2021/12/31

2021年オフラインネタ帳大放出祭55




そもそもだ。普通はない知識を私はあるわけであるし、他を逸脱しすぎている気はする。だからまぁ海外のチームでプレーしていたりしたのであるが、やはりというか性別の差というのはどこの世界でも大きいらしい。男子は一位を取れなくたって相変わらず人気があるというのに、女子は一位から転落した瞬間にまわりは興味を失うのだ。人気とは常に応援してくれるファンの数もそうだが、浮遊層をどれだけ留まらせるかが問題なのだ。その点、この世界は失敗した。女子サッカーの人気は低迷し、ほとんど見向きもされていない。まぁ、それは日本だけではないのであるが。
だから、両親の都合に振り回される年である私が、両親の都合で私が馴染みファンもいるチームをさらなくてはいけなくなった時私は少し絶望した。もちろん、チームもそれに関わる大人も止めたし留学にすればいいとも言ってくれたがそれが通じるわけもなく。私は日本に来る予定になったのだ。もとよりチームの間で関わりがあった東京のチームに属することにはなった、のであるが。
「なんで住まいが埼玉なんだ」
いや、埼玉に住んでて通勤通学で東京へはわかる。が、私の場合、家も学校も埼玉である。チームが浦和の方が絶対近い。強豪校もあるわけだし。まぁ、あれもそれも両親のせいだから仕方ない。そんなこんな、私は日本の高校へ入学した。ドイツのユースで活躍しプロが確定していた15歳の話である。

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教員紹介で紹介された人の中に、おお、と私は目を瞬く。昔代表選手で怪我をして若くして監督になった深津選手の名前と新しくコーチとして赴任した元女子代表の能見選手の名前があったからだ。どちらも女子サッカー部の顧問と書かれている。男子チームは(最近は成績がパッとしないが)強豪校であるのは知っていたが、女子チームも強いのだろうか。そう思って成績を調べてみたが、どうも強いわけではなさそうだ。今から強化をしていくのだろうか。ほーん、と思っていれば「次は苗字さんね」と教師に言われて新入生向け冊子を捲るのをやめる。自己紹介である。
「あー、と、苗字ナマエです。最近埼玉に引っ越してきました。……何いうんですっけ?」
隣の男の子に尋ねる。なんか越後くんに似てるなこの人。
「好きなものと所属したいクラブだよ」
「ありがとう。好きなものはフットボールと料理とf1。所属したいクラブは、学外で活動予定なので所属予定はないです。よろしくお願いします」
それだけ言えば、まばらな拍手が聞こえて私はとりあえず座る。越後くんにそっくりな人は私をみているので、私はとりあえず口を開く。
「顔がいいね」
私の呟きに周りにいた生徒が吹き出した。いや、後ろで自己紹介をしていた子も吹き出した。ごめん。でも多分毎日一回は顔がいいね!って言ってしまう。
「……面というやつははじめてだな」
「これから毎日一回面と向かって言うから、どうぞナルシストになってね」
「ならねーよ」
「で、君、誰?」
失礼であるが。彼はやれやれとため息をついた。
「越後直だ」
「はいはい、越後くんね。よろしく」
そうくせで握手を求める。目を瞬いたものの、握手に応じた彼は私をみて口を開く。
「学外で活動予定ってことは、浦和レディースか?」
「いや、元々いたチームの知り合いの関係で東京の方。君は浦和なの?」
「まぁな、浦和のユースだ」
ユースのニュースが入り込みづらいからチェックしてないんだよなぁと彼を見る。前ならこの頃には城西さんや蓮ハナちゃんあたりと世代代表をしていたぐらいであるが。
「へー、まぁ男女の違いはあれど同世代だしよろしく」
そうニコリと笑っておく。彼は「よろしく」とまた返してくれたが。やっぱりいい人なんだよなぁこの人は。


