2019/06/06

兼任司書のカルデア話 没

・地味に既婚者同士じゃない?と思った兼任司書とシェイクスピアの話
・春司書→事件が解決したあとに帰ったのである意味未亡人
・外見が止まっているため若く見られるけど実はロマンより年上

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カルデアの図書を管理しているナマエさんとシェイクスピアは仲がいい。アンデルセンも仲がいい。よく三人でいるのを見かけるし、今日だってナマエさんとシェイクスピアは紅茶片手に楽しそうに話している。それを見て周回帰りのアンデルセンは眉間に皺を寄せたのだけど。
「既婚者同士で仲良くして、俺への当てつけか。嫌がらせか。俺も混ぜろ」
そう言って二人の近くの椅子を引いたアンデルセンに俺たちは動きを止める。しかしながら本人達は気にしていないらしい。そのまま文学談義に花を咲かせている。
ーー今、なんと。
俺はマシュを見る。マシュもまた俺を見る。
「え、今アンデルセンなんて言った?」
「確か、既婚者同士と……えっ?」
「えっ?」
数秒の空白、そして俺たちは叫ぶ。その声にサーヴァントが一気にやってくるのは時間の問題だったし、三人がこちらを見るのも当然のことだった。とりあえずやってきたサーヴァントになんでもないと言っておく。人がばらけたそこで俺はもう一度三人を見た。
「ナマエさんって既婚者だったの!?」
「いけませんぞ、マスター。ナマエを既婚者などとバラしては。今の発言で何人の心を折ったか」
やれやれと肩をすくめるシェイクスピアにマシュが完全な追い討ちですと告げる。
「ナマエさん、御結婚を……?」
「えぇまぁ、はい、してますね」
「実はシェイクスピアと秘密裏に結婚してたとか……?」
「おや、バレてしまいましたか。ええ、ええ、実はそうでして」
そう引き寄せたシェイクスピアにナマエさんは涼しい顔で紅茶を飲む。
「旦那様、人前ですので離してください」
「ほら、我が妻は恥ずかしがり屋でしてね。好評はしなかったのですよ」
「えっ」
「馬鹿馬鹿しい芝居はやめろ。二人とも既婚者のやもめ同士だ」
アンデルセンの言葉に、シェイクスピアは不満そうに口を開く。
「吾輩はそうとは言えない気もしますが。まぁ、妻はたしかに英霊ではありませんがね」
「うるさいぞ、蛆がわく方。花が咲く方はマイペースに茶を啜るな」
「その区別の仕方はどうかと思います。というか、貴方もやもめの定義にはあてはまりますし、三人揃ってやもめトリオですかね」
ナマエさんの発言にやもめトリオ……と俺たちは顔を見合わせる。ナマエさんは首を傾げた。
「しかし、何故そんなに驚くんですか?」
「お前が結婚していることを言わないからだろう」
「別に隠してないんですけどね」
「聞けば教えてくれますからな」
ねぇ、と二人して納得している様子は可愛ら……げふんげふんいつも通りである。まぁその会話はだから俺を挟むな!というアンデルセンの声明により絶たれるのだが。

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推しカプをくっつけたい藤丸、詩を送っても誰に当てられたものかを理解してもらえないシェイクスピア、そんなことなどあり得ないと思っているナマエ、さっさとくっつけと思っているアンデルセンとその他の提供でお送りします

