2019/04/30

君僕主if 没

ーーもしもの話です。
男はそう言って、口に笑みを浮かべる。この男の言葉に、耳を貸してはいけない。それは理解している。動悸がした。酷く。
「もしも、過去が変えられるのであれば、どうしますか?」
ねぇ、ビッグボス 。
そう告げた男に、俺はーー。

==タイムパラドックスだ!

果たして、私がしたことは歴史を変えることなのだろうか。その問いかけは宙ぶらりんに浮いたままだ。本来私が知る道筋であれば、彼が殺すのは私ではなくボスだったはずなのである。もしかしたら、大筋が変わらなければそれは改変にならないのかもしれない。私が変えたかった未来が変わらなかったのは今の仕事についてから、嫌という程理解していた。垣間見たあそこの歴史は、私が知る通りに進む。それもそうかもしれない。たった一人の道筋を変えても、歴史は多勢の道筋で作られるのだから。
庭に植えられた花が揺れる。あぁ、神さま、どうか彼に救いを。そう願ってみるけれど、恐らくその願いは叶わない。
「主、政府から役人が」
そう呼びに来た長谷部さんに、わかりました、と立ち上がる。短刀達が花畑をかけぬけてーー花びらが宙にまった。

「外国での話ではありますが、数千人、数万人規模の運命の改変が起きました」
挨拶もそこそこに役人はそう切り出す。数千人規模の改変とは、些か大きすぎやしないだろうか。そして、まさかの外国のことである。
「この国に関与は?」
「この国に被害はそこまでありません、が、世界的に見ると大打撃でしょう。外国の役人曰く、たった二人の運命を変えただけなのに」
その時点で嫌な予感がしなかったとは嘘になる。まさか、とは思った。同席していた私の刀剣も、役人の刀剣も初耳だったのだろう。
「二人?二人だけで数万人規模の運命が変わるだって?時代はいつだい?」
「長い目を見れば現代に値します。貴方にとってもね」
「第一次世界大戦?」
「いいえ、第二次世界大戦後、国際的には冷戦時代と言われた時代です」
それはもう殆ど答えといっても良かった。本来なら他国間で解決を図る歴史修正だ。恐らく日本を巻き込んだのは、私のところに来たのはそういうことだろう。
ーー誰かがジャックの運命を変えた。私ができなかったそれを成し遂げたことにより、運命が変わったのだろう。彼の存在はそこまで大きい。後世にとっては。
「……何をすれば?」
「理解が早いですね。何か心当たりがあるんですか?日本政府は全くわからないんですよ。ケネディの暗殺が起こらない、とかならわかるんですけど」
そう申し訳なさそうにした役人に、口を開く。
「貴方は私がどの時代の死から審神者になったか理解しているでしょう?」
「はい、まさしく問題が起こっている時代から」
「あの時代には表沙汰にされない事件がたくさんあるんです」
「オフレコってやつですか?」
「はい。そして、その中で一人の英雄が生まれている」
その言葉に彼は少し考えてーー思い当たったんだろう。
「あぁ、あの後に蜂起を起こした、ビッグボス と呼ばれる?」
「恐らく多くの人間の運命が変わったのは彼の運命が変わったからだ」
「待ってください、彼は大統領でもなんでもないんですよ?ただの兵士だ」
彼はあり得ないという風にこちらを見た。あぁ、これだからこの国は、と目を伏せる。
「彼は各国を飛び回り、紛争に手を貸している。何より、2000年代初頭に起きた事件の多くが彼を巡って起きたものだから、たった一人の兵士であった彼の運命を変えるだけで数万人規模ーーいや、現代史が全く違うものに塗り替えられる」
「他所の国のことだ、他所の国が抑えたらいいのでは?」
「立場がまるで逆転したな。結論を言おう。日本政府が私の魂を保護して見せたがーー、私は彼に殺され、彼は私を殺すことでその名称を得た」
「え?」
役人が動きをとめる。役人だけでなく、庭にいた私の刀剣達もこちらを見た。私は息を吐いて彼を見る。
「他国は私を指名してきた。違うかな?」
「そう、ですけど」
「なら、そこが改変されたんだ。恐らく彼は私を殺さなかったことによって起こったタイムパラドックスだろう」
「ちょっと待ってください、なら、今回の特命は」
側にいた前田が混乱したように告げる。
「私が彼に殺されるように仕向けることだろう」
私の言葉に刀剣達が絶望したような、そんな表情を浮かべる。私は一人、あっけらかんと笑う。
「まぁ、そんなに深く考えるな。私が彼に殺されなければ君たちの主にはなっていない」
「そう、ですけど、」
「それに、多分、行くのは君たちじゃない」
そう緩く首を左右に振る。役人はハッとしたように私を見て頷く。
「はい、他国は貴方に行くようにと」
「ほらな」
「しかし!」
「大丈夫だ、な?」
子供に言い聞かせるように告げる。本当は、大丈夫なんかじゃないのだけど。