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「おはよう、越後くん!今日も顔がいいね!!」
「……まじでそれ毎日言う気か?」
「うん。顔がいいから仕方ない」
そうケラケラ笑って椅子を引いて座る。東京のチームは嫌いではなかった。まー、育成世代の監督が若い稲瀬さんでびっくりしたが、そういや昔はそうだったんだよな〜と思う。あの人女王率いてるイメージでかすぎる。現役は結構早々に引退してたのをみると、指導したかったのだろう。あと男子の方に蓮いるかな?って思ったけどいなかった。多分もう一つ東京にプロチームあるからそっちかもしれない。
「越後くん、浦和ユースでも上手い方でしょ?」
「……まぁな」
「世代代表選ばれてる?」
そう尋ねれば彼は目を瞬いて、よくわかったな、と返した。
「苗字は?」
「私?海外でやってたから、ないない。海外でやってる子供いちいち代表召集で呼び出すと思う?」
「多分無理だな。そこまではしない」
「そう言うこと」
鞄の中から教科書を取り出しつつ答えていれば、近くの席の鈴木くんが口を開いた。
「なぁなぁ、越後は上手いの知ってたけど、苗字って上手いの?」
「こら、男子の物差しで女子を測るんじゃない、佐藤」
「俺鈴木なんだけど」
「ニホンで一番人口が多いのはサトウって監督が言ってた。よって一番人口が多いっていってた君は佐藤」
「ちゃんと自己紹介聞いてるじゃねぇか」
越後くんのツッコミに、いやー、と頭をかく。初めの方は新入生の冊子見てて聞いてなかったのだ。ふふん、と胸を張る。
「私は上手い。ジュースかけてもいいよ」
「おっ、言ったな!やる!」
お昼からどうせ体育だし、昼からやるぞと言う話になる。まぁ、昼から私がジュースを奢ってもらう結果になるのだが。越後くんとやり合ったら危なかったが、まぁ彼のプライドに火をつけるのでめちゃくちゃ楽しかった。

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昼休みにサッカーをするようになり、その人数が少し増えた頃である。あとこの前の代表戦の話をしている時だ。苗字さんって越後くんのことどう思ってるの?と面と向かって女子生徒に聞かれた。私は越後くんを見つつ、常々顔がいいって思ってる、と言えば女子生徒が安心したようにはけた。あ、あ……
「あおはるじゃーん!やっぱり顔が良くてスポーツできるとモテんね!!」
バシバシと越後くんの背中を叩く。いたいいたいと告げた越後くんに最近昼休みサッカーに混ざる山田くんが憐れんだ。
「顔がいいしかないのか?」
「顔がいいしサッカーが上手い方。よっ、モテ男!」
「苗字って黙ってたら騙される人多いと思うんだけど、喋ってたら残念だよね」
「佐藤も同じ分類だから安心していいよ」
うんうん、と頷く。それってどういう意味?と聞かれたが。
「でもまぁぶっちゃけ、君たちも力付くならすぐボールを奪えると思うよ。三年くらいになると流石に差があるからね」
それを私はいやと言うほどわかっている。自分のレベルをあげようと体の筋肉量や体付きが違うのだ。まだ身長も伸びるだろうし。
「私はその差をどうやってもテクニックと予測で補うしかない。でもそのテクニックを破られたら終わり」
「予測?」
「こうきたならこう来るかなって言う勘。何通りもはってるけど、君ら癖があるから」
そう言いつつプリントの裏に絵を描く。
「隣の山田くんは、こっちに動くのが多い。でも、反対もよそうしてる。それ以外をつくとぬきやすい。佐藤は素直だから真っ向勝負が好き。せこいことをすると抜きやすい。越後くんは私の体の重心でどっちにいくか判別する。重心を傾けて止まると対応できないことがある」
「苗字ってさー、いちいちこんなこと考えてサッカーやってんの?」
「うん、だって私が良いパス出しても周りがそれに対応できなきゃ意味ないからね。だいたいは同じチームの人の長所と短所を把握はしてる。モチベーションを上げたり、フォローに入ったりもする。でもそれは私がゲームメイカーしてる関係というか、私が好きでやってるだけ。君はフォワードだからゴールのことだけ考えてたら良いよ」
そうよしよしと頭を撫でる。犬じゃねーしと言ったが、犬っころなんだな。

