2019/06/16

兼任司書リハビリ



食堂は大惨事である。ピタゴラスイッチのように、ドミノのように、食材が食事が全てダメになってしまったのだ。そしてこの雨、外に出ることも億劫なのであるし、近所のスーパーは改装工事のために閉まっている。このままいくとナマエちゃんを除きご飯抜きになるのだ。ちなみにナマエちゃんの会派はナマエちゃんに連絡を取り自分たちだけ助かろうとしていたので、知っている全員で確保し、ナマエちゃんを呼び出した顛末である。
「苗字さんはご飯食べたの?」
「えぇ、まぁ……野菜はあまりに余ってたけど……他はあったかなぁ」
そう考えたナマエちゃんに、誰かが扉から顔を出す。丸眼鏡をかけた彼は見たことない顔だ。
「主、話は早くすみそうかな?本を借りたいんだけれど」
「あぁ、別に構いません」
「……酷い有様だね、罠でもつくったのかい?」
「いいえ、ちょっとトラブルがあったみたいです。ここ物騒じゃないので違いますよ。ピタゴラスイッチみたいになったそうです」
「あぁ、ピタゴラスイッチ……鶴丸さんかな?」
「我が家は故意、こちらのピタゴラスイッチは故意でもなんでもないですね」
しみじみと二人で納得しているのはピタゴラスイッチという名前を使っているだけあって可愛らしい……気がする。
「と……なると、食事の問題かな?」
「そうです。でも今日は番付七番勝負からのへべれけデーなのでまともな大人がいませんね」
その発言に一部文豪がガタリと動いたが危ないからダメと言われた。一体なんだ、へべれけデーって。
「まぁ、なんだ、台所は無事だし食材があればなんとかなるぜ」
「野菜中心になりますがいいですか?」
「わがままは言えないしな」
「運ぼうか?」
「いえ、蛍丸や文豪さんがいるし一部下戸は多分大丈夫でしょう。朝尊さんは本を選んでおいてください。志賀先生は一緒に来てもらっても?」
「あぁ、手伝う」

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志賀先生とナマエちゃんのところにいる子供だけが来たので首をかしげる。何品か美味しそうな料理と野菜の入った箱をもってきた彼らは私達の視線に口を開いた。
「主ならへべれけに捕まってるよ。今から多分裏七番勝負突入じゃないかな」
そう言ったはじめましての少年は力持ちらしい。近くにいる乱ちゃんが、「僕も裏七番勝負参加したかったなぁ」と唇を尖らした。
「裏七番勝負?」
「半年に一回、七番勝負っつー隊対抗戦があるんだよ。それで一番とったやつの多少の無茶な頼みも主が聞いてくれるんだ」
薬研くんがそう言ってやれやれと肩を回す。
「前回は僕らで、古今東西お菓子パーティーしたんだけど、今回はそれを見た日本号と次郎太刀がお酒パーティーするっていってさぁ?」
「まぁそうなりゃ無限の酒呑み止めるために裏七番勝負になるってわけ」
「明日二日酔いだらけで俺たちに仕事回ってくるしね」
向こうは向こうでどうやら大変らしい。話のネタにしたい文豪達が、料理を並べながらたずねる。
「裏七番勝負とは?」
「主と各刀派頭一人とその勝ち残ってる隊で勝負するんですよ!」
そう言った秋田くんに私達は動きを止めた。
「春夫達がいなくてよかったよ〜今日のあの感じだと巻き込まれてたでしょ。陸奥守お酒結構好きだし」
「佐藤先生と陸奥守の勝負ちょっと見たかったけどなぁ」
「あぁ、だからナマエに止められたのか」
そう納得した佐藤先生に、周りがそうだねぇと頷いた。そりゃあ止めるよなぁと。
「というか、ナマエは巻き込まれて大丈夫なのか」
「大丈夫大丈夫、主ああ見えて北辰一刀流免許皆伝だから」
さらりと言われた言葉に私達はかたまる。どうりでナマエちゃんは按司とやりあうわけである。というか、初耳だ。短刀達はちゃっかりと自分達の分の料理をキープしつつ口を開く。
