2020/07/12
to life, 1
・君僕if
・君僕主3で殺された後の分岐
・ノリで書いてる
そもそもの話だ。願望に似た夢をみたって、それが関わる話ではない。私という異物を取り込んだ物語は、私という異物をも飲み込んで終結したのだろう。そこに恐らくは、私が望んだ救済はないし、彼らは私の知る物語通りに生きた。世界は大衆の選択で決まるのか。個人では決して変えられることなどないのか。
「夢を見ました」
そうカウンセリングの男性に告げる。事件のショックだなんだと私の動きに医師はカウンセリングが必要と告げ、この人がやってきた。どんな夢か、と尋ねた彼に、好きなゲームに入り込んだ夢でした、と笑いながらつげる。それは楽しいね、と告げた彼に私は頷く。でも、悲しい夢でもありました。そういえば彼は首を傾げたのだが。
もし、もしもだ。きっと叶うはずなどないと私は思っているし、そうなるはずもないと私はわかっている。でも、もしも、もう一度、その声が、笑った顔が、見れたなら、きっと、私は満足するのだろう。彼の穏やかに死する姿をみて、安堵するのだろう。だからとゲーム機の電源を久しぶりにつける。聞き慣れた音がして、私は彼の人生に想いを馳せるのである。
最悪だなぁ、と悪態をつく。クラスの都市伝説の遊びに付き合ったのはいいが、真っ暗に停電した。一緒にいた子が戸惑ったようにえ?え?とこえをあげる。私は周りを見渡して、感覚に違和感を覚える。寒い。少しだけ。そこは決して夏の気候ではない。ゆっくりと開かれた扉の先は明るい。そうして瞬間的に銃を構えてみせた相手に、一緒にいた子はもう一度声を上げた。
「スネーク!?」
その発言に私は扉の先をみる。その先にいた人は両眼が揃っている。相手は相手で彼女をみて、彼女の名を呼んで銃口を下げた。
「サチ!?お前、何処にいたんだ!?というか何処から入ってきたんだ!」
……どうやら二人は、知り合い、らしい。
=
「意味がわからない。不明確すぎるというか、非科学的すぎる」
ですよねー。頭を抱えながら苗字さんにそう告げる。私(とスネークとオタコン)は三回目だから慣れているが、彼女はそうじゃない。オタコンが目を瞬きながら、でも君がここにいるということが何よりの証拠だよ、と告げた。確かにそうである。
「夢か……また何か事故でも……」
彼女はそう言って考え込んだ。私はスネークのお腹を突く。私の時みたいに押さえ込んだら痛さで現実と分かるのではないか。こちらを見下ろした彼はため息をついて彼女に近づく。そうして手を伸ばした瞬間、彼女は察知したように避けてみせた。おお、と私は手を叩く。苗字さんは基本一匹狼なのであるが、運動神経がとても良いのだ。噂では不良を返り討ちにしたというものもある。彼女はスネークをみて困惑したようだった。
「ええっと、すまない、少し考えこんでしまったようだ」
「いや、普通はそうなる」
スネークは私をチラリとみてそういう。わるかったね、わたしは考え込むより先にスネークをみてはしゃいで!彼女は近くにあったナイフを手に取り、私達が止めるまもなく指先を少し切った。
「おい」
「……痛い」
「そうだろうな、夢じゃないんだから。手当てするから大人しくしてるんだ」
「……これくらいは舐めてたら治ります」
そう言って彼女は正しい手順で止血を施した。オタコンが眼鏡の位置を直しながら口を開く。
「なんだかサチとは違うタイプの子が来たね」
それはそうなのであるが、そうなのであるが!彼女はなんというか!高嶺の花みたいなものなのである!