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「ひなっぺ、いいねー!その動き。ふくちゃんもナイスナイス」
そう後ろから声をかける。体育の授業でキーパーなう。ひゅー、つんちゃん最高かよー!と言いつつ右だとか左だとかはちゃんと指示を出す。まぁこっちにきたボールはちゃんと他の子にも取りやすい場所に蹴りますとも。
「苗字ー、お前何キーパーしてんだー!」
「かわい子ぶってんじゃねーぞー!」
「おーっと足が滑ったー!」
そう言って結構な勢いのボールを蹴った。がしゃん!と金網に弾かれたけど。男子からブーイングきた。うるせぇ〜!
「よっし、ふくちゃんそのまま抜けろ抜けろ!」
ボールを奪ってから緩いロングパスをだす。抜けでたふくちゃんがそのままボールをドリブルしシュートを決めた。ナイシュー!と後ろから声かけていれば、相手チームの子から声がかかる。
「ナマエ手加減してよーー!」
「最大の譲歩でキーパーしてるじゃーん」
ケラケラ笑いながらそう告げる。彼女達からふざけたブーイングがきたが。ブーイングばっかだなこの会場。


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「ナマエちゃんって他のチーム入ってるんだよねー?」
「うん。東京のね。元いたチームの監督が知り合いでその紹介って感じかな。ふくちゃん達はここの女子サッカーだよね?」
「うん、そうだよー」
「試合は出れないけどね」
「いけるいける、大丈夫大丈夫、虎視眈々と狙ってたらいける。アイツより私を見ろ的な」
「ナマエ精神図太いわ〜」
「えっ!!私は繊細だよ!!ガラスみたいに」
「ナマエはどう見てもアクリル板」
「繊細ではない」
この子らひどい。

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クラスの親交を深めるイベントは年に数回ある。この球技大会もそのひとつだろう。原則、所属クラブ以外の球技に行かなければならない、とのことなのである。どれにしようかな、と悩んでいたのに男子サッカーの人数が少ないからと越後くんに連れてこられることになった。なんでだ。私は足でバレーボールしようと思ってたんだぞ。
「まぁいいけどさー、男子サッカーあれじゃん。サッカー部オッケーなんでしょ?」
「お前なら大丈夫だろ」
その言葉に心臓をおさえてから、女子生徒に口を開く。
「ごめん、みんな、あまりの越後くんの顔の良さにときめいてしまった。大人しく本業してくる」
「ナマエちゃん!?バレーボールは!?」
「女子サッカーは!?」
「いやだってこの顔面に『お前なら大丈夫だろ』って言われてみ?ときめきしかないわ」
「それは仕方ない」
「仕方ない。越後の顔の良さは半端ない」
「ついでに他クラスのサッカー部員に若干恨みがあるから晴らしてくる」
そう言って首元に親指を横切らせる。隣の山田くん(『隣の山田くん』があだ名なだけで隣の席は越後くんのままだ)が何されたんだよと突っ込んだ。
「私のパックジュースこぼしたくせに謝りもせずどっかいく、サッカー部だからとかいう謎の言葉をいいながら片付けを私に押し付ける、挙げ句の果てに順番割り込んで私が買いたかった昼飯を買っていく……サッカー部だからは免罪符じゃないんだわ。全国大会でてからそれを言え。というかスタメンになってから言え」
ファックとばかりにそう言えば隣の山田くんが「なんか悪い」と謝った。いや、山田くんのせいではないのだが。越後くんが肩を震わせている。
「でもポジションどうする?」
ちょっと黒板を借りて端の方に図を書く。
「私のスタミナ的に越後くんはちょっと私の後ろのDFいて欲しい。それか佐藤か山田くん前に欲しい」
「だから俺は鈴木だってば」
「苗字が全国一位っていうから……」
「つーか、FW何人いるの?それによってシステムかわるくない?」
「苗字は正式にどこなんだよ?」
「MFだろ」
隣の山田くんの発言に私が答えるより越後くんが先に答える。
「あたり。偶にFWに回されたりもするけど、だいたいど真ん中にいたり、ゼロトップの前にいたりもするけど、今のチームは中盤MF固定」
「橘ー、お前はDFだったよな?」
「まーなー、偶にMFしてたけど」
ギャイギャイと意見を言う周りにポジションなどを書いていく。それに持久走とか体力テストの結果を反映しつつ、越後くんと隣の山田あたりとああだこうだ言う。
「3-4-2-1か、3-5-2、4-2-3-1あたりかな。プレー見たらもうちょいシステム戦術詰めれるけど、そんな時間はないね。まぁ、越後くん、後ろは任せた!」
そいバシバシと背中を叩く。彼はおう、と頷いた。