「今は結構流派混ざってるけどな」
「みんな自分使って欲しくて押し付けるしね。主がこれ以上は流石にって断ったし」
「最近忙しいから手合わせ部屋も朝だけだしなぁ」
「まぁ、心配すんな。主相手だと流石にみんなある程度手を抜くし、最後にはこんなに成長して〜って号泣して終わるの見えてるから。本気になった瞬間、隊長格総出で止めにいくしな」
「あぁ、あったねー!」
「なんだそれ知らないぞ。誰だよ、そんなことした奴」
「同田貫の旦那だ。あの時はどっちかが負けを認めないと勝負終わらなかったしな。志賀先生ー、飯はまだかー?」
薬研くんがそう厨房に声をかける。志賀先生が振り向いた。
「もうすぐだから待ってろー」
「なんや自分らも食べるんかいな」
「今日、へべれけデーだからご飯全部おつまみ系なんだよね。いつもならちゃんとしたの光忠さんが別に作ってくれるんだけど、今日は裏七番勝負に巻き込まれてた」
「あれ?小豆さんもいなかったか?」
「小豆さんはへべれけ組だよ」
「上杉か」
「上杉だね」
そういって納得した彼らは運ばれてきた料理に、美味しそう、とめを輝かせる。うずうずと何かを待っているので首をかしげれば、みんなでいただきますしないの?と言われた。可愛い。というか向こうはするのかな。まぁそれを聞いた棋院がいただきますというとある程度みんないただきますと言った。ノリがいい。
「まだいっぱい知らない人がいるんだなぁって思うなぁ」
「そういや蛍丸もはじめてだっけか?」
「うん、たまーに愛染と本は借りに来るけどね」
どうやら力持ちの少年は蛍丸くんというらしい。愛染くんは赤い髪の男の子だろうか。話を聞いていた秋声先生が彼らを見た。
「結局、とう……使用人って何人いるの?」
「あー、今……70……」
「七十五じゃなかった?」
「そうそう、朝尊先生と肥前で七十五人だ」
その台詞に私達はかたまる。え、ナマエちゃんその人数捌いてるの。図書館の文豪よりも多くないか。佐藤先生もそんなにいたとは知らなかったらしい。
「そんなにいたのか」
「通りであの家が広いわけだなぁ」
そう納得するナマエちゃんの会派と一部文豪に、最近来た文豪達は目を瞬いた。
「えっ、苗字さんの家って七十五人使用人がいるってこと?」
「子供も使用人、なんだな?」
そう一部から戸惑う声があがった。わかる。
「おっ、旦那達ははじめましてな気がするな。そうだぞ、俺たちは使用人で、大将には七十五人の使用人がいるし多分これからもまだ増えるだろうな」
「増える!?増えるのか!?」
「側から聞いてりゃあアイツ何者だよって思うな」
頬杖をついた啄木さんに、私達は頷く。たしかにそうなるし、恐らく一部の文豪達は思っている。
「結局あの子は何者なんだ」
「大将は大将としか言えないな」
それはそうなんだけど。

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「ナマエ、裏七番勝負の勝敗はどうだった?」
「練度が弱い相手にはまだ負けませ……ん?」
菊池さんから出た言葉に首をかしげる。この人なんて言った?裏七番勝負って言わなかったか?そうキョトンとして見ていれば正岡先生が口を開く。
「薬研に聞いたぞ、ナマエは北辰一刀流の免許皆伝らしいな」
「いや、えぇ、まぁ、そうなんですけど、えっ」
そう周りをみる。もしかしてみんな聞いたんだろうか。私の様子を見て佐藤さんがみんながいるところで言ってたからな、と言う。
「吉川先生が来る気がするので黙ってたんですが……」
私の言葉に反応するようにノックが聞こえる。どうぞ、と声をかければ徳田先生が顔をのぞかせた。
「苗字さん、いる?」
「はい、います」
「ちょっと相談があるんだけど……」
そう言った彼に首をかしげる。
「刀の扱い方教えて欲しくて」
「刀?」
「あぁ、そうか、先生は刃に変わるんですね。ほら、ナマエ、この前特殊な指輪がって話をしただろう?」