==
「ナマエってスネークが苦手かい?」
そう聞いてきたオタコンに、私は目を泳がせる。苦手、というよりは自己嫌悪に近い。彼は決してジョンではない。でも、その声が、姿が、ジョンを思い起こさせる。それは彼が彼の息子だから仕方がないのであるが。そう、仕方がないのだ。彼は似たくて似たわけではないだろう。
「苦手、というか、」
そう言ってマグカップを触る。どう言えばいいかなどわかりっこないが、世話になっている手前、少しは打ち明けていたほうがいいのだろう。恐らく、扉付近にいる二人も耳を澄まして聴いていることだろう。
「……笑わないでくれますか?」
「うん?」
「というか、秘密にしておいて欲しいんですが」
苦笑いをする。オタコンは少し首を傾げた。笑わないよ、と告げた彼は優しい人なのだろう。
「好きだった人に似ているので……」
しかし、私の発言は意外すぎたらしい。ふはっ、と変な笑い声を上げた彼に私は眉尻を下げた。というか、扉付近にいる二人、というか「えっ!?」というサチの声がした。そのあと恐らく口を手で塞がれたようであるが。
「それは、たいへんだ、」
「どうしても、重ねてしまいそうになるので、それは失礼なことですし」
「君の初恋の人?」
「恐らくは」
「素敵な人だった?」
「ノーコメント」
肩をすくめてそう告げる。素敵だ、勿論。でも口に出したら負けな気がするのだ。
「死別したので、もう二度と会えることはないでしょうけど」
そう言ってマグカップに目線を落とす。彼がいるということは、会えるかもしれない。でもそれは私が望んではいけない。私が、死んだのだ。死者が生者に会うことなどあってはならないのである。
沈黙だ。私はそれが耐えれなくてまた苦笑いを浮かべる。
「ごめんなさい。暗い話を」
「……いいや、僕こそごめん。辛いことを思い出させてしまって」
「いえ、構いません。いつかは聞かれることでしょうから。もう少し、彼と話せるように頑張ります」
==
心臓が、止まるかと思った。三人から離れ、路地に逃げる。そうして奥にはいり、フードをかぶって蹲った。なんということだ、なんてことになったんだ。手が震える。
彼らが平然と生きている。
それは確かにわたしが望んだ姿だろう。仲睦まじい彼らのすがたは。平然と生きている彼らの姿は。これであのゲームのような世界であれば、私はのうのうと三人と共に生きただろう。でも、ここは違う。そこに私がいてはいけない。だって、私は。足音が聞こえる。私はそこから逃げるようにまた走り出す。ダンボールを、ゴミ箱を倒して進路を拒み、大通りに出ようとした瞬間、目の前にいた誰かにぶつかった。その誰かはトレンチコートを身に纏っている。長く伸びた白い髪を毛先で括った彼は私をじっと見下ろした。そのまま彼から逃げようとすれば腕を掴まれる。喋ってはいけない。それでバレてしまう。こうなれば、と、CQCを利用して彼の手を離させる。見事にバランスを崩した彼に私はそのまま逃げ出した。
ーー逃げ出したところで、異邦人とも言える私に行くあてがあるはずなんかない。それでも足を止めずに歩く。知っていた街並みは知らない街並みに変わった。道は整えられ、家だって代替わりして綺麗になっている。私の家であった場所もそうだ。誰か知らない人の家になったそこに、私はついに蹲った。あるわけがないじゃないか。何年前の話だと思う。何年前に亡命したのだと。この世界には私の帰る場所なんてないのだ。あんなにこの世界が恋しかったというのに、私は元の場所に戻りたいのだ。どうすればいいのかなど、わかるはずもない。何故ならサチとは違い私は恐らく偶然ここに迷い込んだのだから。
白い雪が舞う。あの花びらのように。寒い空気が体温を奪っていく。車が近くにとまり、誰かがやってくる。複数人だ。もう走り去る気力も、体力もない。白い雪は視界からきえ、茶色いコートが目に入る。私は最後の抵抗として、フードを握りしめる。
「もう気が済んだか?」
「……」
ため息だ。誰かは間違いなく私に合わせて屈んで見せた。
「怯えなくていい」
「ジョンが怖いからでは?」