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女子がいるって言って勝手に舐めてきた相手をブチ抜いてシュート決めたら唖然とされた。ので私は指差してわらっておく。ざまぁ。まぁドイツ語だったからキョトン顔されたけど。
「右から失礼」
軽やかにそう言って避ける。鈴木や山田くんがいい位置にいてくれるので足の間を通してみたり、ボールを的確に贈ったりする。私が止められなくても越後くんが止めるからな。いやー、楽しい。越後くんとは昔は違うチームだったし、幼馴染みではないから一緒にサッカーしたことはあんまりなかったが、ここまで楽しかったらやれば良かった。そんなこんなで勝ち上がっていけば、三年生と決勝することになったの笑う。あと女の子が私にキャーキャー言ってくれるの楽しい。
「男に生まれたかったな〜」
そう言えば周りが私を見下ろした。
「私も常に女の子にキャーキャー言われたい」
「あぁ、そういう……」
「私が男だと代表確定しちゃうんで君たちの立つ背がなくなるからなー。何回男だったらと言われたことか……」
うむうむと頷く。越後くんが私を見下ろした。
「ドイツでも言われたのか?」
「言われた言われた。最初にいたのがヘルタのジュニアスクールだったからね」
「ちょっと待て、初耳がすぎる」
「そうだっけ?まぁ、君が男ならヘルタユースに招くことができるが、君が女の子だから我々は君の旅路を支援することしかできないって言われた。結局隣町のポツダムのチームにいたり、例外的に男子側に混ぜてもらったりしたけど」
やれやれと肩を竦める。というか。
「越後くん私のことそこそこ詳しいよね」
「……まぁな。国際合宿で見たことあるし」
「えっ、なにそれ、私知らない!!なんで話しかけてくれないの!?」
「お前の周り海外のやばい奴ばっかいたからな……」
「あー……ヨーク兄とかウィルとかアスターとかか……あの人ら過保護だからな」
そう遠い目をする。あの人らドイツの上手い選手なのだが、何せ私が仲良かっただけに過保護だったりツンデレだったり世話焼きだったりするのだ。国際合宿に参加したのはその年だけだったが、確かに周りに常にその人達がいたのを覚えている。うむうむ、と頷いていれば、まぁそれだけじゃないけどな、と彼は告げる。なんだ。
「くっそー、越後くん顔がいいからそんなふうに言われるとときめいてしまう!」
そうドスドスと彼を殴る。痛い痛いと言った彼に私は指差した。
「負けたらあそこにいる女の子にラインidばら撒いてやるからな!!」
「きゃー!苗字さんそれやばーい!」
そう叫ぶ他クラス女子に私は越後くんにベッと舌を出したのだけど。モテやがって。


腹が立ったのでお見舞いがてら劇的ミドル入れてやった。多分触んなくてもゴールネット揺らせたけど、そこにいた鈴木くんがヘディングしてくれたのでボールはゴールに吸い込まれた。その瞬間、相手の表情が変わる。私は鈴木くんに声をかけた。
「鈴木くんナイスヘディングー、私の伝説級劇的ゴールがアシストに変わったけど決まったから許す」
「いやー、苗字やばいわー、あんな距離普通むずいって」
「ふはは、もっと褒めるが良い」
そう言いつつハイタッチする。さてはて、何点取れるだろうか。