==

誰が変えたのかは見当もつかない。ただ、誰かによって私と彼の運命は大きく変わったのだろう。私が過去に飛ぶのは、タイムパラドックスを利用した置き換えと言っていい方法だ。私が目を開けば、懐かしい場所にいたのは確かである。ただ少しだけ違うのは、私の腰には刀が差してあることぐらいだろうか。今から行われるのは歴史の改変と改変のぶつかり合いである。真白な世界で、佇む。無防備にやってきた彼は私を見て、目を見開くとーー嬉しそうにやってきた。私の名前を呼んで駆け寄ってくる。そこに私がいることを確認するように。様子がおかしい。ここに来るはずの彼が、こんな表情を浮かべるはずがない。
「ナマエ、本当にあの時のナマエなんだな!?」
彼は嬉しそうにそういった。私は足を一歩下げた。まさか、本人が改変をしているとは思わなかったからである。彼は一体、なにをしているんだろう。
「何を言ってるんだ、ジャック」
「あぁ、そうだな、そういう反応をするよな。ナマエ、一緒に逃げよう」
彼はそう言って私に手を伸ばす。
「俺は君がどうしてここにいるか知ってる。どういう任務なのかも知ってる。俺は未来から来たんだ」
さぁ、はやく。そう急かした彼に、馬鹿だなぁ、と思う。どういう経歴であれ、私が死んで彼が生きればいいとは外国の政府の言葉だ。私は彼を見て緩く笑った。そんな私をみて、彼は嬉しそうに笑う。しかしながら、私は彼の手に手を重ねることなく持っていた銃を自身に向かって構えた。ジャックが目を見開くのが見えた。私は、そのまま口を開く。
「さよなら、ジャック」
それだけ言って、私は引き金を引いた。衝撃、暗転、そして。

==

「まるでネズミ捕りだな」
そう言って頬杖をついた。歴史を変えたい未来の学者に彼が利用されているのはわかっている。その度に私が駆り出されてみろ。ジャックが私を殺さない不具合は、私が自害することで正し、ジャックがスネークイーター作戦を嫌がるのは無理矢理、バーチャスミッション、ザ・ボスに師事、軍にいた頃。そうして彼は私と出会わなければいいと思ったのか出会わなかったがそれはザボスに師事という合流地点が発生するため無効だった。何度も何度も諦めない彼に、もう諦めて受け入れてくれ、と願うがそもそも話をするタイミングなどない。……と思ったが、あまりにも終わりが見えないため(彼はのちに偉人となるので殺せもしない)外国の政府も困ったようである。まぁ、私任せで彼らはなにもしないのだけど。
何度目かの花畑で私は彼を待つ。泣きそうな顔でやってきた彼に、そういや私が死ねばいいのならば、彼と話せばいいのではないかと思いついた。
「ジョン」
そう彼を呼ぶ。彼は銃口を下げてただ私をみた。私は戦う気などないので木にもたれて彼をみた。
「ジョン、人はいつか死ぬものだよ。君が何度私を助けようとしたって、無駄なんだ。運命は決まってる」
私の言葉に、彼は理解したらしかった。
「運命だって?ここで君を殺すのが!?」
声を荒げた彼に、そう、と頷いた。
「歴史は変えてはいけない。君は一度、私を殺すという決断をした。それを変えてはいけない」
「本当は殺したくなかった!」
ただをこねる子供のようだった。子供だなぁ、と緩く笑うが、彼の周りに変化が現れたので口を紡ぐ。何か、ドス黒いものが彼を取り巻いていく。
「ーーお前は、ナマエじゃない。ずっとおかしいと思っていたんだ。彼女じゃない」
彼はそう言って銃を構える。どうやら今回は殺してくれるらしい。ズドン、という音と共に暗転する。

==

「歴史修正主義者とジョンが関わった時に飛ばないと永遠に繰り返すと思うのですが」
そう役人に言えば、涙目な彼は「うっうっ、二人の幸せな世界線が見たい」などという。歴史改変、と思ったが、そもそも私の家にいるジョンを連れてきたら話が早いのではないか、と思いだす。というか、彼は生きているのだろうか。とりあえず、一人、人を連れてきてもいいですか?と尋ねればそれで有利になるのであればと頷かれた。
とりあえず家に帰れば、ジョンがチカチカしながら眠っている。……未来が変わりかかって、彼がこちらに来るということ自体がおかしくなってるんだろうか。ジョン、と揺すれば彼はうっすらと目を開いた。
「ナマエ……?」
「私を生かそうとするのはやめてほしい。今の君が消えるぞ」
「なにを……?」
そこで彼は動きを止める。何か思い当たる節でもあったのだろうか。
「……どうなってるんだ?ある時期から記憶がダブってる」
「自分の体を見てみたらいいさ」
私の言葉に彼は自分の手を見た。透けて見えるそれに、彼は私をもう一度みる。
「どうなってるんだ?」
「過去の君が未来を変えようとしてる」
「……は?」
「過去の君がなんらかの力を使って私を生かそうとしているらしい。そうすると、ほら、未来が変わるだろう?」
「あぁ、」
「だから、今ここに君がいるということにもならなくなる」
私の手も透けてきたので、さっさと職場に戻るしかない。

没!!!



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