「オセロット、お前も逃げられただろう」
男性の手がフードに伸びる。私はそれに無言の抵抗をする。もう一人の男性が見かねて私の腕を掴み、そうして彼はフードを取ろうともう一度手を伸ばす。
「見ないで」
喋ってしまった。私の声に、彼らは動きを止める。
「お願いだから、私をみないで」
ゆっくりと掴まれていた手が離される。しかし、それとは逆にもう一人が無理やりフードを外した。私は両手で、両腕で顔を覆う。彼はそれさえも許さないという風に、私の腕を掴んで下させた。目が合う、目があってしまった。彼の隻眼が私を写す。驚きの色を宿す。私はポロポロと涙を流す。
「どうして、」
「ーーナマエ?お前は、あの時、」
彼は混乱している。だってそうだ。彼にとっては、彼らにとっては、私は死人なのだ。
「有り得ない、そんなはずはない、」
彼は私の頬を触る。懐かしむように、感触を思い出すかのように。
「嘘だ、お前は、俺が」
サイレンサーがついた銃の音が。首筋に何かが当たる音がして、程なく眠気がやってくる。恐らくは麻酔銃にでも打たれたのだろう。もたれかかるように目を伏せる。葉巻の匂いが香った。
==
言い争うような声が聞こえる。柔らかなまどろみを振り払うために腕を動かしてみれば、その言い争いは止んだ。起きたのね、と告げた人に私は答えもせず彼女達を見上げる。幾十も歳を重ねた彼らは、私の登場に困惑し疑心暗鬼に陥っているようにみえた。
「貴女の名前は?」
そう尋ねた女性に答えずに布団を被って姿を隠す。そんなもの今更なのだけど。
「喋れない?」
「いや、昨日は喋っていた」
イライラとしたように彼であった男性が葉巻をつけたのがわかる。「ジョン」と嗜めた女性達に、私は布団を握る。声を押し殺して、膝に顔を埋めて泣く。私が何も喋らないと分かったからか、彼らは席を外した。女性だけが、大丈夫よ、何も心配いらないの、と私の頭を撫でていく。
「きっと、様子を見にきてくれたんでしょう、ヘイティ」
彼女はそれだけ言って部屋から出た。
ーー今のうちに外に。
そう思って、窓枠に手をかける。
「そこから出るのはオススメしない」
誰かが私に声をかける。よく似た声だ。そちらを見れば、彼女のスネークがタバコに火をつけて私をみていた。
「下は軍用犬だらけだ。万が一そこを通り抜けても、お前についた首輪で逃げれやしない」
「……くびわ、」
首元に手を伸ばす。足首だ、と言った彼に足首を見た。なるほど、何かが付けられている。私はそれを確認して息を吐く。そうしてそのままベッドに座った。彼はそれを見て椅子に腰掛ける。
「あいつらと知り合いか?」
「あいつら?」
「親父達だ。ナマエが逃げて、まぁ、あいつらは何か不審に思って追いかけたんだろうが……ナマエを捕まえてから慌ただしい」
「あなたは、サチからどんな話を?」
そう言って首をかしげる。彼は携帯灰皿に灰を落としながら私を見た。
「学年の一匹狼だとか、成績優秀な友達になるにも高嶺の花だとかは聞いた」
「……貴方達の話は?」
「そっちか。フィクションの存在のはずだとは聞いた。だが、サチが知る俺と俺自身で違いすぎる。そもそも俺は親父や兄弟を殺してはいないし、『狐狩り』なんて部隊も存在しない」
感じたのは安堵だ。そう、そうか、と笑みを浮かべてしまったのは仕方がない。スネークはそれを見て目を瞬いた。
「よかった」
呟いた言葉は本心だ。紛れもなく。よかった?と首を傾げた彼は、変な顔をする。それはそうだ。この世界に生きる彼にとっては恐らくよくないこともたくさんある。
「あれから、私が知ってる未来にならなくって、本当に、よかった」
「何かあったのか、やっぱり」
「私には奇妙な記憶がある。数年前、思い出した、のか、植え付けられた、のかは知らないが、変な記憶があって……貴方に戸惑ったのはそのせいだ」
「……俺と似た人物と死別したって話か?」
「盗み聞きかな?」
「聞こえたんだ。悪気があったわけじゃない」
「知ってる」
そうクスクスと笑う。
「死別したんだろう?」
「そう。私が死んだ記憶だ」
そう言って、眉間に手を当てる。
「君の父親に殺された」
