2021/12/30
2021年オフラインネタ帳大放出祭6
「えーと、苗字ナマエです。16歳です。相手にアシストつかないようにがんばります。よろしくお願いします」
そう頭を下げておく。いやー、あまりにもアウェイでないかと思うのだ。男女ともに各年代の日本代表ばっかりの中、私は完璧どこの誰でもない。上手いやつとサッカーできるぞという(この世界でもベレーザの監督している)稲瀬さんに誘われて参加してみたが、完璧アウェイである。唯一の救いがベレーザのキャプテンであり私を知る赤澤の姉御とハナちゃん選手がいることくらいだろうか。まばらに起こった拍手に息を吐いて座る。いやーコイツ誰だの視線が痛いが気にしないでおこう。まぁ持田蓮とかは興味なさそうですけどね。
それにしても『この世界』では随分歳が離れたなと思うわけで。嫌だって10歳くらい離れているわけであるし。あれは恐らく同い年であったから彼の目に写っていただけでこれだけ歳が離れていてどこぞのチームでプレイもしていない今は完璧視野外だろう。ハナちゃんはあれだ。ドイツにいる時にお隣さんだったから知り合っただけで、それがなければ彼の視界にも入らなかっただろう。世界はうまく回るので、わたしがいようがいまいが彼らは代表としてプレイしている。それにどうだとか思いはしないが、少し寂しいものもある。持田蓮に至っては怪我が『あの世界』より少ないのだ。
他の人の挨拶を聞く中で、もう一つだけ知っている声がして私はその人物をみた。
「戸田悠馬ッス。蒼葉高校、16です。できる限りがんばります」
少し緊張したようにそう告げた人物は私がリトル持田と可愛がっていた本人である。恐らく事故にも遭っていない。同い年じゃん、と言った赤澤の姉御に私はホントだと言いながら笑う。
「仲良くできるかな」
そういえば、彼女は「アンタのコミュ力あればなれるんじゃない?」と告げたのであるが。
適当にペア作れ、と言われたらそりゃあ普段つるんでる人達とペアになると思うのだ。だから一緒にあぶれているリトル持田改め戸田悠馬に声をかける。
「トダユウマー、一緒にサッカーしようよ」
「お前確か……誰だっけ」
「トダユウマ、ひどいなぁ。まぁ……苗字ナマエだよ。よろしく」
そう手を差し出せば彼はそれを見て手を重ねた。ふむ。同い年には素直らしい。アップすると言う言葉に彼と一緒にプロ選手たちに紛れて並ぶ。
「トダユウマって青葉の十番だっけ」
「まだ10番じゃねぇけど今年から10番になる」
「決定事項?」
「今年の決定事項」
さらりと告げた彼に私はそっかぁと告げる。多分一年だから10番もらえなかったタチだろう。
「お前何処の学校?」
「私?私は両親について世界を転々としてるから高卒認定とって学校通ってない」
私の台詞に前を走っていた一部が振り返ったが、私が首を傾げれば前を向いた。秋森さんが若干悶えていたが大丈夫か。
「じゃあどっかのユース?」
「再来年ぐらいにはヴィクトリーベレーザかFCフランクに入る」
「決定事項?」
同じように告げた彼に私は肩をすくめて「多分ね」と返した。そして少し考えて、私をまた見下ろす。
「ってことはお前今何処でサッカーしてんの?」
「今は色んな国で色んな人とサッカーしてる。楽しいよ」
トダユウマは変な顔をした。前を走る人達は振り返って私をみつめた。いちいち気にするんでない。
「公式戦出れねぇだろそれ」
「うん、まぁね。でも非公式だから相手をしてくれる時もあるよ。ベレーザとかハナちゃん選手とか色々」
アラブに行ったらネイマールと会うし、イギリスではウルグアイから仲良しなアルバロとか。これ言ったらうるさいから黙るけど。
ハナちゃん選手、とこぼした戸田悠馬は前をみる。
「ハナちゃん選手って、もしかして花森圭悟?」
「うん。ドイツにいる時に住む家のお隣さんなんだ。だからたまに一緒にサッカーしてもらってる」
「一流選手に迷惑かけてんじゃねぇ」
その台詞に持田蓮が爆笑した。結構前にいるハナちゃん選手が振り返ったのが見えたので私は満面の笑みで手を振っておく。前を走っていた古谷さんと越後さんが私を見下ろす。越後さんの顔がいい。
