2020/06/25

ヨルムンガンドと君と僕

わけがわからない。目が覚めたら周りが死体ばっかとか本当にわけがわからない。とりあえず言えるのは、恐らくここは戦地なのだろうと言うことぐらいだ。飛び交う発砲音は頂けないが、どっちが味方とかわからない。いや、事実どちらも味方ではないのかもしれない。私を庇うように倒れている人間は軍隊のような服ではなく普通の服を着ているわけだし。冷静に状況分析をしていれば、ううう、と小さな唸り声が聞こえた。聞いたことがある声である。ただし、それよりも幾分か幼いが。とりあえず叫びそうな彼女の後ろから近づき、口を手で覆う。
「ーーっ!!!?」
「サチ、叫ぶな」
そう耳元で告げる。暴れるのをやめて少し振り返り私をみた彼女に、ドウドウと落ち着かせる。
「とりあえず此処からでたほうがいい。発砲音が近い。空からの攻撃が来る可能性はある」
そういえば彼女はゆっくり頷いた。よし行くぞ、と彼女の肩を叩く。少し時間をかけて戦闘地域から抜け出した頃、空からの攻撃がいた街に降り注ぐ。脱出できてよかったなぁ、と思いつつ、グスグス鼻を鳴らすサチを連れて近くの街を目指して歩き出した。

この人達は戦っていたどちら側の人間なんだろうか。色んな人種の人がいるが。追いかけてきたのか、と思いながら誰を人質にするかを考える。目の前にいる壮年の男性はジャックやデイビッドと同じような気がする。黒髪の女性はナイフを持っているあたり、近接戦闘向き。ただ一瞬、子供であるということを理由に気を緩ませた金髪の男性の側にかけ、素早く転がして人質にする。再度銃を向けられたが、此方が男性の頭に銃を向ければ緊迫した状態になった。
「貴方達はどちら側の味方か、侵攻してきた味方か、この国の味方か」
この国の、ならば恐らくこの国の人間であろう私達は助かる。が、侵攻してきた側なのならばそれは難しい。この国の言葉が通じていないようだ。英語で再度問いかける。
「貴方達はどちら側のPMCか。侵攻してきた方か、この国の方か」
「ーー生憎、どちらでもないんだよねぇ」
庇われている白人女性がヒョコリと顔を出して告げる。まさかの返答である。
「ならば何故こんな戦場に?ジャーナリストでないとすると……武器商人か。でもこの国の方に売るならこの先に行かない方がいい。この先の街で侵攻してる側の空爆が二時間前にあった。恐らく彼らはもっていない」
そう言いながら金髪の男性から退いて武装を解除して死体から頂いたポーチにしまう。私の言葉に女性は目を見開き、嫌な予感はしてたんだよー!と叫んだ。
「キミはこの先の街から?」
「えぇ、まぁ。目が覚めたらもう侵攻は始まっていたので。何時間で落ちたかは不明ですが、民間人問わず徹底的でした。あといるのはいいですけど、騒がないで貰えると助かります」
連れが起きる。そう思っていたら案の定隣の部屋の扉が開く。銃を向けた彼らに、「私の連れです」と言えば彼らはまた銃を下ろしたが。
「ひぇっ、なに、どっち側の人!?」
「どっち側でもないらしい。寝てていい」
「でも」
「明日また移動するから、動けるように寝といて」
そうひらひら手を振れば彼女は頷いて扉をしめた。白人の女性が私に尋ねる。
「君の妹さん?」
「いえ、友人です」
「さっき、なんでルツを人質にしたの?」
「消去法で」
「消去法?」
「向かいあってた男性は一番隙がないというか動きに無駄がないので難しいです」
「ならパドメは?こういう時は女に行くものじゃないか?」
「ぱどめ、さん?」
「私です」
「黒髪の女性はナイフを持っているということは近距離の方が得意と思うし隙がないので私が斬られる可能性の方が高いので……というか、子供であるということに動揺した金髪のお兄さんが偶然見えたので」
「子供に見抜かれちゃわけないですよ、ルツ」
黒髪の女性の言葉に金髪って男性が肩を落とした。なんかごめんなさい。
「キミは何者?」
「何者もなにも、貴方達が向かっていた街に住んでました」
と言っても納得はしまい。主に技術に関しては。
「でも君の技術は普通の街にいても身につかないものだ」
「父と母みたいな人と兄のような人に教わっただけです」
嘘ではないことはきちんと織り交ぜてるぞ、私は。ジャックに偶に投げられたりしたし、アサルトライフルを持った状態のcqcは彼に教わっている。基本的なことはクラウディアさんだ。
「でも、父は」
そう言葉を濁す。恐らく私を庇っていたのが父親の死体だろう。私の言葉に黒髪の女性が口を開く。
「はじめての実戦ですか?」
「サバイバルゲームはあります」
私の発言に周りがずっこけた。なんだ、コメディ集団かな?
「はっ!?俺そんな子供に倒され……はぁっ!?」
「どんまいすぎるだろ」
「諦めろ、ルツ。この嬢ちゃんの能力がヤバいのと教えが良かったんだろ」
「サバイバルゲームが好きなの?」
「兄のような人に誘われて一ヶ月サバイバル体験とかサバイバルゲームはしますけど、好きか嫌いかと言われたらノーコメントです」
そう言って首を左右に振る。もう一度扉が開く。
「ナマエちゃん、無線傍受したらやっぱり軍隊が北上してるみたい」
「数時間後にはこの地域も戦場になってるな。サチ、歩ける?無理なら背負うけど」
「頑張る。ちょっと寝て回復した」
その言葉によし、と息を吐く。
「武器商人さんも此処を離れた方がいいですよ」
「いやいやいや、何平然としてるんだ」
眼鏡をかけた男性の言葉に、サチが私の背中に隠れた。
「無線の傍受とか普通できるモンじゃないぞ」
「ソコに機械があったから」
サチがしがみついて話す。警戒するのはいいが、私に彼らの制圧ができるかと言われたら半分半分である。白人女性がカラカラと笑う。
「本当に面白いね、キミ達。折角だ、一緒に逃げない?運良く此方には車があるし、この戦線からすぐに離脱できる」
「美味しい話には裏がありそうですが、ここは好意に甘えさせて頂きます。彼女の体力が心配ですし」
私の言葉に彼女は手を叩いた。サチが混乱したように私と彼女達を見比べる。
「よし、決まりだ!キミ達の名前は?」
「私はナマエです。こちらがサチ」
「ナマエにサチだね!よーし、さっさとこの戦線から離脱するぞー!」
それでいいのだろうか、と一応壮年の男性に目を向ける。タバコに火をつけた彼は私を見下ろした。
「安心しな、手出しはしねぇよ」
そういうことでもないのだけれども。