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「え、え!?ナマエさんがレイシフトした!?なんで!?」
「こっちが聞きたいよ!!!」
バタバタと走り回るこちらに対しモニター越しのナマエさんといえばのんびりと草はらに座っていた。あ、ダメだこの人危機感がない。ドクターまだですか、などと言いながら周りを見渡している様はまさにそうである。
「ナマエちゃん、何があったの!」
「わかりません。いつものようにカルデアスを観測してたら電子音声が聞こえて逃げる前にこうなりました。ドクター、まだですか」
「まだだよ!時間かかるよ!」
そうガチャガチャとキーボードを鳴らすドクターに俺はモニターを見る。ナマエさんの周りには今のところ何もなさそうである。
「何か起こったと聞いて!」
よく響く声にそちらを見ればシェイクスピアとアンデルセンがやってきたのが見える。しかしながら、俺がここにいるのを見て二人は首を傾げたが。
「マスターがここにいるのに何をそんなに慌てている?」
「ナマエさんがレイシフトしちゃって」
「は?サーヴァントは?」
「誰もついてないから問題なんだよ!」
ドクターの言葉に食いつくようにこちらにやってきた二人はさすがやもめトリオというか、普段仲がいいだけある。しかしながら、モニターに食いついたシェイクスピアの顔は心配から違う表情になる。
「これはこれは……まさに絶対的な危機!」
そう嗤ったシェイクスピアは続いて口を開く。ペンと本を取り出して話を書く。あぁ、なるほど、スイッチが入ってしまったらしい。ナマエさんはナマエさんで、悲劇にならないようにしないといけませんね、などと言った。
「おい、マスターとサーヴァントを同じ空間にレイシフトできないのか」
「磁場が乱れていてできないんだ!そのせいでナマエちゃんを戻すこともできない」
「あぁ、これは、ひどく絶望的ですな!危機的状況に残された乙女!戻るすべはなく、進む手立てもなく!」
「シェイクスピア先生、私は乙女という年では……」
「突っ込むところはそこか」
「まぁ、作家というものはこういう方が多いでしょうし……しかし、困りました」
そう言ったナマエさんはしきりに上を見上げている。上に何かあるの?と尋ねれば、彼女は頷く。
「ドラゴン……ワイバーンと思われる生物が旋回してます」
「えっ!?反応が……磁場の乱れのせいか!」
「この高さでこの大きさだとさぞかし大きい……」
「そういうことじゃないからね!逃げて!」
「見渡す限り草原なので難しいです。……ふうむ……」
何かを考えこんだナマエさんにワイバーンの声が近くなる。逃げろ!と叫んだところで、なのだが。彼女は器用にくるりと降下攻撃を避けた。
「私を食べても不味いと思いますが、仕方ありません。先生、お願いします」
その声と同時に銃声がする。綺麗に目に当たったのか怯んだワイバーンは逃げていった。先生?とモニター越しに首を傾げれば、モニターに誰か映る。
「参ったね、参ったよ、司書、僕はたしかにワンダーランドを描いたがーーここはトールキン氏の方が良かった気がするよ!」
そう映ったのは少年である。
「え、誰?」
「おや、見えない声だ。ナレーションではないな?君こそ誰だい?あぁ、まった、もしや君が」
「残念ながら先生、彼はアンデルセン先生ではありませんよ。彼は藤丸くんです」
「あぁ、なんだ、噂に聞く……女の子ではなかったのか。残念。いや、待った、今の発言は我ながらないな、ないない。失礼、僕は主人公は少女派でね」
少年はそう言って銃を手放す。その瞬間、それは本へと変わった。え、とこちらが固まると、彼はシルクハットを脱いでお辞儀をする。
「はじめまして、そしてなんでもない日おめでとう!」
「なんでもなくないです。主に私が」
「それはそうだ、我が司書は異世界に飛ばされている、なんでもなくはないな!異世界記念日おめでとう!僕の名前はルイス・キャロル。こんな也だが元は数学者だ!」
そう名乗った少年に、ルイス・キャロル?と俺が首をかしげる。聞いていたドクターが声を上げた。
「え、えええ!ルイス・キャロルだって!?不思議の国のアリスの作者じゃないか!」
「おや、声だけの人がまた増えたか。その通り、その通りだ!」
「ナマエさん、いつの間に召喚したの!?しかもなんでアーチャー!?」
俺の言葉に彼女は少し考える。
「ドクター、今彼はアーチャーとしてデータ表示されていますか?」
「あぁ、えっと、うん、あれ?一応クラスはアーチャーなんだけど、表記がおかしいな……」
画面にはたしかにクラスがアーチャーだと表示されているが、他の表記がたしかにおかしい。
「あぁ、そうだろう、そうだろうな!司書の話を聞く限り、僕たちと君達は違うだろうさ!」
「司書……ナマエのことか?」
「おっと、また増えた。いったい何人いるんだか。そうだ、僕たちは彼女を司書と呼ぶ。彼女は本を管理する人物だからな!」
「僕たち……複数ときたか」
そうぼやいたアンデルセンに、ドクターは混乱したように口を開く。
「え、え、どういうこと!?」
「ドクター、彼らは総じて私の助手のような者です」
「助手?サーヴァントが?」
「彼らはサーヴァントではありません。近しいでしょうが違います。ほら、私の履歴書的なものに使い魔の召喚と書いてあるでしょう?他に説明の仕方がなかったのでそう書いたのですが」
「使い魔……やはり僕よりトールキンの方が良かったのでは?もしくはアヴァケロン氏なんかもいるだろう?」
「先生、それ以上人名をだすとややこしくなるので口を噤んで頂くと嬉しいです。お口にチャック」
「お口にチャック!」
そう繰り返したルイス・キャロルは黙る。その様はまるで子供だ。
「アヴァケロンも呼び出せるのか?」
「はい、ただ、サーヴァントの彼とは別人です。それに加えて恐らく彼はアーチャーとして表示されるかと」
「どういうことだ?」
「例を示した方が早そうですね」
彼女はそう言って持っていた手帳を開く。紡がれた言葉は台詞だろうか。執筆をしていたシェイクスピアが筆を止めて、吾輩の作品ですな、と口を開く。彼女の手帳が青く光り、アルファベットが宙に舞うとそれは一人の人の形を作り上げーー文字が散るように人の姿に変わった。
「おや、司書。珍しいですね、私を呼び出すとは。そしてここは?」
「ちょっとお待ちください。ドクター、彼はどうです?」
「ん、今度の反応はセイバーだ。やっぱり表示はおかしいけどね」
「誰かいるんですか。姿が見えませんが、ナレーションとも違うようだ」
「私の今いるところの上司です」
「あぁ、なるほど。お初にお目にかかります。私の名はウィリアム・シェイクスピア。劇作家として有名、ですかね」
そう紳士的に告げたシェイクスピア(仮)に俺たちはこちらにいるシェイクスピアを見る。彼は彼で目を見開いて話を綴るのをやめたが。
「おい、笑えない冗談はやめろ、そいつがシェイクスピアだと?」
「おや、私がシェイクスピアだといけませんか。声だけの君よ……あぁそうか、司書、君が予測を立てていたことですか」
「そうですね」
「そこ、うちうちで納得しないで!」
ドクターの言葉に、ナマエさんが口を開く。
「彼はシェイクスピアです。しかし、そちらにいるシェイクスピア先生とは少し違います」
「違う、というと?吾輩はそのような也の記憶はありませんが」
そう返したシェイクスピアに、もう一人のシェイクスピアは口を開く。
「吾輩ということはそこにいるのは私か。いやはや、面白い」
「シェイクスピア先生、貴方は紛れもなく本人でしょう。貴方は死した後、英霊として登録された。それに対して彼は違います」
「ーー私達は貴方達が作品に落とし込んだ魂と世の中に残されたエピソードで成り立つ。限りなく本人に近く、しかしながら本人と比べると違う人物だ。さながら双子、ファントムと言うべきか……司書、先程からルイス氏がウサギのように跳ねているが」
彼の言葉にナマエさんと俺たちはルイス・キャロルをみる。ぴょんぴょんと跳ねる様はたしかにまるでウサギだ。ナマエさんはそれを見て口を開く。
「あ、お口にチャック解除」
「ジィーッ!司書!ワイバーンだ!ワイバーンが群れをなしてきたぞ!」
「あ、本当だ」
「ワイバーン……!?司書、そんなのんびり言う雰囲気じゃないぞ!」
「トールキン氏だ!トールキン氏を呼べ!」
「よせ!トールキン氏は今日は機嫌がよろしくなかった!」
「では!ダレン・シャン氏を!」
「あの吸血鬼はよせ!昼間だ!どうせまともに動けん!司書、笑っていないで考えたまえ!」
ケラケラと笑っていたナマエさんはもう一人のシェイクスピアに何かを投げた。それを嵌めた彼は詩を、ルイス・キャロルはアリスの冒頭を読み上げる。その瞬間、本は形を変えて銃になった。それと同時にクラスもアーチャーへと変化する。ナマエさんの手にもいつのまにか銃がある。
「撃て!」
ナマエさんの声と同時に、銃声が轟いたのだけど。