「あぁ、報告書は読みました。配備されたんですか?」
「先に僕だけね」
はぁ、と肩を竦めた彼にふぅむと考える。今まで弓だった分、距離感が掴めないんだろうか。
「刀の長さってわかります?」
「長さ?」
「刀の長さによって種類が変わるんです。大太刀なのか太刀なのか打刀なのか脇差なのか短刀なのか……それによって扱い方も変わるので」
「長さ……長さか」
「見せた方が早いんじゃないですか」
佐藤さんの促しに徳田先生がそれもそうかと本から武器を取り出す。確かに刀だ。
「打刀。まぁ、場所を選ばず使いやすいですもんね」
そこまで言って、さて、扱い方とは?と首をかしげる。
「刀の手入れ、ではなく使い方ですよね」
「そうなんだよ」
そう言って武器をけした先生に、ふむと考える。私の行き来している扉が開いて同田貫と御手杵が現れた。
「おい、主、野菜持ってきたぞ」
「ありがとう。ついでに」
ちょいちょいと彼らを招く。あぁ?と首を傾げてやってきた彼らに徳田先生を指差した。
「彼に打刀握らすとして、同田貫的に誰の扱い方が向いてると思う?」
同田貫はその言葉に彼に近づくと上から下まで眺めると、彼の体をペタペタと触った。
「細い。俺のはむかねぇよ。飯くってんのか?」
「まぁ、学者さんだから」
同田貫が考える。御手杵が私を見下ろした。
「槍じゃダメなのか?」
「ごめんね、御手杵。槍が来たら声かけるよ」
「まぁ、俺は教えるのはむかねぇかなぁ。刺すしかできないし」
「二度突き要らずでいいんじゃない?」
「おう、極める」
そう笑った彼にわしゃわしゃと頭を撫でる。同田貫がこちらを向いた。
「主と一緒もむかねぇ気がするな。主と一緒、つーか、陸奥守と大和守と同じのは違う気がする。虎徹のどっちかがいいんじゃねぇの」
さらりと結論をだした同田貫に、ふむふむと思う。
「徳田先生の感じからして蜂須賀向きかな?」
「そうだろうな。強くなったら手合わせしようぜ」
同田貫は結構面倒見がいいと思うのだ。徳田先生は目を瞬いてるけど。
「苗字さんに教わるのはだめかい?」
「ダメダメ、主は忙しいから。蜂須賀厳しいけどいい奴だから大丈夫」
そう言った御手杵は「なぁ?」と促す。いや、それほどまで忙しくない気がする、と首をかしげれば御手杵が佐藤さんをみた。
「佐藤ー、主止めてくれー、これじゃあわーかーほりっくだ」
「俺の名前知って……って、は?」
「休みとってるよ」
「俺たちと手合わせする時間減っただろうが。あと他の奴らも言ってんだぞ」
「そういや苗字さん、帰っても仕事してるんだっけ」
「えぇ、まぁ、はい」
「ちなみに休みの日は?」
「向こうで仕事だな」
沈黙と共にこちらに向いた視線にあわあわする。
「いや、でも、ほら、こっちの仕事は佐藤さん達がしてくれるし、あっちの仕事もむっちゃんと長谷部がしてくれるし……」
「……蜂須賀さんっていう人に習うよ」
「そうしてくれ……主、野菜どこに運べばいい?」
「おいといてくれたら図書館の台車で運ぶよ。ありがとう。蜂須賀に来るように言って」
「おう、主はほどほどにしろよ」
そう言って二人はまた扉をくぐる。扉が壁に変わり、ひとりでにしまった。
「また蜂須賀が来たら声かけますね」
「ナマエ、休息は取れてるのか?」
「昼寝したりしてるので取れてますよ。向こうもこっちも忙しい時と緩い時の差があるので」
「忙しい時は被らないの?」
それにはノーコメントで。

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談話室に虎徹兄弟が揃ってきた。そういえば、浦島は菜乃花や同い年ぐらいに見える文豪と遊びによくくるけども兄二人はあんまり来ない気がする。
「浦島のお兄さんだったのか」
「へへっ、兄ちゃん達強いんだぜ」