「ってことは、ドイツに住んでるのか?」
「うーん、年に一ヶ月いるかいないかくらいなので住んでるといえないかもですけど」
そう返せば彼らは不思議そうな顔をした。
「どの国でもそんな感じなので、チームには入れないんですよね」
「なんでお前ここにいんの?」
「稲瀬さんに上手い人とサッカーできるって聞いたから私はきたんだけど、完璧アウェイだね。多分稲瀬さんはベレーザのスカウト陣をさっさと動かしたいからじゃないかな。ま、将来女子代表の10番は貰うつもりでいるしってのもあるけどね」
そうはっきり言えば、隣にいる戸田悠馬も前を走る人達も驚いた顔をした。なので私は悪戯っぽく笑う。
「でもそれは君もでしょ」
「……」
「十年後、お互い十番でいれたらいいね」
そう肩を叩いて前を見る。十年後ならまぁみたいな雰囲気醸し出してるとこ悪いけど、十年後にはお互い十番だからな。そこんところよろしくである。
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「トダユウマー一緒のチームじゃん、よろしくねー」
まぁ多分一番年下だから一番下手換算なのだろうとは思う。赤澤の姉御とかハナちゃん選手持田選手が一緒だし。お祭り騒ぎみたいなものだからあんまり監督たちも作戦とかを口出ししないだろう。私達に関しては伸び伸び自由にしていいだったしね。ちょいちょいとトダユウマを手招き、コソコソと話す。
「私がボール持ったら前でてね。君がボール持ったらできるだけ前飛び出すし」
「お前なプロ相手に」
「通用するよ、今なら舐められてるから。なんで私達と日本の絶対的なエース二人がセットになってると思う?」
その言葉に彼は眉間にシワをよせた。舐められてんな、とぼやいた彼に私は頷く。
「腹立たない?」
「……たつ」
「やろうぜ、ジャイアントキリング。私は戸田悠馬を信じる。君も私を信じて」
そう片手を出す。戸田悠馬はそれにパチンと手を合わせた。
渡されたボール、様子見のようにやってきた相手をかわしたのち、そのまま突き進む。次に来たその人はボールをひょいと蹴り上げて突破した。そうしてペナルティエリアの近くに来た時、視界の隅に入った戸田悠馬にパスを出す。私がうつと思っていたからか完璧に対応に遅れたDF陣やキーパーをよそに、戸田悠馬はシュートをうち見事にボールはネットを揺らした。一瞬の静寂、後に観客からの歓声が湧き上がる。ゴールという音声が流れる。この瞬間が私は好きである。私は戸田悠馬に近き、二人でハイタッチした。
「これであたりが厳しくなるけどまだいけるよね?」
「当たり前だろ。さっきので穴が見えたしな」
そう言ってひらりと手を振った彼に私もひらりと手を振って別れようとしたら遅れてやってきた周りにもみくちゃにされたが。うぐ苦しい。遅れてやってきたハナちゃん選手にハイタッチを要求されたのでハイタッチしておく。
「さすがナマエだな……」
「ふふん、でしょ!マークはキツくなるけど頑張るね」
「ああ、ナマエなら大丈夫だ」
そう言ったハナちゃん選手に私は頷いてもう一度ハイタッチしてから別れた。前は手を引く側だったのに、今は手を引かれる側である。もどかしいというか、なんというか。笑みを浮かべながら前を見る。さて、どこまで私はこの試合に参加できるのだろうか。
足が長いし体がでかい。となるとぶつかると私が完璧負けると見た方がいいし、ぶつかる前に戸田悠馬からきたボールをどうにかしたほうがいい。ということでやってきた越後さんや女子の結城さん、正面からきた選手には悪いが左斜め前にしょうじるであろう隙間目掛けてパスをだす。その奥にハナちゃん選手が来ることなど予測済みである。ボールを一瞬で収めたハナちゃん選手はそのままシュートを決める。ほう。
「さすがハナちゃん選手ー」
そうちょこちょこ駆け寄りグータッチを要求すれば、彼はそのままグータッチをする。戸田悠馬がはぁ?と言いながら私の頭を叩いた。いたい。
「お前何アシスト決めてんの?腹立つな」
「私サッカー上手いから!」
ふふん、と笑いながら言えば俺も上手いわと言われたが知らん。私のがうまい。
