2020/10/15
タイトル未定 7
基本、圭悟くんといても写真は撮られない。何故か知らないがついてるのだ。だから圭悟くんに彼女がいると言う情報は彼がいた時代に同じく所属していた横浜の選手か、代表選手、海外組しかしらない話なのである。どこから話が広がったのだろうか?と思ったが、彼女ネタで圭悟くんがいじられてそうな気がするのは気のせいではない。まぁドイツだと婚約者扱いなのであるが。
しっかしいいのであろうか。こう言う場所って妻とか家族ならいくのわかるんだよ。顔割れてるし。私もいいんだろうか。と思いながらドレスをきて圭悟くんと会場入りする。なんか一応パーティーだからであるのだが、まぁ、代表は代表スーツであるし、家族もドレスが多い。そのままいつものように海外組と合流した。まぁ知っている彼らは私をみて笑ったのだが。
「なんかあねさんがそんな服きてるの久しぶりに見るわぁ」
「クリスマスにピアノの弾く時くらいしか着ないからなぁ。なんやかんやこれしか持ってなくて。あんまり好きじゃないし。いやー、さすがというか、周り美人ばっかだね。目の保養だわー」
そう笑いながらシャンパンを受け取る。まぁ私が圭悟くんと一緒にきたからか一部がザワザワしてるけど気にしない。あんまり好きじゃない視線は圭悟くんが遮ってくれたし。
「でも私が来て良かったんだろうか感はするよね」
「まぁ婚約者やしええんちゃう?」
「そんなものかー……こう言うパーティーあんまり行ったことないからなぁ。圭悟くんが記者に囲まれた時以外はひっついとく」
「多分……大丈夫だ」
と言ったのに囲まれたと言うかいじられちゃってさぁ、と思いながらドリンクを口に含む。まぁ、後ろから聞こえたジャーン!とめちゃくちゃにピアノを弾いた音に肩を跳ねさせたけど。何事?と思ってみれば隅っこで展示されてたピアノを子供が触ったらしい。まぁ、ピアノってめちゃくちゃに弾きたくなるよねー、とそちらをみる。まぁ、キラキラしちゃって。係の人に追い出されかけてるけど。私はすすすとピアノに近づく。ピアノを譲りたくないちびっこvsピアノを触らないで欲しいホテルマンの攻防である。私はまぁまぁとホテルマンに声をかける。
「まぁまぁいいじゃないですか、未来のピアニストさん、どうぞ曲の続きを」
「えっ、ちょっと」
「もう飲んだくれの騒ぎになりつつありますから大丈夫ですよ」
そういえばホテルマンはまわりをみて顔を引きつらせた。まぁ結構体育会系のノリだしな。拙い手でキラキラ星を弾くのは可愛いすぎないか。満足げに弾き終わった彼女に私はそう思いながら拍手をする。
「上手だねー、ピアノ習ってるの?」
「うん!」
「そっか。ピアノ楽しい?」
「うん!」
そうキラキラした笑顔を見せた彼女はとても純粋だ。恐らくは私もこう言う頃があったんだろう。嫌になったらママにいいなよ、と私は彼女を見下ろす。こちらを見上げた彼女は不思議そうだった。何にもないよ、とごまかした私に、彼女は笑顔で首をかしげる。
「お姉ちゃんはピアノ好き?」
「最近好きになってきたかなぁ」
「ピアノ弾けるの?」
「ちょっとだけね」
私の言葉に彼女はふにゃりと笑って、じゃあ弾いて!と私に席を譲った。マジか。そうきたか。乾いた笑いを浮かべながらホテルマンを見れば僕はもうなにもみてませんのポーズをした。おい止めろ。はやくはやくと私の足を押した彼女に私はピアノの前に座る。
「なに弾けばいい?」
「お姉ちゃんの好きな曲!」
そう言って私を放置して何処かに行ったんだけど。え、なに。放置プレイか。周りはザワザワしてるし、別に一曲くらい弾いても構わないだろう。この雰囲気は嫌いではない。はぁ、吐息を吐いてグラウンドピアノをみる。好きな曲かー、得意な曲はあるが、いざ好きな曲と言われても浮かばないのが私だ。とりあえず仔犬のワルツを弾くか、と鍵盤を見つめて一息ついた。クラッシック興味ないだろうし。目を伏せて周りの世界をシャットアウトする。そしてそのまま鍵盤に指を滑らせた。
曲が終わったのでゆっくり目を開く。やっと入ってきた周りの音、パラパラと聞こえる拍手の音。やっと見えた周りの景色に圭悟くんが近くにいたことを知る。
「えっ、近くにいたの?びっくりした」
「……ナマエがピアノを弾いていたから……」
「いやー、小さい子になんか弾いてって言われてさー」
はははと笑いながら告げた。もうBGM担当ポジションでいいと思うのだ。なんかいつのまにがBGM消えてるし。そのまま国内リーグチームのジャズ風アレンジを弾いておく。気付いた彼は小さく笑ったが。