「浦島の兄貴ってことは、浦島って呼ばない方がいいのか?」
「んや、ナマエの使用人は変わってて、名前が同じで苗字が違うぜ」
「ん?」
「菜乃花と遊んでるやつはだいたい藤四郎だ」
啄木さんと牧水さんの言葉に理由も何も知らない文豪達が首をかしげる。
「だから、俺含めて全員虎徹なんだー!」
その言葉に勘付く人がいそうな気がするが、結構突拍子も無いので仕方ないだろう。
「……主、俺を呼んでると聞いたけど」
「あれ?同田貫と御手杵から話聞いてない?」
「また聞きだったからね」
「徳田先生の武器が刀に変わるから、少しだけ稽古をして欲しくて」
「あぁ、そういうことなら任されるよ」
そうニコニコと笑った蜂須賀に、長曽祢さんが口を開く。
「あぁ、だから、蜂須賀が忙しければ俺と言われたのか。蜂須賀の方が太刀筋が綺麗だからな、確かに向いてる」
「え、もしかして長曽祢さんその為に来てくれました?」
「いや、主に報告があったからついでに来たんだ」
「……急ぎですか」
「いや、そこまで急ぎじゃないんだがな……」
そう言い淀んだ長曽祢さんに首をかしげる。浦島が口を開く。
「長曽祢兄ちゃん、結構急ぎだよ」
「昨日の騒ぎの被害見積もりが出たんだが」
そう言って端末を渡した彼に端末をうけとる。
「……」
「……」
「頭が痛い」
「……だろうな。こればっかりはフォローできん」
「私、家出する……」
「加州達が煩くなるからやめてくれ。全員反省してる」
「手入れ部屋と鍛刀部屋、それに加えて刀装の部屋と個人の部屋か……鍛刀部屋がなおるまで出陣は遠征のみにして、個人の部屋はちょっと考慮するから待って。とりあえず手配を……」
「修繕の手配はもうした。長義達が顔を効かせてくれてな。とりあえず手入れ部屋から修繕してもらえることになった。二日酔い回避組から片付けをしてもらってる。だから、今日は遠征取りやめでよかったか?」
「うん、そうしてください。何かあれば連絡を」
「わかった。あんまり叱らないでやってくれ。やった連中はまぁ反省してる」
「善処します」
「じゃあ俺は戻る。浦島は?」
「図鑑借りて帰るー!」
そう言って図書館にかけて行った浦島に、蜂須賀が「こら走らない!」と走った。とりあえず蜂須賀と徳田先生を合わせるか、と立ち上がれば「苗字が稽古するわけじゃないんだな」と言われる。なんだかデジャヴな気がして肩を落とした。

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会議終わりにそういえば、と徳田先生をみる。「蜂須賀はどうでした?」と声をかければ合点がいった彼は口を開いた。
「わかりやすくて助かった。ちゃんと理論も教えてくれるし、どこをどうすればいいのかも教えてもらえたし……でも迷惑になってないかい?」
「向こうの仕事今止まってるので全然大丈夫です」
そういえば視線がこちらを向く。館長が物珍しそうに口を開いた。
「何かあったのか?」
「あー、こちらでいう補修室と転生室、装像室なんかが壊れまして」
「まさか、」
「いえ、襲撃なんかではなく酔っ払った身内が壊しました。手当てができないのでしばらくは業務ストップです」
やれやれと息を吐く。まだ修繕には時間がかかりそうだ。ほーん、と納得した按司が口を開く。
「えらくよったんだな」
「普段はここまでみんな飲まないんですけどね……怪我をしても治せないのでおやすみ」
「だから最近小さい子達が遊びによく来るのか。菜乃花も友達が増えたって喜んでる」
館長の言葉にそれならいいんですけど、と困ったように笑ってしまう。何故なら今回、酔っ払ったふりをして故意に潰した線も高いからである。まぁ、短刀たちは気にしていないようであるが。
「旅行かどっかに行ったらどうだ?」
「あの人数連れてはちょっと」
「七十人越えだもんね……」
蓮子ちゃんを凝視する。なんで知ってるんだ??