大体の試合を見てるからデータは入っているのだが、それでもちょこちょこと修正をしている。女子がガチで取りに来たのでガチで対抗し男子も舐めない方がいいと突っ込んでくるようになったのでそれはほかにボールを渡す。時々フェイントかけるがあんまり引っ掛からず対応してくる越後さんは流石なのだ。ので、フェイントかけると見せかけようとしたら勘づかれて突破された。守備は古谷さんに任せます発言を古谷さんにできたので多少走りながら戻る。
「うーん……目をつけられて自力での突破が難しくなってきたな」
デカイ。女子選手はどうにかできるがともかく男子選手はでかい。昔と同じかどうかと言われると、やはり実践経験がないだけ恐らくは劣る。多少はテクニックで補えるが、相手の経験の方が上手なのだ。どうしようか、と汗を拭いながら周りをみわたす。ボールを触った選手のパスラインを思い描いてそれを断つために走り出したのだが。椿窪田間はどうにかしたいのでそこのボールを奪って切り返すように走り出す。駆け出した戸田悠馬とハナちゃん選手達に走ってくる椿くんが足を出してくる前に、残念でした、と、斜め後ろにいる古谷選手にパスを出したが。収めた彼はボールを前に蹴り出した。
「椿選手足早すぎて鮫に追われてる気分になるのでごめんなさーい」
そうケラケラ笑いながら駆け出す。さ、さめ、とショックを受けている彼にまたケラケラ笑ったが。さて、恐らく私も戸田悠馬も前半で撤退するだろう。ならばある程度の成果は残さねばならない。攻撃に加わるしかないなぁ、と思いながら美味しいボールをもらうことを目標に前に進んだ。
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笛が鳴ったので足を止める。戸田悠馬とハイタッチしてから二人揃って引き上げた。後半は恐らく戸田悠馬は持田蓮と交代だろうし、私は赤澤の姉御と交代だろう。あとは本当の男女混ざった代表対代表だろう。もう一度名残惜しげに振り返り、観客でいっぱいなスタジアムを見つめた。
やってくれたな!とは姉御の言葉である。ぐしゃぐしゃとわたしの頭を撫でた姉御に、いてて、姉御痛いと言いながら手を叩く。やってやったけど反省点も多いのだ。そのままベンチに誘導されて座る。
「まーたその顔は反省点並べてるな!?」
「いやだって守備の時古谷選手頼りきりだったし。越後選手とか椿選手せまってきた瞬間逃げちゃったし」
「まぁ越後ガタイいいもんね。椿くん足速いし。怖かった?」
「怖いというか、競り合っても体格とスピードの差から勝てないからテクニックでどうにかするしかないけどどうあがいても向こうの方がサッカー人生長いから経験長いし代表クラスだからすぐに適応してきて腹立つから他人にボール渡した方がいいなって思うから渡してしまった。敵前逃亡を決めてしまった」
くっそー、と言いながら姉御にぐりぐり頭を押し付ける。
「フィジカル越後選手並みに強くなりたい。やっぱり鍛えるしかないか……」
「鍛えると身長伸びないよ」
「170センチ後半欲しい人生だった」
「苗字さん、悪いんやけど、170センチ後半の越後並みのフィジカルってただのちょっと小さい越後になるで」
女子選手の発言に周りが吹き出した。いやたしかにそうなんだけどさぁ。なんかもうちょっとこう……その年にしたら上手いじゃないんだよ。
「笹ちゃん騙されない方がいいよ。今こんなにしおらしいけど、この子ベレーザでプレーしてるとただの女版持田だから。女王様のクソガキだから」
「姉御そんなこと思ってたの?もしかして下手って言ったの根にもってる?」
「根にもってるというか、私含めてアンタにプライドボコボコにされた感はある」
「えっ、ごめんなさい、あの時ホント調子乗ってたから。私が越後選手並みのフィジカルになったらまたいうね」
「言わんでよろしい」
「ちなみになんていったん?」
「日本女子、全員私より下手」
私でなくて姉御が答える。笹ちゃんと呼ばれた選手が「ほーーーお!!」と言いながら私の頬をムニッとつまんだ。
「生意気なこと言うんはこの口かー?」
「笹ちゃんせんしゅいひゃい。でもぶっちゃけ私が一番うまいとおもーーいひゃいー」