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車でドナドナされていれば、隣にいたサチが眠ってしまった。安心するのはどうかと思ったが、普通の人間が戦場を歩けばそりゃあそうなる。ため息をついて銃を担ぐ。白人女性の隣にいるのが黒髪の女性、私の隣にいるのが壮年の男性。見事に私が暴れても殺せる面子である。まぁ、暴れることなんてしないが。運転席にいた女性が口を開く。
「あれ、サチは寝ちゃったの?」
「歩き通しだったので疲れていたんでしょう」
「これからどうするの?」
「大きな都市に向かいます。最悪兵士にもなればこの子ぐらいなら養える。兄のような人達は会えるかどうかが一か八かですし」
私の発言に女性が笑みを深くする。
「なら、一緒に来ない?」
少し振り向きながらそう告げた女性に、私はなんとも言えない顔をする。
「一般人が、しかも子供が、入ったところで邪魔なだけでしょう?」
「キミの持つ能力は子供も一般人も超えてるんだなぁ、それが。サチちゃんの生活費も当社が面倒をみよう」
「それは大学費も?」
そう当たり前に尋ねれば壮年の男性がクツクツ笑った。
「でかく出たな」
「いえ、サチは恐らく今から大学に入れると思います。飛び級が可能な国ならばという言葉が付きますが」
「すごい確証だな」
「頭がいい?」
「凄く。どこかの国のネットワークを足跡を残さず拝見できたり、音声データを画像データにおきかえて絵を描けるぐらいには」
そういえば彼女達はバックミラー越しにサチをみる。
「おいおい、どこで学んだんだそんなこと」
「彼女の兄代わりみたいな人にそういうことが得意な人がいたみたいです。私も良く知りません。ただ、当たり前のようにするので」
「ロボット工学は?」
「専門じゃないけど嫌いじゃないとは言ってましたが」
「じゃあ、知り合いの博士を紹介しよう。そっちの方がいい気がする。そうすれば、彼女も給料が貰えるしね」
「彼女が安全ならばそれで構いません」
そのまま銃を下ろして無邪気な子供のように振り返って後ろをみる。この車に続くもう一台、の、後ろに黒いバイクが付いてきている。しかもさっきは向かい車線でみたのに、同じ車線に折り返してきている。ふむ。まぁその後ろには軍事車両が見えるけれども。前は積荷を引き上げたトラックだ。これは恐らく積荷を狙っている気がする。
「ナマエ?」
「軍用車が見えたので」
「え!?あれ!?もしかして受け渡しできた!?」
「どうする?ココ」
「とりあえず話さないと意味ないか……」
頭を抱えた彼女の指示で車は端に止まる。嬢ちゃんたちは隠れているようにと言われて伏せておく。その際横を通り過ぎたバイクは、うん、恐らく。とりあえず万が一を考えてサチを担いで反対側の扉から出て近くに隠れる。案の定一部の兵士が車を覗きにきた。話されているのはこの地域で交わされる言葉ではない。人の良さそうな東洋人の男性がこちらにきた後私達に気づき私達を見下ろした。
「あれ、ナマエちゃん達なにしてるの?」
「見つかると嫌な予感しかしません。彼ら、扱う言葉が少し違います」
そういえば彼は目を瞬く。
「この国の鈍り方じゃない」
「……このままこのバンの荷台に乗っておいてくれるかな?」
頷いてこっそりバンの荷台に乗る。そのまま眠気まなこのサチと荷台にあったシートの下に隠れていれば、銃撃戦が始まり男性達が飛び乗ってきた。なるほど。急発進した車に、東洋人の男性が口を開く。
「二人とも、しばらくじっとしておくんだ、いいね!」
「は!?いなくなったと思えばそっちにいたのか!?」
「ココさん、こっちの車に、はい、はい、」
サチがまたパニックになるので軽く意識を飛ばす。うーむ、銃撃戦だ。ちらりと窓から外を伺う。相手は一台だけだろうか。そうしてまた見えた同じバイクに小さく合図をすれば、まぁ、バイクから軍用車に発砲があるわけで。こっちはこっちでビックリするし軍用車は呆気なくタイヤがダメになった上にもう一台からの銃撃で軍用車が爆発した。そのまま折り返してきたバイクはこの車の窓を叩く。警戒しながら赤髪の男性が尋ねた。
「なんだアンタ」
「お前達じゃなく積荷に用がある」
「は?」
「ジャック」
そう荷台がから私が顔を出せば、ジャックがヘルメットをあげてひらりと手を振った。
「いつもセットのサチはどうした」
「寝てる」
「気絶させたの間違いだろう。コイツらは」
「助けてくれた」
「なるほどな。……あとで落ち合おう」
そう言ってまた後ろに発砲したジャックはそのまま別の路地に曲がる。後ろから来ていた車がジャックのほうに続く。でもまぁジャックの方が強くて爆発するのが目に見えてるんだよなぁ。と思ったら爆発した。ヒュウと誰かが口笛を吹く。
「知り合いかい?」
「兄みたいな人です」
そう返せば周りは何とも言えない顔をしたのだが。うーん、どれくらいの年か分からないため兄みたいな人とは言ったが、一回りは違いそうなんだよなぁ。