「この前薬研くんたちが教えてくれた」
その言葉に肩をがっくしと落とす。あんまり言わないようにしていたんだけども。初耳だった館長が私を二度見した。ほら、そうなる。

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「なんか私の話が突拍子も無い設定になっているような」
司書室にて頬杖をついてそういえば、近くにいた菊池さんが反応した。
「あぁ、噂が噂を呼んですごいことになってるぞ。度々訂正してるんだけどな。この前はヤクザのお嬢とか言われてたな」
カラカラと笑った彼に違うのに、と肩を落とした。通りで新しい一般職員に怯えられるわけである。
「中里さんの推測はさいしょに人形と思われただけあっていい線いってたけどな」
「えっ」
「『恐らく』人じゃない。人だとしても、元は神職者」
「あー、あの人、ちょっと色々一回見られたので」
「色々?」
「この前、ポルターガイストだとか騒いでたじゃないですか。蓮子ちゃんに頼まれて、チャチャッと。その時に見られてましたね」
「なんだそれ知らないぞ」
「夜中に起こされて幽霊退治する私の身にもなってください。絶対あの時間帯は貴方達寝てました」
「結局なんだったんだ?」
「子供でした。偶にいます、あの子」
そういえば、仕事(と原稿)をしていた周りがこちらを見た。
「祓えないのか?」
「悪さをする子じゃないので。偶に菜乃花と宮沢先生に混じってますね。一応短刀を混ぜてるんですけど、出した結論が悪いモノじゃないでしたので。夜中に宮沢先生達の新しい話を読んでテンションマックスで走り回るみたいな」
「なんだただの子供だな」
「いや、その結論はおかしくないか」
そう突っ込んだ吉井さんは、第1司書が幽霊見えるなんて初めて聞いたぞ、と告げた。
「まぁ、幻覚って言われる可能性があるので。難しいんですよね、周りに見えてないものを説明するって」
ちなみにその子は今ソファに座っていたりするのだが、まぁ、見えてないなら何も言わない。帰ってきた佐藤さんがソファを見て「珍しいな」と言ったけども。
「今日はそこにいるのか」
「あぁ、やっぱり何かいるのな」
「ちょっと待て、そこに何かいるのか?」
「あー……あー」
佐藤さんが困ったように頬をかいた。そして、気にするな、と告げる。
「多分お別れを言いにきたんですよ」
「ん?成仏か?」
「いえ、恐らくは母親を見つけたんじゃないですか」
それだけ言えば周りは目を瞬いてこちらを見た。子供は何度もうなずく。最近とある女性職員にくっついていたからそうなんだろうとは思ったが。
「ーー子供は親を選ぶ?」
「いいえ、あの子の場合は特殊ですよ」
ノック音がなり、返事をすればその職員がやってくる。男の子は立ち上がると彼女に抱きついた。
「苗字さん、仕事中だけど、いい?」
「……ええ、かまいません。休憩中なので」
「この前の男の子が夢に出てきたんだけどね」
「きっとその言葉のままですよ」
言いにくそうな話題であるので、少し笑って先に答えをいう。彼女は目を見開いた。子供がうなずいてーー彼女に解けるように消える。
「貴方達なら大丈夫だと思ったんでしょう」
そう書類をさわれば彼女はポロポロと涙を流した。その反応に私は固まる。
「え、えっ、嫌だったんですか!?」
「違うの、嬉しかったから……ありがとう、苗字さん」
彼女は机越しに私に抱きつくとそのまま部屋を出た。私旦那さんに殴られないかな。
「ーーあぁ、そういうことか」
「おい、視える奴ら、ずるいぞ。何があったんだ」
「ナマエちゃん、あの子いなくなっちゃった!!」
入れ違いで菜乃花が勢いよく扉をあけてやってくる。
「また会えるよ」
「またっていつー!?」
「うーん、またはまただなぁ」
そうとしか言えないのだけれど。

==

「なんの騒ぎですか……」
現れたナマエちゃんに私は彼女の腕を掴んだ。というかハグした。彼女がきたからには大丈夫だという謎の安心感である。
「休みなのにすまないな、苗字さん」
「いえ……」