相手で遊ぶ。くるりと回ってみたり、足の間通してみたり。いやほんとみんないい位置にいるからやりやすいのだ。後ろにいる越後くんの安定感もやばいしな。安心してプレーできる。
焦ってきた相手にまーいやなことしてるからねー、と思う。このままPKとったろ、と余計嫌なことすれば思惑通り私は転倒しイエローとpk頂きました。私は立ち上がり、ボールをもらう。
「ふふん、順番を抜かして私の狙っていた物を奪った罪はこれで帳消しにしよう」
「センパイじゃねぇか」
「隣の山田くん蹴る?外したら締めるけど君多分外さないでしょ」
「俺蹴るー!」
「鈴木は足元の技術がちょっと心許ないからなー、でもフィジカルとそのボールは全部俺のものの精神や良し。蹴っておいで」
バシバシと背中を叩いてボールをおく。となりに並んだ彼が蹴ってもいいし蹴らなくてもいい。ほとんど同時に走り出して、鈴木がボールを蹴った。私が本命だと思っていたキーパーの予想は外れて綺麗にゴールが決まる。鈴木ー!と頭をぐしゃぐしゃすれば、周りが鈴木を潰す。こわっ。避けたけど。そこで試合終了の笛が鳴った。私は笑顔で先輩を見ておく。ザマァ。

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「あーー!いたーー!!」
なんだ?とパックジュースを飲みながら口を開く。越後くんと2ケツして駅まで行って練習行くのだ。女子生徒なのを見ると越後くんのファンだろうか。まぁー、あれからきゃあきゃあ言われちゃってまぁ。
「越後くんファン増えたねー、モテモテじゃん。こりゃそのうち2ケツしてるとキレられるな」
「いや多分あれお前目当てじゃないか?」
多分女子サッカー部だろ、と言った越後くんに私はああと手を叩く。だが話を聞く時間はない。
「すまん!明日話聞くねー!練習に間に合わなくなってしまう!アデュー!」
そう言って越後くんの肩を叩けば彼は自転車を走らせてくれる。まってー!と言う言葉にひらりと手を振って曲がり角を曲がった。女子生徒とすれ違うとあ、越後くんだーと言う声が聞こえる。
「しっかし、越後くんホントモテんね〜。先輩後輩含めて女の子めちゃくちゃきゃあきゃあ言ってんじゃん」
「まぁな」
肯定しても嫌味にならないんだよなぁ。下り坂を自転車で降りていれば、越後きかんは口を開く。
「でも苗字もだろ」
「うーーん、私はモテない。何故ならフットボールのことしか考えてないフットボール馬鹿だから!」
ははは、と笑いながらそう告げる。彼は「まぁ確かに」と頷いた。
「お前サッカーしてる時が一番幸せそうな顔してるもんな」
「それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」

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「総じて女子サッカー部員と会うタイミングが悪すぎるんだよなぁ」
席替えして前の席にきたふくちゃんと斜め前にきたひなちゃんにそう言えば、やっぱり?と言われた。私が帰宅する時とか移動教室で忙しい時とかそう言うタイミングばっかりなのだ。ちなみに相変わらず隣は越後くんで笑うわ。なんだこの偶然。昔は蓮の面倒みろと隣にいたりしたが……はっ!?私が越後くんに面倒を見られてる!?いやみられてるわこれ。閑話休題。私は福ちゃんとひなちゃんに尋ねる。
「で、なんの御用でしょ」
「んー、多分、部活入って欲しいとかじゃないかなぁ」
のほほんしながらいったひなちゃんに、私は外のクラブ入ってるからなぁとぼやく。
「休みの日に冷やかしにはいけるよ」
「お前休みあったのか?」
「失礼な、あるよ。というかチーム練習休みだと流石に練習場でフットボールできないから休みだよ。まー基本フットボールしたいって監督のとこだだこねに行ってジュニアの練習付き合わされたり違うチーム放り込まれたりしてるけど」
「ナマエちゃんサッカーばっかりだねぇー」
クスクス笑った女子生徒に「まーね」と頷く。
「できるうちにやっとかないと損だし、やらなきゃいけないこともあるし……」
いやー、思えばサッカーしてたの二十数年だけだっし、それ以降も長く生きてるわけじゃなかったから。この国を女王にしたいから。また。
「また一緒にサッカーしようねって約束した人がたくさんいるからねー」
そう死ぬ前に約束してしまったから。越後くんに似た人がいるなら多分いると思うから。
「人間いつ死ぬかわかんないんだし、悔いなく生きたいよね!」
ケラケラ笑いながらそう言えばなにそれとまたケラケラ周りに笑われたけど。越後くんだけが小さく肯定したのだが。