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ナマエさんが無事に帰ってきた。というか、俺たちがレイシフトして彼らに割って入ったのだけど。また文字を散らして消えた彼らはナマエさんの手帳に戻ったのだけど。
「ナマエちゃん、色々聞いてないよ」
「マスター、今はよしてください……私は疲れました……ちょっと着替えてきます……」
そうよろよろと歩き出したナマエさんは部屋を出る。確かに、はじめてのレイシフトはかなり疲れる。それに緊張がきれたのもあるのだろう。未だ筆を動かすシェイクスピアの頭を突く。マスター!邪魔しないでもらえますかな!と怒られた。

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誰かが髪を撫でている気がする。そう緩やかに目を開く。そこにいるはずのない人物をみて、彼の名を紡いだ。黙って見下ろしたその人物はまた髪をなでる。それに安堵して目を伏せたのだが、あれは夢だったのだろうか。

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ナマエさんがシェイクスピアの指で遊んでいる。何してるんだろう、と二人を見ていればナマエさんが指輪を取り出してシェイクスピアの指にはめた。えっと俺たちが見ていれば、指のサイズは同じなんですね、とナマエさんがあっけらかんとつげた。
「……いや、少し大きいようですな。サイズ的にはこの指が一番かと」
そう言ってシェイクスピアが薬指に指輪をはめる。こら、いけません、とナマエさんが笑いながら告げた。
「その薬指は奥さんのものでしょう」
そうまた指輪を掠め取って歩いて行ったナマエさんにシェイクスピアが頬杖をついた。
「全く、困った御仁だ」
その表情は全く困ってなんぞいなかったが。


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ナマエさんからバレンタインデーのお返しをもらえた。マシュとお揃いで。紫色の石がはめ込まれた金色のブレスレット、だろうか。貴方達に効果があるとはわかりませんが、とだけ告げられたけども何だったのだろう。
「珍しく魔術礼装だね。ナマエに貰ったの?」
ダヴィンチちゃんが興味津々というようにお揃いのブレスレットをみて告げる。はい、とマシュが返せば「ナマエの技術って、結構面白いんだよ」と言われた。
「それ、多分東洋で言うところの式神が宿ってるんじゃないかな。紫色の石は……まぁ、魔力の塊みたいなものかな」
「式神?」
「うん、どう言うものかはわからないけどね。ナマエのことだ、悪いものではないと思うよ」

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「ナマエさん、シェイクスピアには何を貰ったの?」
「え? あぁ、はい、何篇か詩と花をいただきました」
そう少し困ったように告げたナマエさんに、首をかしげる。
「何か困ったことがあった?」
「いえ……そう言うわけではないのですが」
言葉を濁したナマエさんに、俺は何かはあったらしい、と察する。これはシェイクスピアをつついたほうがはやい。

「やめてやれ、人の地雷を踏み抜いただけだ」
そう告げたアンデルセンにシェイクスピアが両手で顔を覆った。地雷を踏み抜いた?と首をかしげれば、アンデルセンが口を開く。
「女やもめの元旦那が作家、なおかつ詩を残して死んだらしくてな。貴方も呪いを掛けていくんですね、と言われて今だ」
「傷を抉らないでいただきたい」
「おっとすまん、聞いてたか。死人に口なしかと思ったが」
「え、ナマエさんの旦那さん、作家だったの?」
「そうだったようで……」
「でも、呪いって何で?」
「その男の作った詩の問題だな。あの詩を要約すると、生まれ変わって会いに行くからお前は待っていてくれ、だ」
「え、ふつうに素敵な詩だな」
「マスター、その言葉は彼女を縛り付けている。その詩がある以上、彼女は待つことが義務になる。そして吾輩の言葉もその楔となるのでしょう」
「どう足掻いても修復を終えたら最後には俺たちは消えるだろうからな」
「……しかしながら、それでも彼女を吾輩に縛り付けて居られるのであれば、と思うのは恋に狂っているからでしょうな」
客観的にそう告げたシェイクスピアに、ついに自覚したのか、と思う。
「老いらくの恋は激しいそうだが、ほどほどにしてやれ」
「おっと、吾輩がいつ彼女に牙を剥いたと?」