「実はアカとアオが古い和綴じの本を見つけて開いたんだがーー俺たちの領域じゃない奴らが出てきてな」
「……みなさんにお怪我は?」
「今のところない。按司くんや君の会派が食堂に閉じ込めてくれた」
こっちだ、とナマエちゃんを手招いた館長に、ナマエちゃんは私をポンポンと叩く。館長を追って歩きだす。ついたのはエントランスである。夜なので文豪達しかいないのが救いだろうか。アカが真っ青な顔をしているし、按司はナマエちゃんをみてタバコの火を消した。
「来たかよ」
「来ましたよ」
「あれ?苗字さん、どこからきたの?」
大槌さんが首を傾げる。あぁ、そう言えば大槌さんはナマエちゃんがどこから出入りしてるか知らないんだった。普通はエントランスから出入りするものだし。
「まぁ、私の話は置いといて、詳しく教えてください」
「アカとアオが和綴じの本を開いた瞬間、なんか出た」
「なんか?」
「人や文豪じゃねぇのは確かだな」
「その本は?」
「これだ」
そう言って森先生がナマエちゃんに本を渡す。それをみたナマエちゃんは頭を抱えた。
「あー、ああー。そうですよね、古い文献出てきますもんね、こういうのもありますよね」
「何かわかるのか?」
「これ、江戸時代の書物だと思うんですよ」
「江戸時代の文学書?」
「いいえ、江戸時代の書物ですが文学書ではないですね。打ち首獄門で処刑された人の絵図です」
さらりと告げたナマエちゃんに私は固まる。自然派の一部がその本をのぞいて、おえっと告げた。
「でもただの絵だろ……こんなことに」
「ただの絵じゃないですね、多分血で描かれてるので。ほら、錬金術師でも血をインクに混ぜてっていう話この前していたじゃないですか。あれの絵画、しかも罪人版です」
「もしかして、誰かが封印してくれていたのが侵蝕で緩みーー僕らが開いたことで外に出た、ということですか」
「あり得ますね」
アオの言葉にナマエちゃんは頷いた。ということはいつか誰かが入らなければいけないのでは。同じことを考えた文豪が軽く悲鳴をあげる。わかる、怖い。
「じゃあアレは僕たちみたいなものってことかい?」
「私は現物みてないのでなんとも」
ナマエちゃんはそう言って、何かに気づいて廊下をみる。そして、夢野先生を呼ぶと本を夢野先生に渡した。
「先生、この本のページ、何ページ空白……というより絵がないか数えてもらっても?」
「あぁ、構わないよ」
「あと絵のないページのわかる情報ください。
ナマエちゃんはずっと同じ方をみているので私達も同じ方をみる。微かに何かがするような音、ひたり、という足音が聞こえた。ナマエちゃんが大きく手を鳴らす。
「ありはや、あそばずともうさぬ、あさくらに」
ひたり、ひたりと足音がなる。
「にっかり青江」
ナマエちゃんの言葉に桜吹雪と共に刀が現れる。そして、それと同時に化け物がまた現れた。
「おりましませ!」
その言葉に彼は姿をあらわす。こちらに寄ってきた化け物に青江さんが真っ直ぐに近づき首をはねた。ひっと誰かが叫ぶ。ごろりと転がったそれに、ナマエちゃんが見えないように前に立ってくれた。
「主、また愉快なことになってるねぇ。こんなこと最初の年の百物語以来じゃないかい?」
「そうですね」
「で、原因はアレだね」
「わかります?」
「なんとなくね」
「……おい、まだ、動いてる」
按司のその言葉に、青江さんや私はそちらをみる。たしかに動いているのが見えた。
「首をはねてもダメか」
「石切丸呼ぶ?」
「どちらにしても僕一人じゃ、厳しいかな。気配が結構あるからね」
「十二人」
「えっ?」
「ページにいないのは十二人だから、恐らくは十二人いるだろう」
夢野先生の言葉にナマエちゃんは廊下の奥をみる。先程の化け物が起き上がるのがみえた。ナマエちゃんは息を吐く。
「みんな暇してました?」
「そうだねぇ、みんな腕が鈍るって言ってたよ。短刀や肥前くん以外の脇差は寝てるかな」
「……パパッと片付けましょう。青江、本体貸してください」
「アレやるのかい?みんな驚いてしまうよ」
「そろそろ明かしておかないと面倒な気がするので」
「主がいいならいいけれど」