==

とりあえずホテルなのか安全な場所に着いたのでサチをおこす。ハッ!?としたサチに「安全な場所だから」と言えばサチは息を吐いた。とりあえず促されるまま車から降りる。ココさんが「もー!」とちょっと怒りながら口を開いた。
「ナマエとサチはなんで移動したの!」
「嫌な予感がしたので……兵士の格好した他人が覗き込みに来たし。商売は良かったんですか?」
「違う人が受け取ろうとしたしお金がないって言われたからね。そんな相手に売ることはできないかな」
「なるほど」
そうサチと納得していれば、バイクの音がする。そちらを見れば、先程のバイクである。
「さっきの援護してくれたバイクのやつか」
「生きてるとは中々の腕のようですね」
「ジャック」
私が(子供の姿のため子供のように)大きく手を振ればジャックはヘルメットを外して手を軽く振った。
「知り合いか?」
「兄みたいな人です」
こちらにやってきたジャックは両手を広げたので私は寄るとする。いやこっちは投げ飛ばす気でいる。抱きつく、と見せかけて私は綺麗に一本背負いをきめた。綺麗に受け身を取られたけども。半分八つ当たりである。
「人が心配して探しにきたのに会うなりそれはないだろう、それは」
ジャックはそう言って私を軽々抱き上げる。外見は30ぐらいだろうか。それに比べて私は十代真ん中あたりである。
「気を失って目が覚めたら戦場だった私の気持ちがわかるのか、軍隊が徹底抗戦してる間をサチと一緒に逃げるスリルとかいらなかった、そもそもジャックとデイヴィッドがいればこんなにつかれてない」
「そうだそうだ!」
サチが加勢してポコポコと叩く。そうだ、もっとやれ。よくよく見ればサチの方が幼い気がする。まぁ大人しくやられてるのをみると若干は反省しているらしい。
「二人の知り合い?」
「兄みたいな人です」
そう紹介すれば周りが納得がいったらしい。ジャックは意を汲んだのか妹分が世話になったな、と私をおろしながら告げる。壮年の男性が口を開く。
「子供にあんな動き方仕込むとは頂けねぇな」
「一緒にサバイバルやサバイバルゲームはこなすが、基本の動き方を仕込んだのは別だ。まぁ、この国はきな臭いから身を守る術は持つべきだろうし、この子の父親がこの国の軍人だったから色々と面倒くさい立場だ」
ジャックの言葉に私は彼を見上げる。初知りである。調べる暇もなく出てきたから仕方がないが。
「君はこの国の軍人?」
「いいや、今は違う」
近くに車が止まる。少し警戒した私達に、ジャックがしなくていいと手を振った。車から現れたのはオセロットとカズさんである。オセロットがすこし駆けてよってくる。
「ジャック、ヘイティーは」
「いた、ここだ」
「なら、さっさとこの国から出た方がいい。連邦側が噛み付いてくるのも時間の問題だ。空路は手配してる」
「ココ・ヘクマティアル?HCLI社の」
カズさんが眉間にちょっとシワを寄せる。白人女性が笑みを深くしたということは彼女の名前らしい。
「大手の武器商人と何を?」
「ナマエとサチを助けられたようだ」
「逆です。私達も助けられました。私を知るということは貴方達は軍の人?」
「全員軍人上がりなだけですよ、ミス・ヘクマティアル。ごくたまにPMCとしても動きますが、そんなおおそれたものじゃない」
カズさんがそう首を左右に振った。サチがデイヴィッドを探して周りをキョロキョロしているが、恐らくデイヴィッドはいなさそうである。
