたいなもんだ」
「あぁなるほど。日本人から日本製の兵器の名前みたいな感じですか」
「……わかんのか」
「少しだけ。89さん、お尋ねしたいのですが」
「なんだよ、食堂の位置か?朝飯まだだもんな」
「それもですが、シャワールームとか、着替えのありかとか」
私の言葉に彼はピシッと固まる。
「昨日そのまま寝てしまったので、先生やアインスさんも寝ろとだけ言って帰りましたし」
「……着替えはその辺のやつ着ろよ」
「趣味じゃないですが、選べる立場じゃないですね」
「この部屋も確かシャワールームはついてるというか、あっちだ。風呂はねぇけどな」
「……日本人としてお風呂入りたくなりません?」
「あぁ?慣れだろ」
それだけ返した彼にじゃあ曇りガラスの扉がそうかと近づく。そっと開けて覗いてみればシャワールームに続く脱衣所になっていた。きちんと綺麗なタオルなどもあるが、それと一緒に使いかけの化粧品も並べられている。
「89さん」
「あぁ?」
「髪に紫色のメッシュ入ったお兄さんってこの部屋使ってるんですか?」
「アイツは自分の部屋があるから使ってねぇ」
「あげたら使うかなあの人……」
「何を」
「脱衣所に並んでる化粧品」
そう言いつつ並んでいる口紅を見る。
「89さん」
「あぁ?」
「口紅型拳銃見つけたんですがどうしましょう」
ガタガタという音がして後ろに人の気配がする。振り返ればいた89さんにこれと指差した。
「スパイでもいたんですか」
「前にいたやつがな」
隣にやってきた彼はヒョイと口紅型拳銃を取り上げる。まじまじとそれをみた彼は「没収」とだけ告げた。シャワールームを開けてみれば綺麗だった。蛇口をひねれば出たのはきちんとしたお湯である。変なものも混ざってなさそうである。
「ちょっとシャワー浴びます」
「あぁ!?好きにしろ!!」
そう足音荒くそこを後にした彼はいい人かもしれない。
とりあえず着替えをいくらか拝借しシャワーを浴びて着替え、一応昨日いただいた布でもう一度目を隠した。脱衣所を後にする。89さんはソファに座り(というか完璧くつろいで)ゲームをしている。覗き込んで、そこは右から回り込んだ方が楽ですよ、といえば彼は勢いよくこちらをみた。……足音殺してたか。
「お前、」
「今さっきです。食堂はどちらですか?」
「服装似合ってねぇな」
「それは理解してますので」
「あの人に頼んだら買ってくれんだろ」
そう頭をかいた彼はこっちだと私を手招く。それについて部屋を後にした。
兵士達がザワザワと話す中を歩く。あの子供が新しい、可哀想に、いや違うらしいぞ、運がいい、片目あんなんだったか?、つぶされたんじゃないか。いろんな国の言葉で交わされるそれを聞き流しつつ歩く。
「お前、気にしないのな。自分のことってわかってんだろ?」
「気にしたところで教えてくれないでしょう?」
「そりゃそうだな」
そう言って大きな扉を開けた先には沢山の兵士がいる。敬礼をされた、ということは89さんは偉いんだろう。若く見えるけども。そのまま気にすることなく進んだ彼は、人がよりついていないテーブルに近づく。
「あら、89ちゃん。もう昼食?それとも朝食かしら?」
「こいつのな」
「あぁ、生きてたのね」
ニコニコ笑った彼は「こちらにいらっしゃい」と手招いた。そちらに行こうとすれば彼は顎でカウンターのような場所を指した。
「先に飯とってこい」
なるほど、とそのままカウンターに向かう。前から歩いていた青年が人を避けたことでスプーンを落としかけたので床に落ちる前にキャッチをする。
「落ちてませんが一応変えましょうか?」
そうスプーンを落としかけた青年に尋ねれば彼は目を見開いた。
「あ、いや……あんさん、なんでわかった?」
「はい?前から歩いてきてだでしょう?」
「いや、そやねんけど……下に落ち引いたわけやないし貰うわ」
彼はそう言って私からスプーンをうけとる。ありがとうな、あんさんは祝っといたる、とロシア訛りの入った英語で告げた彼を見送って首を傾げる。まぁ、兵士が私がどうすればいいかわからないから首を傾げたと理解したらしく、注文やらを手伝ってもらったのだけど。
とりあえず軽めの食事である。自分で作っていいなら自分で作った方がいい気がするが、流石にレーションなんかよりはマシだろう。が、89さんが思いっきり顔をしかめていたのでマズイのかもしれないが。とりあえず料理を持って89さんの近くに座る。前の青年に軽く会釈すれば彼もまた頭をさげた。
「マズイんですか」
「しらね。だが俺は部屋でラーメン食ってる方がマシ」
いただきます、と言ってそれを食べる。味が薄いが食べられないほどではない。メッシュが入った男性が私を見た。
「感想は?」
「自分で作った方が好みの味ですね。食べれないわけではないです」
「マジかよ……」
「89、あんさんが舌肥えとんのちゃう?」
青年の言葉に肩を跳ねさせた二人に首をかしげる。
「ゴースト!?おま、いつのまに……」
「さっきからおったちゅうねん。このお嬢ちゃんが噂のか」
「そうそう、ゴーストちゃんは出てたものね」
「包帯はどないしたん、珍しいな、あの人が連れてきてすぐ傷物にすんのは」
「あー、違うのよ、ファルが連れて帰ってきたようなものなのよね」
「そういや、長期任務云々とかいっとったな」
「で、あの方に気に入られたからあの人はノータッチよ」
あの方、あの人、恐らくあの方が皇帝をさし、あの人が小太りな男をさすのだろう。コツコツと足音が聞こえてそちらを見れば講師である。
「先生」
「はやめの昼食ですか?それとも遅い朝食?」
「後者です」
「先生?」
「暇つぶしに教師をしていたんですよ。なにせ、あそこでは外からくるモノなんて少ないですからね」
ニコニコとそう告げた彼はまた私の隣に座った。
「しかし、もう先生ではありませんし、ファルと呼んでください」
講師ーーファルさんに頷いておく。「昨日はあんな綺麗なテーブルマナーを見せていたのに」と告げた彼に「時と場所、対面する人によります」と答える。
「ここは気にしなくても良さそうなので」
「そういう子ですよね、貴方は」
そう懐からレースの眼帯を取り出した彼は私に渡す。趣味ではないんだよなぁ、と思いながらも受け取る。シンプルなものでいいし医療用のそれでも構わないのだけど。ゆっくりと巻かれている布を外せばそこにいた彼らが動きを止めた。
「あんまり見せるものではありませんよ、貴方に限ってはね。それはある意味象徴です、あの男たちや死んだ人間が得たくても得ることができなかった力のね」
その力が何か、分かりそうもないのだけども。
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