そう言った青江さんはナマエちゃんに刀を渡す。
「審神者が命ず、かの化け物を討伐せよーー刀剣、十二、抜刀!」
ナマエちゃんがそう言って刀を抜けば、桜吹雪が起きた。
「蜂須賀虎徹、抜刀!」
「長曽祢虎徹、抜刀!」
「あーもう、一番取れなかった!かしゅうきよみつ、抜刀!」
「清光に負けた!大和守安定、抜刀!」
「鳴狐、抜刀いたしますよう!」
「よきかな、三日月宗近、抜刀するとしよう」
「小狐丸、主様がため抜刀いたします」
「膝丸、抜刀する!」
「髭切、抜刀するよ」
「同田貫、抜刀」
「御手杵、抜刀!」
「石切丸、抜刀……おや、ちらほらいないのは……あぁ、この前壊したからか」
「石切丸と青江入れ替えて石切丸はここで結界張ってください。他は十二人いるアレ倒して」
「あれ?」
「あれ」
ナマエちゃんが指差した先にいた化け物はよだれを垂らしながらまた刀を振るった。長曽祢と名乗った男性がそれを刀で防ぐと弾き飛ばした。ナマエちゃんは青江さんに刀をかえし、周りは目を瞬いてそれを見た。
「なにあれ、遡行軍!?検非違使!?」
「本から出た化け物みたいだねぇ」
「はぁ!?佐藤達の分野じゃん!」
「加州や、そうでもなさそうだぞ。アレは恐らく妖だ」
「俺たち化け物退治屋じゃないよ!」
「首落ちたら死ぬんだからいいじゃん、なまるし」
「いや、首が落ちても死なないんだよねぇ」
そう言った青江さんに、エッと全員ナマエちゃんをみる。
「首落ちても死なないし、解決策考えるからちょっと頑張って」
「でたよ、主の無茶振り!」
「無茶振りで結構。地図は共有します。あと、相手は江戸時代で打ち首獄門された人物達だと推測できます」
「年代は?」
「江戸時代中期でしょう。しかし、一応は各自警戒してください」
「主、俺の心配は要らない」
「一応です、一応。対面したら、わかりませんから……本丸の状態が状態です。怪我を追えば撤退してください。では各自検討を祈ります」
ナマエちゃんがそういうと、彼らはかけていく。「三日月はここにいて!」と言われたため、青い服の男性はいる一体に向かったが。
「主、あれは間違いなく良くないものだよ」
「うん、アレが原因だからなぁ」
「あれ?」
「江戸時代の処刑を記した本」
「本なら図書館の分野では?」
「多分現実に姿を現したから違うんだと思う、って言いたいけども、血の人を作者って考えれば文豪と同じなんだなぁ……」
「あぁ、面白い仮説だ。ページが白いのはそこだけ有魂書となり得たからというわけか」
ふむ、と納得した夢野先生は動じていないらしい。さすがというか。ナマエちゃんは夢野先生から本を借りると石切丸さんが榊を振った。
「祓いたまえ、清めたまえ……」
「ふーむ?」
「どうしたよ?」
「払えば文豪と同じ気がする。藤村先生、弓貸してください、弓」
「いいよ」
そう弓を渡した藤村先生に、ナマエちゃんが弓をもつ。藤村先生がメモを持った。
「ーー祓いましませ、とこぬしの神よ、悪しきモノを祓いませ。ここにあるは一張の弓、破魔弓とはいかずとも、この地に根付く子の弓なれば、破魔矢を射れる弓と称す」
ナマエちゃんが告げた瞬間、どこからかリンという鈴の音が聞こえた。
「あたえましませ、とこぬしの神よ、破魔矢を我らに与えませ。破魔矢をいりて、悪しきを断つ。我らが代わりに祓いませう」
ナマエちゃんがそう言って弓を構える。そこに矢はない。え、と思っていれば、ナマエちゃんは一言、「三日月さん、避けてください」とだけ告げて蔓から手を離した。ヒュッという矢が飛ぶ音がして、三日月さんがしゃがむ。そこにあったモノは頭に矢が刺さったように後ろに仰け反りこむ。それを見た三日月さんがまた首を刎ねた。その瞬間、それは黒い墨になるとーー宙を飛んで石切丸さんが持っていた本に戻った。
「図書館側ではなかったようだね」
「かといって私達側でもないんですけど……弓を扱える文豪は集合してください」
そうナマエちゃんが言えば弓を扱える文豪が肩を跳ねあげた。
「……そう……なる……よね……」
「わぁ、僕達があれしていいの?気になってたんだよね」