「なんか、ドレス着てるとちゃんとした曲弾かなきゃいけない気分になるけど、周り酔いどれだしこう言うの弾いてもばれなさそう。なんか知らないうちにBGMなくなってるし、特に知り合いもいないし大人しくBGM担当しとくよ。圭悟くんエースとして挨拶周りでしょ?」
「……ここにいる。ナマエのピアノを聴いてる」
「こらこら、責務を果たせ、責務を」
クスクスと笑う。持田に言え、と抗議されたが。
「……さっきのはちゃんとしたピアノの曲か」
「ちゃんとしたって面白い表現だなぁ。まぁ、たしかにコンサートの時も有名なクリスマスソングが多いもんね。音楽の授業で習うようなピアノは確かにあんまり弾かないかも。今のは……まぁ曲名はいいか。嫌いじゃない曲だから弾いてみただけ」
「……嫌じゃないか」
「あの頃は本当にピアノを弾くのは嫌だったけど今は特に嫌じゃないよ」
「……そうか」
彼はふふふ、と笑った。私も笑う。そこからは上機嫌で彼はピアノに少しもたれながらグラスを傾ける。いやではない沈黙だ。ワンフレーズで続けていたのでそのまま凱旋行進曲の有名なフレーズに移り、海外チームの曲にする。そうしてアジアカップのテーマ曲でそのまま締めくくった。まぁ穏やかな時間である。持田蓮が顔を出したことにより圭悟くんが顔をしかめたが。
「なに二人だけの空間ですみたいな雰囲気漂わせてんの?お前ら。つーか、ナマエBGM担当の奴みたいになってるけど婚約者としてハナはいいの?」
「……ナマエがいいならいい」
「うん、私も嫌じゃないからいいよ。持田蓮も何かリクエストあれば弾くけど」
「もう一回ガチなの弾いてよ。最初に弾いてた奴結構ガチだろ」
「そんな私のコンサートじゃあるまいし」
「嫌なの?」
「別にいいけど、知らない曲になるよ」
「別にいいだろ。周りもう結構酔ってるし気にしてない」
そう言った持田蓮に仕方ないとピアノに向き合ってきちんと座る。ピアノの鍵盤を見て呼吸を整えた後、目を伏せた。そしてまた鍵盤に指を滑らせていく。リストのラ・カンパネラのパガニーニ大練習曲である。昔は一応得意だった曲だ。周りの音がシャットアウトされ、ピアノの音だけになる。あの頃と違って、今はこの瞬間が私は嫌いではない。だって一人ではないからだ。
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緩やかに目を伏せた彼女の紡ぐ音は美しい。あまりこう言った曲を彼女が弾くことはない。いつもは誰でも知っているような曲を気ままに奏でているくらいでこう言った繊細な曲を奏でることはほとんどないのである。なにを思って弾いているのか、彼女は口元に緩やかな笑みを浮かべている。騒がしかった音が静寂に変わり、彼女の音に皆酔いしれるのだ。
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曲が終わったので目を開く。久しぶりに弾いたなぁ、と思って鍵盤を見つめていれば拍手が聞こえた。その音にハッとする。いけない、自分の世界に入ってしまっていた、と苦笑いする。誤魔化すようにまたBGMになるような曲を弾きはじめたが。
「ピアノ上手いやつって、意味わかんねぇ動きするよな。どうなってんの?」
「果たして意味わかんねぇ動きとは」
「……手の動きが複雑だ」
「えーそうかな」
そんな会話をしていれば、Bonjourと綺麗なフランス語が聞こえる。そちらを見ればブラン監督と通訳さんである。綺麗な演奏が聞こえてきてみたら、こんな美しい人(以下略)と英語で告げた彼に私は苦笑いをする。ピアノの演奏を止めてきちんと立ち上がり手を差し出した。
「楽しんでいただけたなら幸いです。ミスター・ブラン。そしてお会いできて光栄です」
そう彼に告げれば彼は握手に応じてくれた。
「貴方の指揮するサッカーは見ていてとても楽しいので好きです。ここ数年の中で一番ワクワクしてるかもしれません」
「そう思ってくれているなら嬉しいよ」
「後でサインをいただいても?」
「もちろん、君みたいな人なら大歓迎さ」
うむ、人がいい。ピアニストと勘違いされているような気もするけども。圭悟くんが、監督、と英語で彼を呼ぶ。
「彼女はbgm担当のピアニストではなく、俺の婚約者の女性です」
「えっ!?そうだったのかい!?」
「申し訳ありません。あまりこういうパーティーになれていなくって。元々少しだけ音楽の大学に通っていたのでピアノを少しだけ」
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