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「深津先生足大丈夫なんです?」
彼にプリントを渡すために職員室に向かう。そうしてプリントの束を渡しながら私は尋ねた。あぁ?と返した彼に、私は口を開いた。
「先生、アンダー代表にいたでしょ」
「……知ってんのか」
「前のサッカーの試合色々漁ってたから知ってる。深津先生のプレー結構好きなんだよね。アンダー代表のスロバキア戦とか」
「……よく見てるこって」
そう言いつつ近くにある椅子に座る。放課後だし、越後くんは掃除当番である。勝手に座んなと言いながらも話に付き合ってくれるらしい。
「深津先生、男子世代代表の試合映像とか持ってない?」
「もってねぇよ」
「じゃあ女子の方」
「もってねぇ」
「もー、なんでこんな映像入手しにくいの?プレーの分析できなくない?」
「普通はやんねーよ」
「そりゃそうだ」
うむうむと頷いていれば、お前と彼は口を開く。
「サッカーしてんだろ、どこでやってんだ」
「前のチームの監督と知り合いな東京のチームでやってる。いやー家から近めだからこの学校選んだけどサッカー部あるって知らなかったし。深津選手が監督してるって事前に聞いてたらなぁ」
私の言葉に彼は変な顔をした。なんだその顔は。私は結構深津選手の采配好きなんだぞ。まぁ多分ベテランが反感を持ったんだろうが。はぁー、とため息をついた彼は「ほらさっさと帰れ」と追い払ったのだが。まぁ丁度越後くんがきたので帰るとする。ちなみに今日は私が漕ぐ日なので、越後くんを後ろに乗せて帰った。

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「……直って呼んで欲しいって言ったらどうする?」
「えっいいよ。これから直って呼ぼ。私も下の名前呼んで良いよ。なんかフェアじゃないし」
「……おう」
というのが昨日の帰りの話である。
なんで下の名前呼んでるの?と他クラスの女子生徒に聞かれたので、いや呼んで欲しいって言われたから、と素直に答える。
「あんまりべたべたしないでほしいな。多分越後くんも迷惑してるよ」
「あー……あーー、ごめん。私人との距離感ばぐってるからなぁ」
そりゃあそうなるわ、とうむうむと納得する。許容する
「なにやってんだ」
「いやー、私が人との距離感バグってるから直にべたべたしてるように見えるって話だよ」
「別に今更だろ。ナマエ、スパイク見たいから帰りにスポーツショップ寄っていいか?」
「いいよー、今日休みだし」
「それを早く言え」
頭を叩いた彼は帰るぞ、と私に声をかける。いやだからこの距離感をやめた方がいいんだよな。通りかかる別のクラスの男子生徒が越後ーと声をかける。
「お前苗字さんと付き合ってんの?」
「……悪いか」
どっちとも取れる返事をすな!とチョップをする。まぁ防がれたけど。女の子達が唖然としてる。帰るぞ、と手を引かれたので私は手をひらひらふっといた。私は半歩先にいる彼においつく。
「便利だなー、否定とも肯定ともなる日本語」
「そうだな」
「ついでに私もアンダーウェア買お」