「ーー親父に?」
「君があまりにも、昔の彼に似ていたから、戸惑った。これが君の兄弟であったなら、私は普通に溶け込んだだろう」
ふふ、と、笑う。彼は目をこれでもかと見開いている。私は首輪と言われた足首についたものを触る。
「……復讐のために戻ってきたのか。ご苦労なこったな。アイツは殺しても死なないようなやつだぞ」
「まさか、私は彼に殺されることが任務だった。復讐心なんてない。今感じてるのは安堵だけだ……イタッ」
「無理やり外すな。スタンが備わってる。感電するぞ」
「そもそも私はあの事件の後、私が知っていた彼の人生を止めたかった。もうここは私の知るものと違う未来になった」
これくらいのスタンなら大丈夫だろう、と無理やり取ることにする。バチン!という音がしたが、電流が弱めに設定されていたんだろう。痛みはあるが、動きを止めるほどのものではない。
「それが確認できたならいい。死人が生きている人間の人生に関与するものじゃない。死人はこの場からいなくなるのが妥当だろう」
「おい、だから軍用犬がーー」
「今はいない。昼食の時間だ。あぁ、最後にひとつだけ。君の父親は幸せだっただろうか」
そう窓枠に乗りながら、彼に尋ねる。彼は「知らん」と告げた。
「親父本人に聞け」
「ナマエ!!」
そう割り込んできたジャックに離脱しようとすれば思うより早く彼は駆け込む。歳を重ねた分瞬発力が落ちたかと思えばそうではないらしい。でも私のほうが寸分早く落下する。受け身をとって、衝撃を和らげてそのまま私は逃げ去った。
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向かう先なんて一つしかない。その墓地に足を運ぶ。そこにあった自分の名前が書かれた墓標ではなく、その近くに眠っているだろう人達を見つけた。最後の記憶は、宙に浮いている姿と
長官の部屋で心配そうに怒りを含ませて私を見ている姿だ。花を備えて、彼女はどう生きたのだろうか、と刻まれた言葉を見た。私の言葉は乱雑な怒りのような言葉だというのに、彼女の言葉は平和のために生きた人という言葉に変わっている。それに笑みを浮かべてしまったのは仕方がない。
「……よかった。貴方にかせられる言葉はそちらの方が合ってる」
そう言って屈み、途中で買った花を備える。足音が聞こえる。せくような、足音だ。近くで足を止めた彼に私は口を開いた。
「黙ってついてくるなんてたちが悪い」
彼は私がここにくることなんて予想していたに違いない。私は立ち上がり彼の方に振り返る。白い花が舞う。眉間にシワを寄せた彼に私は笑みを浮かべた。
「ナマエ」
「……私は貴方の知るナマエであるかはわからない。よく似た誰か、もしくはその人の記憶を与えられた他人であるかもしれない。貴方のいう、貴方の知るナマエ・クラウディアは死んでいる。ここで、あの真白な場所で眠っている。それは貴方が一番知っていること」
私の言葉に彼は目をふせる。
「……そうだな、だが、お前をなんと呼べばいい?亡霊か?」
「……私の名前は苗字。苗字ナマエ」
「どちらにせよ同じ名前じゃないか」
「ファミリーネームでいい」
「ナマエ」
彼はそう言って私に手を伸ばす。それを享受することは許されないのだと、一歩さがる。彼はそれにまた眉間にシワを寄せた。ヤケになる、気がする。彼の反応を伺えば、彼は予想通り、私に近づいて手を伸ばした。私はそれを避けて、そのまま逃げるように立ち去る。駆け出せば彼も駆け出す。まぁ、すぐにあの頃はなかった場所にいきつき私は足を止めるのだけれども。墓地が広がっている。何百人、いや、何千人もの人が死ぬ戦争があったのだろう。
「昔はなかったところだな」
彼はそう言って私を掴むことなく隣にたった。
「二十数年ほど前、大きな戦争があった。多くがその犠牲者だ」
「イラクかアフガン?」
「いいや、南米だ」
彼はそう言って私を見下ろした。彼は私をみて、お前がいない間に数度戦争があった、と告げる。
「数度?」
「アメリカが口を挟むものもあれば、正義を語っての進軍もある」