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「か、館長さま」
アワアワとする紫式部に、何処からか弓を取り出していたナマエさんがこちらを見た。館長とは、と思っていれば紫式部はあわあわしながらナマエさんに頭を下げた。
「申し訳ございません……怪書の類が暴れてしまって」
「いえ、あの図書館の一部をつなげ紫式部さんに任せた私も悪いので。状況は?」
「カルデアのマスターの力を借りて怪書ハント中です……」
そう肩をがっくしと落とした彼女に、ナマエさんは気にしないでください、と笑いかけた。むしろ他の近代文豪達が原因でないだけマシというか、と言ったナマエさんに俺たちは首をかしげる。
「えっと、ナマエさん、知り合い?」
「えぇ、まぁ、私みたいに長年図書館にいると知り合いになるんですよ」
「それは答えではない気が……」
「館長さんは私に本の管理を任せてくださっているのです」
「ナマエさん、司書から館長に位上がってない?」
「もとより彼女は館長兼司書ですから」
「とりあえず、封印を施した怪書はいつも通り浄化します。ウィリアムさん達に手伝っていただきましょう」
ナマエさんはそう言って弓から手を離す。するとそれはまた花びらになって消えた。俺たちは現れた名前に首を傾げたけれど。
「ウィリアム……?」
「失礼……こちらのシェイクスピア先生とアンデルセン先生に」
「えっ、いつの間にファーストネーム呼びになったの!」
「……おや、アヴァケロン先生が」
「話を逸らさない!」

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「ちょっと待って、ちょっと待ってて、紫式部!シェイクスピア!いつからナマエさんにファーストネームで呼ばせてんの!」
「マスター、こういうことですので」
そう笑いながらナマエさんを抱き寄せたシェイクスピアに、ひゃーっと声が出た。周りにいた新茶やらもヒューヒューと棒読みで告げる。いつ、いつの間に、と騒げば、ナマエさんが何にもありませんよと手を外しつつ答える。
「彼が先生呼びをやめてほしいと言ったので……」
「あぁ、なんだ、そういうことかぁ。ついにかと思ったのに」
「何がです?」
「あー、あー、なんでもない」
首を傾げたナマエさんに、俺は首を左右に振る。シェイクスピアはナマエさんを見下ろした。
「それで、何か我々に御用で?」
「あぁ、ほら、先生達の出番ですので」
ナマエさんはそう言って何処からか取り出した指輪をシェイクスピアの人差し指に嵌める。ご丁寧に薬指に動かしたシェイクスピアを俺は見逃さなかった。まぁ、ナマエさんは見ていないのだが。ナマエさんは同じように指輪をアンデルセンにつける。
「一妻多夫制か、新しい。だがやめておけ、となりの男の妬みが激しい」
「まぁ、正妻ならぬ正夫枠は当然吾輩ですな」
「何馬鹿なこと言ってるんですか。先生達、体を動かすお時間ですよ」
「……は?今コイツはなんと言った?」
「いやはや、司書くんは大胆だねぇ。夜のお誘いかい?私も混ぜてほしいところだ」
そう言った新茶に、ナマエさんが艶やかに笑う。
「では教授もご一緒にどうです?貴方にできるかわかりませんが」
ナマエさんはそう言って何処からともなく取り出した指輪を彼の指にはめた。まじまじと見ていた紫式部が口を開く。
「あぁっ!どこかで見たことがある指輪かと思えば!文豪さん達の指輪では……!」
その言葉にナマエさんはにこやかに頷いた。
「はい、サーヴァントに合わせて調整しました。サーヴァントの魔力を持って暴れる怪書は通常の文豪達では手が出せないので」
「怪書……ああ、あの今暴れてるアレか」
「はい、そうです、陛下。とりあえず彼らには特効薬として働いていただきます」
「お前はたまに鬼になるな!鬼め!俺たちは非戦闘系サーヴァントだぞ!」
「大丈夫です、今のアンデルセン先生はアーチャーですので」
「何を馬鹿なことを!」
「いつものタブレット持ってみてください」
その促しにアンデルセンがタブレットを恐る恐る触れる。その瞬間それは銃へと変わった。それをみたシェイクスピアが自分の本に触れる。それはまた銃へと変わった。
「ふぅむ、これを嵌めていると霊基が変わる、ということかね?」
「いいえ、ちょっと色々あるんですよ。教授はこれを持ってみてください」
そう本を渡したナマエさんに、新茶はそれを受けとる。それはまぁ、鞭になるのだが。
「おや、鞭か」
「まぁ、貴方のことを考えるとそうなるとは思いました。ちなみにウィリアムさんは選り取り見取りなんですが、まぁ慣れておられないので銃で。さっさと回収してしまいたいのでいきましょう。習うより慣れろ、です」
この人意外にスパルタかもしれない、と思った俺は悪くない。

