2018/01/04
とりかえばや奇譚・二
その子供は、確かに黒をまとっていた。隣にいる金髪の彼女とは反対のような。彼女の服がスカートを基調としたロリータファッションだとして、その子供の服は短パンを基調としたゴシックファッションだ。似通っていると言えば、目の色が青いことくらいか。その子供が何なのか、そこにいる半数は知っている。彼女が殆ど開くことのない部屋に住む人だと。どうして彼女が連れ出されているかは知らない。ただの気まぐれかもしれないし、成長してしまった彼女に飽きてしまった為かもしれない。しかしながら、会議で隣に座らせて好き勝手している(彼女ではなく首領が、だが)のを見るとそうでもないのだろう。
「はぁ、ナマエちゃんがいるだけで癒しになる」
「エリスちゃんのとこいっちゃダメですか?」
「だーめ」
「おへやにかえって、いいですか?」
「それはもっとだめ。ほら、本を読んでいていいから」
そう告げた彼女を静かに睨む視線を、彼女は知らない。
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この扉、邪魔じゃない?
そう告げた女に、全員が抱いていた違和感を露わにした。どうしてそう思うんだ?と聞いた男に、女は告げる。
「だって、扉をあけても先がないただの壁じゃない」
その言葉に、周りは小さく目を見開いた。しかし、全ての解につながった気がした。何故なら、この扉の先を司書は知っていて、自分たちもまた知っているからだ。「帰ることのない」司書、「帯刀することのない」司書。それは全て普通の事だ。一般的には、という言葉がつくが。しかしながら、彼らの司書はそれに属してなどいないはずで。では、目の前にいる女は。本来いるべき人は。
「?どうしたの?」
そう首を傾げた女に、黙り込んだ男達を代表してその人は口を開く。
「お前は、誰だ?」
敵意をむき出しにして。
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それはまるで呪詛のようだった。どうして貴女なの、という繰り返される言葉を。部屋にいきなり現れた女は私の手を引いてそこから引きずり出す。どうして貴女なの。そこは私の場所のはずでしょ。どうしてなの。どうして。誰もいない廊下を歩き、女は車に私を乗せる。走り出した車は知らない場所をかけていく。ブツブツと呟く声、女は車を降りるとカチャリと私の手に何かつけて、何かを前においた。急発進する車、女が遠くなっていく。彼女が笑うのが見えた。ドンドンと進んでいく車に周りは悲鳴をあげる。外を見れば、誰かが目を見開いて、私をみたけれど、ソレは一瞬で過ぎ去った。
不意に宙に浮いた気がした。いや、正しくは車ごと浮いたのだろう。浮遊感、のち、大きな音を立てて、車は濁った世界に落ちていく。そしてまた、車を満たしていく。死んでしまうらしい、と思った。だから、諦めて眼を瞑る。でも、足を浸した水に恐怖のほうが勝った。助けて、と紡げば、だれかが窓を叩く音がする。そこにいた人物は、腕を変化させて、その扉を捻りとった。
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医務室で眠る人物を彼らは知っている。何故なら仲間が探す人物であり敵対組織にいるであろう人物だからだ。
医務室で眠る人物を彼らはよく知っている。彼女は自分たちの探す人物であり、仲間であり、もっと大切な――。
彼らはよくわからない。どこから来たのかもわからない。ある意味双方学がある人物に見えるし、ある意味双方普通に見えるからだ。でも、普通とは違うのが二人がどこからともなく武器を取り出すから、なのだけど。ソレに彼女を初めて見た時の反応もそうだ。片方は名前を呼んだが、片方は主と告げた。主とはまるで、使用人ではないか。謎である。双方、「イイヒト」とされるだけに。
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眼を覚ますと見慣れた場所ではなかった。髪を誰かにすかれている。ソレはどこか知っている感覚で。でも、リンタロウ先生とは違う感覚で。隣からは寝息が聞こえる。手を見て見れば、青年が私の手を握って眠っていた。
「目が覚めたのか」
鼓膜を揺らした心地よい声にゆっくりとそちらを見る。緑色の瞳に優しさを滲ませて彼は私を見ていた。私は彼を知らない。見たことがない。でも、感じる感覚は知っている。遠い昔のことのように感じるのだけど。
「俺のこと、覚えてるか?」
そう尋ねた男性は今度は目に哀しみを滲ませている。小さく首を横に振る。そうか、と眼を伏せた彼は、しばらく黙って、笑みを浮かべて口を開いた。
「俺の名前は佐藤春夫。門弟三千人の人望は伊達じゃないぜ」
「さとう、さ、」
そう呟いた瞬間、なにかが弾けた気がした。悲しい気がする。とても。
「おいてか、ないで、ひとりに、しないで」
言葉とともに溢れた涙。彼は眼を見開いた。
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