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休みの日に軽く河川敷を走ってたら一人でサッカーしてる女の子を見つけた。おお、サッカー女子!と思いながら近づく。多分同い年くらいだろう。転がっているボールを一つ彼女に向かって軽く蹴れば彼女は振り返ったのだが。よくよく見ればユニフォームをきてる。今日は休みだと福ちゃん達が言ってた気がするが、まぁ、負けたと言っていたから悔しくてやってるんだろう。あるある。
「一人で練習してんの?」
「あー、うん、まぁね」
彼女はボールを受けて、私にボールを蹴って返した。
「一人で練習も楽しいけど、復習とか修正なら複数でした方がいいよ。私今日休みだし、付き合うよ。フットボールしてたいしね」
そう言って彼女を軸に巻くようなシュートをゴールに放つ。ゴールネットを揺らして中に入ったボールにうむと頷いた。彼女はそれを見て、目を瞬く。やらないの?と聞けば、やる!と返された。

「苗字、恩田は試合明けだからそこそこにしてやれ」
そんな声がかかったのはコンビネーションプレーで遊んでたころだ。この子うまいなぁ将来楽しみだなぁとのほほん考えていたころである。
「これでもゆるくやってますよ」
そう言えばなんとも言えない顔をされたが。サッカー馬鹿、とは最近の深津先生の私の評価である。会うたびどこぞのチームの戦略についてまとめたくて一人で語ってたらそうなった。
「クマ、知り合い?」
「お前らがいっとき追いかけてた奴だよ」
「えっ!」
「あー、あの時はごめんね。話しかけてくれるの忙しいタイミングばっかでさー、休みの日に冷やかしに行こうと思ってはいたんだけど、グラウンドどこかわかんないしで……私一年の苗字ナマエ。そっちは?」
「同じく1年の恩田望!」
「おっけー、ホープちゃんね!覚えた!ホープちゃん結構テクニックあるしフィジカル強いね!だから、あんまり考えなくてもなんとかなるタイプだな」
そう言えば、クマと呼ばれている深津先生が頷いた。ガサツはガサツだからな、と言った彼に彼女はなんとも言えない顔をした。
「悪い?」
「悪いことじゃないよ。そういうタイプは難しいことを考えるのは他に任せて自分の仕事に忠実になった方がいいと思うしね」
「ガサツにそんなこと言ってもわかんねぇぞ」
「……自分の好きなようにやったら周りが勝手に動いてくれるよ。諦めない人にはボールは絶対くるからね!!」
はっはっはっ、と笑いながら背中を叩く。
「苗字さんは」
「別に名前でいいよ。福ちゃん達は普通に下の名前呼んでるし」
「ナマエちゃん?は、他のチームなんだよね」
「まーね。高校からこっちに引っ越してきたんだけど、前にいたチームに留まれないならって前の監督が知り合いの監督がいるチーム紹介してくれたんだよね。まさか学校に女子サッカー部あるとか知らなかったし」
「前からずっと女子サッカーしてたの?」
「ジュニアの時は男女混合……というかむしろ男子勢とプレーばっかしてたけど、それ以降は女子だね。惜しまれながら隣街の女子チームに通ってたわ。それでも仲良い子と一緒にサッカーしたりはしてた」
「関東圏?」
「いや、ドイツ」
そうさらりといえば彼女は目を瞬いた。すっげー!!と言った彼女に、私はふふんと胸を張った。もっと褒めるが良い。



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「おおーいまじかよコレは某監督からテコ入れ入ったな、はっはっはっ」
そう言いつつ某監督から召集の話を受ける。お前がえげつないことするからだろう、とは日曜日のことを指すんだろうか。いや最近めちゃくちゃしてるからな。育成世代で圧勝ばっかしてたら育成じゃない方に呼ばれたし。念のため一応こっそり登録されてたのだが、そこで成績残したからだろう。ついたあだ名がヴェルディのヤバいやつである。ヤバいってなんだ。
「稲瀬監督何もないの?」
「コーチ枠だ」
「ほらきた、稲瀬監督のテコ入れじゃん。育成じゃない方にも無理矢理話つけてたでしょ」
「事前にドイツの成績聞いてればそうなる」
そう言った彼にまぁ私は向こうでもこっちでも調子乗ってるからね、と返せば彼はだろうな、と返したのだが。