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ナマエさんは意外とスパルタだった。というか、指示のテンポがいいし飴と鞭の使い方が上手い。総じて、新茶が一言。
「あの君は指揮に慣れている。しかし、普段はずっと図書室にいるし、マスターというわけではない」
「まぁ、使い魔がいるのでその関係ですかね」
そう言ってナマエさんが何かを取り出す。とん、と机の上に置かれたのはワインの瓶だ。
「これは……」
「教授への報酬です。一応私の管理する中で高額なものから選んだのですが……貴方のワインの味の好みがわからなかったので」
「ふむ、働いた報酬にしてはいい方か。頂こう」
「俺たちにはないのか、俺たちには」
「教授はそこまで親しいわけではなかったし、巻き込んでしまったからなんですが……」
そう考えたナマエさんは、欲しいんですか?と首をかしげる。
「あるかないかと言われたらあるほうがいいにきまっているだろう!」
「しかしながら先生達はあんまり……」
そう言ったナマエさんは鞄を漁る。マシュが首をかしげる。
「なにが入ってるんですか?」
「アヴァケロン先生がなにがいいかわからなかったのでとりあえず突っ込んできたんですが……あぁ、インクがあります」
ナマエさんはそう言って瓶を取り出した。瓶の中は無色透明の液体が入っている。
「無色透明だ」
「これは特殊なインクで、友人が暇つぶしに作って教えてもらったものなんですけど」
「炙れば文字が出るとか?」
「そんな簡単なものではないですね。うーん、まぁ、予備はありますし、いいかな」
ナマエさんが瓶を開き、ガラスでできたペンみたいなものを取り出すとつけた。
「夏の夜」
そう言った瞬間、どろり、と色水が混ざるように色がはいる。
「満天の夜空に線引くほうき星」
その言葉にインクは黒い色になる。ナマエさんはペン先をあげると、近くにあった紙ナプキンに文字を書いた。インクは黒かと思えば、深い深い青らしい。時折ラメが入ったかのようにキラキラした色が現れる。しかし、インクが薄れるにつれて色は白銀に近くなりーー消えた。マシュが目をキラキラと輝かせた。
「最初だけ色を決められるインクです。だいたいならイメージ通りのインクになると思うのですが」
「素敵です……先程の言葉通りのものですね」
マシュがキラキラと目を輝かせて告げる。
「小さな瓶に入れておけばいろんな色を楽しめますが……二度と同じ色はできないのが欠点ですね。同じものをイメージしても人によって変わりますし」
「ダヴィンチちゃんが喜びそう」
「画家にとっては邪道ですよ」

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「野菜が足りない?」
珍しくエミヤさんが、私の部屋に訪ねてきた時である。どうしたのか、と聞けば彼は心底困ったような顔をして私を見下ろした。
「あぁ、野菜を育てていた場所でアクシデントがあってな。燃えたんだ」
それはどんなアクシデントだろうか……いや、なんだかドンパチしていた気がしなくもない。火を操る存在など結構いるからである。
「燃えた……しかし、なぜ私に?」
そう、そこが問題である。どうして彼は私を訪ねてきたのだろうか。まぁ、答えは「紫式部が君に頼めばいいと言っていたんだが……」という言葉でわかったが。彼女は図書館と本丸が繋がっていることを知っているのである。まぁ、カルデアに図書館(の一部)を繋げたのも実は私であるのであれだが。
「……食事は士気に関わりますからね……うーん、エミヤさんは口が固い方ですし……ちょっと五分ほど待っていただけますか?」
「あぁ、まつが……」
そう言ったエミヤさんに扉をしめる。ふわりと現れたむっちゃんは話を聞いていたんだろう。今年も石切丸の加持祈祷と土いじりが好きな作家のおかげで豊作であり腐るほど野菜はある、と言ったむっちゃんにならドラゴンのお肉と交換してもらおうか、と言えば彼は「おぉ、そりゃあえい!」と笑った。先に本丸に行ってくると消えた彼に五分もたってないなと扉を開けた。
「エミヤさん、野菜の代わりなんですが、ドラゴンのお肉をいただいても?」
「……あぁ、構わないが」
「で、野菜の調達にちょっと特殊な場所に行かなければならないので、口外しないでいただけると助かります。何かあれば私の貯蔵庫といってもらえれば。あと、運ぶのを手伝っていただけると助かります」
とりあえずマイルームから出てドラゴン肉を持ったエミヤさんを引き連れ図書館に向かう。周回に出ているのもあって図書館はまばらである。奥に入り、子供達が変な扉と騒いでいた扉の前にたつ。まぁ、普段は開けてもただの壁だが。周りに誰もいないことを確認して、つなぎませといえばガチャンとプレートの表示が変わった。
「これは……」
「私の使い魔達の住居スペースです。世界の狭間にあるので何も影響を受けてないんですよね」
「いろいろ初耳だな。君が優秀な魔術師だとは知らなかった」
「バレると追われてホルマリン漬けと日本人の友人には言われました」
そう言いつつ扉を開ける。その先はいつもの通り森の小径である。こちらです、と手招けば彼は一拍おいて中に入った。
「あるじさま!おかえりなさい!おやすみですか!そして新顔ですね!」
そうこちらに抱きついた今剣の頭を撫でる。
「おやすみではありませんが、お野菜を取りに来ました。かれはエミヤさんです、藤丸の部下?みたいな人です。厨房組は?」
「もうすぐきますよ!」
そんな会話をしていれば、ひょこりとむっちゃんが顔を出す。それに続いて歌仙と光忠さんが現れた。
「あぁ、もうきたのか。お茶を準備するよ」
「すぐに戻るからいいよ」
「おかまいなく……」
「野菜がないんだって?今年はかなり豊作だったからどうするか困ってたんだ。ただ、季節の野菜しかないけどいいかい?」
「それは構わない」
「で、これがドラゴン肉」
「ドラゴン肉……何肉と似てるんだろう……」
「……箇所によるんだが……持ってきた箇所は牛肉に似ている。ステーキにも向くが煮込み料理にも向いてる」
「なるほど……君、料理できる人だね?」
光忠さんがそう言ってエミヤさんを見た。私はとりあえず向こうの厨の光忠さんみたいな人だから、と言っておく。
「じゃあハーブ類やフルーツなんかを渡しても構わないよね?とりあえず、どれぐらいいるかわからないし、畑についてきてもらっていいかな?」
「あぁそういえば主、手紙がたまっていたよ。箱を持ってくるから待っててくれ」
そう言って消えた歌仙に私は大人しく待つとする。エミヤさんに光忠さんについていくよういえば彼はついて行った。ちなみに手紙は山ほどあったし、エミヤさんが野菜が詰まったダンボールを抱えることになるのは数十分後のことだ。