「そんなもの、いつものこと。この国はいつも正義を語っている。自分たちこそが正しいと信じている」
私はそう言いかえす。彼はまた口を開く。
「……お前は、どうしてあの作戦に?この国のためか?」
「……聞いていたんじゃないのか」
「お前の口から直接聞きたい」
彼はそこで初めて私の腕を掴んだ。
「ザボスからも、オセロットからも、エヴァからも聞いた。だが、全部、そんなものは推測だ」
「私はナマエじゃないかもしれない。私の言葉に推測かもしれない」
「花だ。あの花はボスが好きな花だ。だが、それは俺とお前しか知らない。彼女はあれからーーあの事件をきっかけにあの花を好きだとは言わなくなった」
それは、どうして?そう尋ねるのも野暮だろう。備えた花は私と彼女とジャックの思い出が詰まっている。
「催眠を受けたとしても、事実をなぞるだけ。そこに些細な出来事は反映されない」
彼はそう言ってまた緩やかに手を離す。それは事実だろう。誰かの記憶を埋め込んだって、恐らくその時の感情や、些細なやりとりはなくなる。記録に残らないものは、特に。あの記憶は正しく私のものであるのだと安堵する。彼は、「お前は、ナマエだ」と緩やかに嬉しそうに告げた。そうして、敬礼をしてみせる。
「長期の任務ご苦労だった。『嫌悪』ーーいや、ナマエ・クラウディア。この国は冷戦期の君の行動について公表している。君はもはや、イカれた売国奴でも亡命者でもない」
彼の言葉に、私は彼を見上げる。彼は言葉を続ける。
「君は英雄だ。勲章を授与しよう。俺があの時、作られた英雄なのだとしたら、君が真の英雄だ」
きっと、本来ならこの言葉で救われるのだろう。でも、私が求めたのは英雄という称号でも勲章のためじゃない。
「ジャック、それは違う。敬礼なんてやめてくれ。私がザボスに変わってあの任務に行ったのはもっと利己的な理由だ」
私がそう首を左右に振る。彼は敬礼をやめて私を見下ろす。
「でも、君の質問に答える前に、私の質問答えて欲しい」
「いいだろう」
「君は、君たちは、あれから人並みに幸せな人生を手に入れただろうか」
そう告げる。彼は少しの沈黙の後に、「最初は、」と口火をきった。
「最初はお前を恨んだ」
「だろう、私は君に呪いを吐きかけた」
「あぁ、まさしく呪いだ。何故お前が行かなければならなかったのか、何故最後にあんな言葉を吐き、何故幸せに生きろと言うのか理解も何もできない。あの時は荒れに荒れたものだ。こんなどうしようもなくふざけた作戦を作ったこの国を、原因となった賢者たちの遺産も潰してやろうとも考えたぐらいにな。……だが、ことごとく止められた!」
彼はそう言って笑った。ケラケラと、面白おかしく。あの時のジャックのように。
「ある時はザボスに、ある時はゼロに、ある時はオセロット、エヴァにも他の部下にも止められた。この国のために死んだナマエがそんなことを望むはずがないだろうと。お前に俺を頼むと言われたと」
彼はそうひとしきり笑い終えると穏やかに目を伏せる。
「恐らくは月並には幸せな人生だろう。仲間にも恵まれて、師にも、まぁ、なんというか、本当の家族と言えるかは謎ではあるが、家族にも恵まれた。それは恐らく他もだ。君に聞かせたい話は山ほどある。ゼロの話や、クラーク博士の結婚の話、オセロットの、エヴァの、ボスの話もある。が、それはまた後ーー」
あぁ、いけない。涙腺が緩くなっている。涙が溢れる。ナマエ?と首を傾げた彼に、私はそれを拭って口を開く。
「よかった」
「よかった?」
「あぁ、よかった。君が幸せで。君がどんな道を歩いたかは知らないが、君がその歳でもなおこの国にいて、仲間たちと仲違いもせずに、生きている。それが私には嬉しい。英雄なんていう名誉よりもどんな勲章よりもずっと、嬉しい」
あぁ、私はできた。変えることができた。彼の人生を。それが嬉しい。なによりも名誉だ。なによりも勲章ものだ。あぁ、嬉しい。だから、涙は止まらない。悲しいんじゃない、嬉しいのだ、と彼に告げる。彼は目を見開いて私を見下ろす。私は答えなければならない。彼の疑問に。でも泣き止むことがさきだ。私は服でめもとをぬぐう。彼はそれを止め、彼の手が私の涙を拭った。そうして、私の目線に合わせて屈む。昔のように、変わらずに。彼はそのまま私を抱き寄せた。
