2021/12/31
2021年オフラインネタ帳大放出祭24
そんなことだろうと思ったのだ。きっとまた同じようになるだろうなって。私の人生のほとんどを連れ添った足を、フットボールを神様は連れていってしまい、私はまたゼロからのスタートになる。悲劇とかそういう話で報道されるニュースに、私は頬杖をついて眺める。それはきっと、悲劇でもなんともなくて、12時の鐘がなって魔法が解けた。それだけの話だ。歩けるまでどれくらいの時間がかかるのだろうか、となくなった片足をみる。どうせならカッコイイ義足が欲しいと両親に言ったから多分そのうちカタログを持ってくるし、クラブのスポンサーももサッカーできる義足のサンプルを持ってきたりする。リハビリをして、とりあえず歩けるようになるのが目標だろうか。新しくこれから何をして行こう。まだ、新しい日の先がある。そう考えていたのに。
ハナちゃん選手がポロポロ泣いてる。ニュースをみてすぐに日本からイギリスまで飛んできたらしい。どうして泣いてるの、と聞けば、私が泣かないからだと返答がきた。私が泣かないから。何があっても泣かないから。そういやそうかもしれない。泣いたことがあんまりない。大丈夫なのだとハナちゃん選手が私を抱き寄せる。もう無理はしなくていいのだと言われて、どこかストンと腑に落ちた。泣かなかったんじゃない。泣く暇がなかったのだ。何を目指せばいいのか、ゴールがわからなくてただがむしゃらにフットボールだけを考えていた。細かいゴールは確かにあった。でも、あの二人と一緒にピッチに立つという夢を叶えて、男子のチームでプレーして、いろんな荷物を背負って。誰でも認めるような一番でなければならなかった。最高のプレーをする人でいなければならなかった。誰かの、もしくは数多の女子や同業者達の良き見本にならなければならなかった。ジェンダーに抗議するような象徴でいなければならなかった。そして、私は孤高の女王でいなければならなかった。二度目だったこともあるだろう片足をなくした時、聞かされた時、感じたのが悔しさではなく、何処か安堵のようなものがあったのはそれから解放されたと思ったからだらうか。
「もう頑張らなくていい」
その言葉にハナちゃん選手を見上げる。もうナマエは十分頑張ったのだから、もう頑張らなくていいと噛みながらも言い切った彼にグニャリと視界が歪む。
「でも、頑張らないと、」
「……少なくとも、俺の前では、頑張らなくていい。ずっと言いたかった。ナマエは、すぐに、無理をする。お前の大丈夫は大丈夫じゃない」
彼が少し体を離す。離れてほしくないから、その服を握る。ああ、泣いてしまう。彼を困らせてしまう。普通のそこらにいる女性となんら変わらないのだと幻滅させてしまう。彼の特別に駆け上がれたのは私が普通の女の子じゃなかったからだ。泣くまいと唇を噛む。それに気づいたハナちゃん選手はもう一度抱き寄せた。
「……泣いていい」
泣きたくない。首を左右にふる。
「……泣いて欲しい」
変なお願いだ。どうして?と聞けば彼は少しの間の後、頼られたいからなどという変な返答をする。
「泣け」
最後はそれだけだ。私はその言葉についに涙をこぼした。それが、安堵なのか悲しみなのか今はわからない。ただただ溢れる涙に、彼は私を強く抱きしめた。
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「ケーゴくん」
「……!なんだ」
「ありがと」
そう言って布団から顔を覗かせる。ケーゴくんは少し目を見開いて、いや、と照れたような表情をみせた。
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記者会見を。
そういや記者会見してなかった、と思ったのはクラブハウスの人が尋ねてきた時だ。昔の記憶があるからめちゃくちゃスムーズに進むリハビリ、ケーゴくんがイギリスにもはや住んでいて毎日来てくれる。炎症などの症状は落ち着き、リハビリも順調で退院の目処が立ったからもあるだろう。確かに一度ちゃんと顔を出した方がいい。SNSも更新が止まっている。やるしかないかー、と空を見上げる。いつのまにかクラブは一部と二部の瀬戸際まで登っていた。
何を言おうか纏まってなんかなくて。結局何も考えず、ハナちゃん選手と一緒にスタジアムの通路を歩く。歓声が聞こえる。数ヶ月前まで私がいたはずのそこは、何処か遠くの世界に変わったのだ。
「不思議の国のアリスと、シンデレラ、どっちがいいと思う?」
そう言ってただ、通用口の先をみつめる。アリスとシンデレラ?と首を傾げたフロントスタッフに、私は「例え話だけどね」と肩をすくめた。
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