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・縮んだ二人

「多分館長さんが司書さんになる前かと」
そう言ったのはかの有名な紫式部らしい。未来の部下です!と言われたけれど、私の未来に何があったんだろう。あと、むっちゃん達もいない。少し不安である。あとはかのシェイクスピアだとかアンデルセンだとかと仲がいいらしい。殆どが人間じゃない気もするから余計に訳がわからない。もう一人いる人間の子は私よりも短刀よりも幼い。今はぐうぐうと眠っているが。
「何がどうしてこうなったんですか?」
「若返りの薬でちょっと」
「若返りの薬?解毒薬はないんですか?」
「それがないからこのままなのよ」
苦笑いしたブーディカさんに、私にできることはやりますが……と告げる。なんにせよ、未来の私がいるのなら信頼できる人なのだろう。助かるわ、と告げた彼女達に私はそっと息を吐いた。

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場所を案内されて、会った人(正しくは英霊、サーヴァントというらしい)に説明されたのだがいかんせん人が多い。完全な幼児化ならともかく、中途半端な分向こうも扱い辛いだろう……というのは前置きでただ人見知りである。なので、ただただ私が辛い。シェイクスピアさんはめちゃくちゃ絡んでくるし、というか欧米の人のスキンシップが激しくて困る。落ち着かない。向こうは気にかけてくれているが。
「なんだ、ナマエ殿、人見知りだったのか?」
そう言った和装の坊主の人に、目を泳がせて下がる。いやはや、その機はあると思っていたが……と告げた彼に私はなんとも言えなくなった。どうやら未来の私も人見知りらしい。
「あぁ、すまない。こちらは知っているが、ナマエ殿は知らぬか。拙僧は宝蔵院胤舜という」
その言葉にピクリと反応した私は悪くない。習った内容に出てくる人だ。
「あの宝蔵院流槍術の?」
「知っているのか?」
「はい、存じ上げております」
「ははぁ、意外だったな。ナマエ殿は興味がないかと思っていたが」
「未来の私はよくわかりませんが、今の私は存じ上げております。槍術界では有名な方ですので……」
「ん?もしや、ナマエ殿は槍術を?」
「……学校や家族みたいな方に軽く教えられましたが、十文字槍ではありません。刀の方が得意です」
「……それは初耳だ」
そう目を瞬いた彼は、にこやかに笑う。ならば、拙僧が稽古をつけてやろうか?と尋ねられたが、多分学校や槍三人に教わっているあたり流派がごちゃごちゃだろう。
「拙僧と稽古をしていれば、南蛮のサーヴァントに絡まれることも少なかろう」
「うっ、すごい口説き文句です」
がっくしと肩を落とす。たしかにそうである。なので、ほどほどによろしくお願いします、と言えば彼はカラカラと笑ったのだけども。