「よーのびるおもちゃなぁーー」
ムニッと頬を引っ張られる。戸田悠馬が変な顔して私を見てるが無視だ。
「助けて戸田悠馬」
「俺おまえほど烏滸がましくないから。俺は俺の世代で一番上手い」
そう言った戸田悠馬に笹ちゃん選手の手を退けつつ口を開く。
「ウッソだろお前。それはない。この世代で一番上手いの私だから高校選手権優勝してから出直してきて」
「はぁ?お前はチーム所属してから出直せ」
「くっそー、たしかにチーム所属してないから言い返せないな……」
「苗字さん、三重に来てもええねんで?」
「あーそっか、笹ちゃん選手三重クノイチのキャプテンだもんね」
「なんや知ってたん?」
「一応日本の一部リーグは全部見てるよ。そっかー、クノイチなっちゃおうかな。ぶっちゃけ鈴鹿に近いからそっちの方が頷く可能性がデカイ気がする」
「なんやようわからへんけど私は歓迎するわ。おいでおいで」
「やめなさい。ただでさえ監督アンタの保護者とドイツとバトってんのよあの人。稲瀬監督の胃が痛くなる」
「はっ、あの人そろそろアラフォーだから健康診断に引っかかってしまう!!」
「そう!」
そんな会話をしていたら、稲瀬監督が「おい」と言いながらやってきた。
「お前らやめろその認識」
「稲瀬さん大変じゃん健康診断ひっかかってんの?気をつけろよー、もう年なんだし」
「達海お前もそんな歳変わらないだろうが。バカ言うな」
スパコンと頭を叩いた稲瀬さんに、達海監督がケラケラ笑う。確か成田選手と達海監督の間なんだよな、年齢が。平泉監督は相変わらずクールであるが。気にせず暴れてくるといいと言ってくれた彼である。達海さんがホワイトボードの前にたった。ふーん、指揮は平泉さんじゃなく達海さんがとるんだ。
「まぁ、前半は最年少問題児コンビが面白おかしくかき乱してくれて、すっげー面白いことになってたからもーちょっと様子見たいんだけど、後半は大人の事情で大人の時間にせざるおえないから悪いけど二人は下げるな。戸田苗字アウトで持田赤澤イン」
大人の事情というかはスポンサーの都合だろう。まぁそれは仕方ないよなぁと思いながらホワイトボードを見つめる。多分向こうは向こうで窪田椿を中心に作り上げるとは理解できるが、それでも持田花森選手がこっちにいるのを見ると有利なのはこちらではないだろうか。向こうは恐らく志村選手が攻撃の要になるだろうし。達海監督の話をふむふむ聞く。この人の作り上げたい形は稲瀬さんのそれに似ている気もするのだ。
「ってなことでよろしく」
あと絶対いじめっ子だと思う。ニヤリと笑った彼に私は真似してニヤリと笑ってみる。ハナちゃん選手にめちゃくちゃ見られていたので顔を隠したが。
==
「はー、やっぱり他の選手もハナちゃん選手も上手いけど持田蓮うまいな……」
昔の自分も立場とか色々あるから言わないだけで思っていたが、歳が離れた今は言っても差し支えないだろう。となりにいる平泉監督が私を見下ろした。
「持田のファンか」
「うーん、サッカー選手みんな好きだけど、持田蓮とハナちゃん選手のプレーが好きです」
そう返してピッチをみる。今の私には何もかも足りない。あの時は二人と一緒にプレーしたくてがむしゃらに走った。貪欲に勝利を求めて前だけを見て。でも、今はそうじゃない。あの時味わった悔しい気持ちが全然ないとは言わないが、それでも不足している。何もかもが。これでは女王様になんてなれっこない。
「持田蓮みたいに圧倒的になりたいけど何もかも不足だなー、くっそー、自分の実力不足に腹立ってきた。やっぱりチームに所属してサッカーやりたい」
「そういや、そもそもなんでチームに所属できないの、お前」
「両親が過保護なのと両親の仕事仲間のメンタル漬け込んだ形なのとなまじ一瞬でもその道で未来を期待されたことがあるからなかなか首を縦に振ってくれないんですよね」
「多才だな」
「多才はよくないよ。神様がたくさん与えた人はそれだけ神様がはやくに連れて行っちゃうって聞いた」
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