==
「私があの任務についたのは国のためじゃない。ザボスを超えるためでもなければ、誰かに褒められるためでもなかった」
小さく呟くようにそう告げれば、ジャックは私をみた。街並みが早く通り過ぎていく。運転している年を重ねた男性は、出会ったころは青年だった彼は何も言わない。
「私は私のためにあの任務についた。要するは自己満足だ」
そう、自己満足だ。目が覚めて何度か自分がしたことが正しかったのか考えたことがある。考えれば考えるほど、それは酷く独りよがりで、酷く利己的なのだという答えしか見えなかった。自己満足?と言葉を繰り返した彼に、昔から、と声を弾ませて、わざと明るい声をだす。
「昔から、君が死ぬ夢を見る」
「……立場が逆だった?」
「いいや、その夢に私は登場しない。だけれど君たちはいる。私は俯瞰した位置で、君の、君たちの人生を垣間見た。その夢でまず君は私ではなく、あの任務でボスを殺す。そのボスの意思を巡って、君の友人のゼロ少佐ともクラーク博士とも仲違いをした。君には仲間ができた、でもその仲間は一部を残して皆君の元からさっていく。世界を敵に回した君は、最後にはデイヴィッドに殺される」
街並みが私の知るものではない。それはそうだ、もう何十年も昔の話だ。こんなふうに街を見るのは久しぶりだった。クラウディアさんと引越しをするときに、彼が車を走らせながら私は見慣れぬ街並みをながめていたのだ。
「……そんな夢がずっと頭にあった。夢は夢だと思っていた。ザボスの元で君と師事することになっても。でも、それが任務に招集され急に現実味を帯びてしまった。はっきり言って、頭が回らなかったんだ。一瞬で決断を下さなければならなかった。ボスがいれば、君はきっとそんな道に向かうことはないと思った。君をきっと止めるだろうと。だから、私は彼女に変わって任務についた。君に殺されるために」
何も話さない。彼らは黙っている。信じられない話だろう。
「あの頃の私は自分勝手に自己満足しかなかった。君はきっと頼んでいないと怒るだろう。だから、利己的で自己満足なんだ。君に殺されたとき、そこにあったのは祖国への想いじゃない。安堵と祈り、そして小さなわがままだ」
そう言って彼をみる。驚いているような、泣きそうな顔だ。
「知っている物語から変革したという安堵と、君たちが幸せであるようにという祈り。君の記憶から消えたくないというわがままだった」
彼は目を伏せた。流れた涙に、彼から漏れた震えた声に、今度は私が笑った。さめざめと涙を流す彼の涙を手で拭う。泣き虫はどちらだ、と軽口を告げる。年を重ねた大人が泣くんじゃない、と子供をあやすように撫でる。
「この姿に変わっても、君たちが、君が、幸せに生きているだろうかといつも心配していたんだ。気がついたらいつも君たちのことばかりだ。よかった、本当に、君たちが、君が、私の知る未来を歩まなくて、本当に!」
本当に良かった。そう言って空を見上げる。先程まで曇っていたというのに快晴だ。
「……もし、次にそんな機会があるのなら」
運転手が口を開く。鼻をすすって、でも、なんでもないというふうに。
「貴方が生きる方法も探してくれ。貴方は知らないだろうが、ジョンを止めるのはなかなか大変なんだ。俺達を巻き込んでくれてもいい」
「肝に銘じておくよ、オセロット」
ブレーキがかかる。危ない、と思ったが、彼が目をまんまる
にして、振り返った。
「ふふ、SASをあげた時と同じ表情だ。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だ」
「……貴方は話に聞いたような酷い女だな」
彼はそう言ってエンジンをかけた。話?と首を傾げたが、無理やり泣き止んだらしいジョンが口を開く。拗ねたような口ぶりで。
「そうだろう。やっぱりナマエは酷い女だ」
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