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宝蔵院さんと一緒にいてわかったことだが、日本人のサーヴァントが結構いる。土方歳三とか沖田総司とか織田信長とか佐々木小次郎まてか宮本武蔵とか牛若丸とか。性別はまぁ突っ込まないでおこう。どうやら未来の私は西洋のサーヴァントと仲が良かったらしい。たまにシェイクスピアさんが私の部屋にいたりするのはだからだろう。だからといって、ベッドで寝てたりするのはやめてほしいし起きたらいるのもやめてほしいがそれは閑話休題である。
「しかしあの司書さんが槍術を扱えるとは」
「あぁ、飲み込みが早いし筋がいい。だが、刀の方が得意らしい。な?」
そう見下ろした宝蔵院さんに一応そうであるので頷いて肯定をしめす。向いた視線を気にしないふりをして出されたデザートを食べる。美味しい。竜神みたいな存在が近くにいる白い帽子を被った人が口を開く。
「意外だなぁ、未来の君にそんなイメージないんだけど」
「武力は最終の手段ですから……多分……未来の私のことはわからないですけど」
そもそも未来の私は何歳なんだ。恐らく英霊ではなさそうだが、色々と疑問が湧くのは確かだ。
「あくまで今の私は自分の身を守るため、理解を示すために習ったので……もしかしたらもう必要がないのかも……」
「流派はどこを?」
そう尋ねた沖田さんに、「北辰一刀流を」と返す。
「おや、僕と一緒で柳生さんところじゃなかったのか」
「私の幼馴染のような兄のような方がそちらの流派だったので。北辰一刀流の英霊……洋装……帯刀している刀……もしや、坂本龍馬さんでは……」
「詳しい。あぁ、ごめん、名乗ってなかったね」
そう笑った彼は、坂本龍馬と名乗る。なんてことだ。というか、道理でむっちゃんと何処か似ているはずである。私のテンションが一回りして、私は自分の背後を見る。
「むっちゃん!むっちゃん!聞いた!?坂本龍馬だって!」
そういえば周りが首を傾げた。側にいたむっちゃんが苦笑いをして桜をまわす。そうして再度現れた彼は苦笑いした。
「主、言わんかったワシも悪いんじゃけんど……サーヴァント達はワシらを知らんぜよ」
「え、そうなの?」
「おん……まぁ、そんなに警戒せんと。ワシは主の使い魔じゃ」
そう名乗ったむっちゃんに私は否定する。
「使い魔じゃないよ、家族でしょう?」
「……おん、そうじゃな……主のお兄ちゃんじゃ!」
そうぐしゃぐしゃと私の頭を撫でたむっちゃんに、ワッと声を上げる。そのままケラケラと笑っていれば、むっちゃんは「いつも主が世話になっちゅう」と彼らを見て頭を下げた。
「土佐弁だ」
「おん、そうじゃな。ワシは土佐出身やき……」
「僕や以蔵さんも土佐なんだ」
「知っちゅうよ。おんしらのことはよう知っとる」
ニカリと笑ったむっちゃんに積もる話はないのだろうか、と思えばないらしい。こちらを見下ろす顔は少し説教モードである。
「主、不用意にワシらを呼び出しちゃいけん」
「どうして?」
「主、ワシらを呼び出せる主は……」
そこで彼は言葉を止める。私はそれを見て首をかしげた。
「むっちゃん?」
「……主、ワシは怖い目にあわせたくないき、いや、ワシらは主が怖い目にあったら守る。今を生きる人やなければ。けんど、主、それ以外はどうもならん。主が使えることのほとんどは西洋では珍しい。やき、狙われやすいんじゃ」
そういった彼は心配そうにこちらを見る。
「ワシは主にあんな目にあってほしゅうない」
どうやら未来の私は一悶着あったらしい。とりあえず頷けば、主はええ子じゃ、と頭をくしゃくしゃと撫でられる。
「ま!ワシは主とおるかのぅ。色々わからんこともあるようじゃし……」
「ほんとに!?」
「ほんにじゃ」
またぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。それがくすぐったくて笑えば、周りがキョトンとこちらを見た。
「おまえ、そんな顔で笑えるんだな。お竜さんは今の顔の方が好きだぞ」
そう言ってセーラー服をきた彼女は普段は何考えてるかわからないからなと告げる。
「あんまりお竜さんが近づきたがらなかったのはそれでかい?」
「いや、悪戯しようものなら封印されそうだった。多分、こいつふだんはししょーだなんて言ってるが、違うぞ」
「師匠?」
「司書ね、司書」
「未来の私はそうなんでしょうけど、今の私は巫女に近いですよ」
「ほらな」
「それも初耳だな。神道に身を置いてるのか」
宝蔵院さんの言葉にむっちゃんをみる。むっちゃんは苦笑いしただけだ。
「未来の私と今の私の間になにがあったの?」
「色々じゃ、色々」
「でも、神職として席を置いてないんでしょ?」
「おん、そうじゃな。図書館の司書さんじゃ」
「自分のことながらわけわからないなぁ……家族で暮らしてないの?」
そう尋ねれば、むっちゃんは目を見開き、そうじゃな、と目を伏せた。
「家族と暮らしゆう」
「……ならいいや」
恐らくは嘘なのかもしれない。でも、多分突っ込まない方がいいんだろう。
「むっちゃん達もそばにいてくれてるみたいだし」
「おん、それはお墨付きぜよ!」
「仲がいいな」
「もちろんじゃ!」
「というかお前誰だ」
「主の使い魔、むっちゃんぜよ!」
そのスタンスでいくのね。

==

「シェイクスピアさーん、部屋で寝てくださーい。私の部屋は貴方の部屋ではありませっ!?」
掴まれたと思ったら引き込まれたわけでして。寝ぼけているのかいないのかわからないが。ちなみにむっちゃんは戻った。そばにいてくれないらしい。彼は私を抱き枕のように抱え込む。刀以外の成人男性にこんなことをされたことがない私はパニックになる。え、なんだ、なんだ、と思っていれば、するりと手がお腹に周り、首元に吐息がかかる。こそばゆい。
「しぇ、シェイクスピアさん!はなしてください!恥ずかしいです!」
「んっ……ナマエ」
「ひぇっ、」
艶やかな声とはこのことだろうか。耳元で囁かれたそれに、本当にパニックである。これはほんと涙目だ。
「うぇっ、」
ポロポロと流れた涙小さくあげた嗚咽に、シェイクスピアさんが起きたらしい。いつものような軽口で、おっとナマエ、ここは吾輩の部屋でーーと言いかけた彼は私を見て動きをとめた。
「うぅっ、酷いです、シェイクスピアさん、酷いです」
「ナマエ?」
「欧米の方は、そうかもしれませんが、あんなことされたら、困ります。お嫁に行ったわけじゃないのに」
ぐすぐすと泣きながらポカポカと彼を叩く。彼はキョトンとしてこちらを見た。その大きな手で涙を拭った彼は、申し訳ない、寝ぼけていまして、と告げた。そうだろう。
「泣くほど嫌でしたか?」
「違います、パニックになっただけです」
「ふむ、なるほど、ナマエはこういう経験がないと!」
「悪かったですね!私は神職者なので、こういうことしないんです!」
「ほう……?ファーストキスもまだ、と」
「うるさいです!」
バシバシと叩いていれば、シェイクスピアさんは私の手を掠め取るとキスを落とした。
「っ〜〜!!」
「おや、真っ赤ですぞ」
これだから、この人は!!!

==話がすぐに脱線するね!!!