「嫌だぞ、俺!あんな化け物相手とか、絶対嫌!」
「嫌とかいうなって、花袋。死ねば諸共だろ?」
「花袋先生、一年目からいるんですからできないわけないですよね?こういうことにはじめてあった岩野先生や白鳥先生じゃないんですから」
にっこりとナマエちゃんが笑う。花袋先生が、わかったよ!やるよ!と声をあげた。
「でもなんで銃はないんだよ!」
「田山くん、破魔矢は破魔弓ーー即ち弓で射るものだよ」
「苗字サーン、私も行きマスー!この間指輪で弓になりましター!」
「げ、八雲先生がいうなら俺もじゃん!」
「怪綺談は遠慮したいのですが……頑張ります」
「僕もがんばります……ちょっと怖いけど……」
「僕も頑張るね」
「……え、なんだ、この順応性……やるけど」
「矢を射るだけなんだな」
「そうですね……一人で行動して何かあっても嫌なので、誰か道連れにしていってください。一年目からいた人は多少免疫があるでしょうし」
ひらひらと手を振ったナマエちゃんに一部の道連れ探しが始まる。その波に乗ることのない荷風先生がどこかを見ていたナマエちゃんに声をかけた。
「しかし、苗字さん、先程のはどうやれば?同じ言葉を唱えたとしても、あの扉のように僕らでは使えないだろう?」
「いえ……先生、手を出して頂いても?」
そういったナマエちゃんに彼はきょとんと手を出した。そしてナマエちゃんはその上に何か乗せる仕草をする。
「触れますよね」
「不思議だな、目に見えないのに確かにそこにある」
「そういう時は影を見ればいい」
そう石切丸さんに促されて私達は彼の影をみる。彼の影の手のひらには確かに細長い棒のようなーー矢が乗っていた。ポカンとしていたアカとアオがこちらにくる。
「待ってください、どうなってるんですか!科学的にあり得ませんよ!」
「科学的ではないからですね」
「アカ、アオ、いっただろう?彼女と按司くんーー特に苗字さんに関しては俺たちとは違う理論・見解から錬金術を使っていると」
館長が困ったように告げる。二人は何かいいかけたが、ナマエちゃんが話しは後にしましょうと告げたことにより黙った。
「破魔矢をお配りします。とりあえず一人二本お渡しします。無くなれば戻っていただければ」
「さっきのお兄さん達に合流すればいいの?」
「ええ、あとは彼らがなんとかしてくれるでしょう。……三日月さん、新美さん達についていってください。流石に子供は心配なので」
「あい、わかった。どれ、じじいが付いて行こう」
そういった彼に子供組が首をかしげる。可愛いかよ。

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「三日月さんって、おじいさんなの?」
「……あの中で一番年下は長曽祢さんですよ」
蓮子ちゃんの問いかけにそう答える。周りがギョッとしたようにこちらを見た。しゃがんでいる啄木さんが口を開く。
「っても俺たちよりは年上だろ」
「まぁ、確かに。蓮子ちゃんの問いに答えると、三日月さんをおじいちゃんと呼ぶと一番上をどう呼ぶかという話になるのでノーコメントで」
「まぁ、彼をおじいさんと呼ぶと私もおじいさんになるねぇ」
石切丸の言葉に、ねぇ、ねぇ、と二人で納得する。小烏丸さんとかね。まぁ、周りは石切丸はお正月にくる神主さんというイメージだろう。四迷先生が息を吐いて口を開く。
「というか、苗字は何者なんだ?」
「巫女さん的な感じだよね?」
「簡単にいうとそうですね」
そういって宙をみる。先程から地主守がいるのだけども周りには見えていないのだろう。からころと笑うその人は私の頭を撫でた。それを見て石切丸が口を開く。
「主」
「うーん、わかってるんですけど、どうも最近余計に見えるようになってしまって」
「それだけ格が上がったんだろうけれど……あまり喜ばしくはないね……」
そういった石切丸に、そうはいってもなと私は困ったように笑ってしまった。



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