「まぁこの子の護衛をしたり、サバイバルゲームをしてみたりする集団ですよ。ジャックとこの子が仲がいいので」
カズさんが笑いながら私とジャックの肩を叩く。
「貴方には強力なPMCがついていると噂をお聞きました。我々は足元にも及びませんし、まさかそんな強い護衛がありながら子供を迎え入れるなんてことはありませんよね?」
いやぁ、と笑いつつサングラスの奥の目は笑ってない。黙っていたココさんがニコニコと笑った。
「ううん!ほしい!」
その言葉にカズさんが目を瞬いた。オセロットが珍しく肩を揺らす。
「私たちと世界中うろちょろしてた方が安全だと思うな!うん、きっとそう!というか、サチをある博士に紹介してあげたいしね!!」
「まさか、我々が付いているんですよ?」
「でも私たちの足元に及ばないんでしょう?」
その返答に私とオセロットが肩を揺らした。アダムスカ、と注意したジャックはため息をついてココさんをみる。
「残念ながらナマエを渡すことはできない。その博士とやらも信頼できる相手かわからない以上、サチも渡せない」
「おもちゃ会社に勤める博士です!メルヒェン社の……」
「ドクター・マイアミか、それとも新参のドクター・ハル・エメリッヒか。どちらにせよ、ロボット工学のスペシャリストだな。軍事運用されるが」
オセロットの言葉に彼女は目を瞬いて、なんだぁ、知ってたんですね、と苦笑いした。
「こちらも彼女をメルヒェン社の南アフリカ工場に連れて行く気でいた。新参の方とサチは面識があるし、我々も面識がある。護衛の男を含めて」
このままだとおそらく事態は拮抗だろう。ジャックがため息をついてココさんをみた。
「わかった。俺たちは南アフリカにいく前による仕事がある。数ヶ月の戦闘になる可能性も大きい。その間は確かに武器商人といた方が安全だろう。それまでにサチを工場に連れて行ってもらえるだろうか。だが、二人を助けてもらった上にこちらが頼むだけではフェアじゃないか。カズ」
「わかった、偶に扱う武器を貴方達から仕入れることにする」
「ふふ、割引き価格で提供しますよ」
「ジャック、いいのか?」
「向こうが折れない」
やれやれとため息をついたジャックは何かカードを私に渡し、ココさんにはカズさんが名刺を渡した。オセロットが時計を見て、ジャックと声をかけた。
「ナマエ、死ぬなよ」
「そっちもね」
ひらりと手を振れば二人は車に、ジャックはバイクに乗って姿を消した。なるほど。ココさんが名刺を凝視している。
「うっわー、そういうこと、うっわー」
「こりゃまた大手PMCと繋がりを持っちまったな、ココ」
「だよねぇ、D.D.ってそうだよねぇ、よく国連とか医師団系と組んでる、比較的ハトよりクリーンな」
「俺レベルの寄せ集めとかいう謎集団だな。そりゃあ嬢ちゃんがこうなるわけだ」
壮年の男性の視線に私はジャックの名刺を持ちながらニコニコと首を傾げておく。
「南アフリカまでよろしくお願いします」
「よろしく、お願いします」
二人して頭を下げれば彼女は笑ったけれど。よく笑う人だ。

==没!
追記は別案
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君僕主派生 

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