「わかりません、未来の私がどうしてここにいるのか、ここの機関が何なのか。今の私には全くわかりません」
そうだ。今の私にはわかりっこない過程をすっ飛ばしての今だからである。
「しかし、いくつかわかることもあります。ここの人達は決して敵ではないし、私は恐らく日本政府の組織に言われて来たのでしょう」
「日本政府?」
「一般市民が魔術師の存在をしらないように、魔術師である貴方達が知らない世界もあるということです。私は理解しました。私はカルデアの本を管理するために来た、それは上部だけの話でありーー最後のマスターである藤丸立花を見守るのが役目であると。そして、貴方達のような他の次元の介入から彼を守るのが使命であると」
「サーヴァントがいないお前に何ができる?」
そう尋ねた男に藤丸を近くにいたマシュに渡す。前田、平野、と呼べば現れたその短刀を彼と彼女に渡してただ彼を見た。
「使命だなんだと言っても戦う術があるまい」
嘲笑った彼の周りにいるのはサーヴァントではない。ただの遡行軍だ。蜻蛉切、と名を呼べば現れた本体に彼はまた笑う。
「マシュ、藤丸を安全な場所へ」
「しかし、ナマエさんが」
「私は大丈夫です」
「お前が!お前が戦うというのが!哀れな子供だ!自らただのゴミ屑になりに来たか」
その言葉に一気に間合いを詰めて槍を刺そうとしたら短刀型が反応したらしい。奇妙な悲鳴をあげたそれに男は目を見開いた。
「お話は終わりましたか?」
「っくそ!出合え!」
そう叫んだ男に、遡行軍が襲ってくるのだけど。

==

キリがなかった。刀をばら撒きながらいう言葉ではないが、キリがなかった。今は大方落ち着いているが。痛いしぼろぼろである。兄弟揃ってお前達は、と頭の中で先生の声がしたが気にしない振りである。少しの油断が命取りになるとはこのことで、ナマエ、と呼ばれた声に反応してしまったのが悪かった。ズドン、という音がして、腹部に熱を感じる。撃たれたな、と思った、し、事実撃たれている。そこにいるのはシェイクスピア先生ではない。彼と同じ声で話しながらどろりと解けたのは先程の男だ。
「死んでいただけませんか、邪魔なのですよ」
膝をつく。ここで死ぬわけにはいかないので、ありはや、と紡ぎかけた所にバタバタとやってくる音が聞こえた。ナマエさん!と呼ばれた声、私の前に出たサーヴァントに彼らはどちらだろうかと気配を読む。そうして、藤丸のサーヴァントだと理解した瞬間、私は安堵したし、安堵してしまった。よろりと倒れ込みかけて、それを耐える。
「それが元の姿でしたか。よかった、元に戻ったようで」
「ナマエさんが時間を稼いでくれたおかげだよ!」
藤丸の言葉に苦笑いをする。あとはサーヴァント達に任せた方がいいだろうと手を振って刀達を本丸に返そうとするが、帰らない。ヒヤリ、とした空気に、寒い……?と藤丸とマシュが告げた。サーヴァント達も殺気だけは感じ取っているんだろう。周りを見渡す。
「怒っちゃったかぁ……」
はたして、その怒りは私に向けられているのだろうか。彼に向けられているのだろうか。男は見るからに顔を青くして動かない。違う、動けない。
「なんなんだ、これ、」
「私か貴方が彼らを怒らせた」
「彼ら……誰かがいるのですか?」
そう告げたマシュに、ありはや、と言葉を告げる。しかし全てを言う前に桜を纏って現れた彼らは男にあらゆる刀剣を突きつけていた。
「ダメです。殺しちゃ。サーヴァント達の取り調べの後に元の世界にポイするのが正解です」
その言葉に彼らは渋々武器を下ろす。しかしながらまぁ、堀川あたりが意識飛ばさしてたけどな。その瞬間、加州と大和守が声をあげた。
「あるじ、死なないで!」
「そういやこのころは過激だったねぇ、主は」
「のほほんしてる場合か!」
「おい、医者!主が撃たれてんだ!」
「えっ?」
こちらを見た藤丸に肩をすくめる。というかサーヴァントもこちらを見る。患者はどこですか、という声に私は動きを止めた。

==

「はい……ごめんなさい……もうしません……」
ナマエさんがこんこんと説教されている。大多数に。正座をして、項垂れている彼女には痛々しい包帯が巻かれている。かれこれナマエさんが目を覚まして食堂にきて、彼らの一部が号泣したので宥めて数時間続いている気がする。次第にナマエさんが涙声になってきているが。マシュが見兼ねて口を開く。
「あの、そろそろ、解放してあげては……」
「外野は黙っててくれ!……ともかく!主!ああなる前に我らをお呼びください!貴方が命を落とせば身もふたもないんですよ!」
そう最後に雷を落としたカソックをつけた男性は、グスグスと鼻を鳴らすナマエさんを見て、誰だ泣かしたのは!と告げた。
「長谷部の説教が長いからでしょ」
「あーあ、可哀想な主。一緒にプリン食べよっか」
「主の近侍である陸奥守が怒らないからだろう!」
「おぅおぅ、ワシに責任転嫁かえ。ワシは何度も主におこりゆうし、今回の説教はおんしらに任せただけじゃ」
「……あしくずしたい……」
「さては主、反省してないな?」
その発言にナマエさんが肩を跳ねさせた。そうしてあげた顔はしてるもん!と言いたげである。思ったより子供らしい。
「ナマエさんにはどれぐらい使い魔がいるんですか?ざっと見で数十人はいらっしゃるみたいですが……」
「桜隊とか来てないから本当はもっといるけど……」
「桜隊?」
「ああ、主の姿の時代は俺たちだけだもんね」
「……こんなのはっきり言って化け物レベルだぞ」
「当たり前でしょ、僕たちの主なんだから」

==話が逸れたけども没!



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