「それでは聞いてください。再来週一週間公休でお休みです。諸君!課題は自力で頑張るが良い!」
はははと笑いながらそう言えば、鈴木が絶望した。そんなのだからこいつは可愛いのだ。愛すべきサッカー馬鹿、そのままボールは俺のもの、ゴールも俺のもので生きて欲しい。
「なに、なんかあるの?」
「いや、普通に試合なんだわ。私女子ユースではしゃぎすぎてちょっと色々しでかしてるから」
そう言えば直が「あぁ噂に聞く」と頷いた。男子の方に噂行くって何だ。なに?と反応した周りに直が口を開く。
「東京ヴェルディ女子にやばいのがいるってやっぱナマエか」
「ふふふ……バレてしまったなら仕方ない。私だよ」
「苗字なにやったの」
「いや普通に点差つけて勝ちつづけてるだけ。一通りフルボッコにしたからどれだけ私に食ってかかってくるんだろうなって様子見るつもりが仲間と連携取れだして、監督の神采配が続いてよりフルボッコにして今。だから多分私がヤバいんじゃなくて、今期の東京ヴェルディエレーナがやばい」
パックの牛乳を飲みながらそう言えば、お前ユースだったのかと隣の山田が納得した。
「あれ言ってなかったっけ?」
「東京のチーム入ってるとは聞いてたけど、普通のチームかと思ってた」
「まぁプロユースに入ってるからってそのまま上に行く人なんて一握りだよ。私も古巣に戻るかもしれないしね。本来ならそっちにいろ!ってなってたし私も残る気だったけど、まぁ両親の仕事の都合だから仕方ない。子供なんてそんなもんだ」
「苗字って結構異次元生きてるよなぁ」
「同じ次元じゃい」
なんだそれは、と思いながら鈴木にチョップをおとす。いや、ナマエは結構異次元だよ、と女子の友人が口を開く。
「そんなんだけど成績いいし。クラスでも上位じゃん」
「そこなんだよな」
「勉強結構役に立つよ」
そうぐっと指を立てればどこがだよと突っ込まれた。

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途中出場した私がハットトリック達成した上で逆転させるという劇的勝利をきめたら、先輩たちからの愛が痛かった。潰されたもんな。痛い。まぁこれ多分ドイツじゃないからできたことで、私を知ってるドイツだと私一人でこれは無理だからな。いや日本の先輩でもドイツに行ってる人は私のこと知ってるっぽかったしな。まぁそんなこんな、女子会のロナウジーニョとかメッシとか能見奈緒子の再来とかいう称号をつけられて帰国する。公式にキレられるぞ。あと失礼だからやめた方がいい。あと15歳のプレーじゃないとか女であることがおしいっていうやつは誰だ。それは自覚ある。うるせ〜!とケタケタ笑ってたキャプテンに「アンタがうるさいよー」と後ろから頭を叩かれたが。
「なに笑ってんの」
「15歳のプレーじゃないって記事に書かれてるのを友達がメッセージアプリで伝えてきたから、うるせ〜と思って」
スタンプ爆撃をしておく。ついでに遠征中でーすと自撮り載せたら違う人物が隣誰と食いついてきた。隣は保護者なコーチの稲瀬さんだかんな!これだから心配性は。稲瀬さんの写真を撮ってコーチだよと送る。本当に?を連発してくる人物に、かまってちゃんか〜!と送っておく。まぁグループの年長者がと目に入ったが。あと抵抗して自撮り送ってくな。私の画面をみた稲瀬さんが微妙な顔をしたが。


なんか寝て起きたら15歳云々の記事が論争になってたが私は知らん。多分15歳云々よりは男じゃないことが悔やまれる発言の方だろうが。どうあがこうと私は私である。そんなわけで二戦目の練習が始まった。ちょっと増えたマスコミは気にしないものとして、先輩達に絡んだり色々しながら練習をこなす。コメント求められてもわかりませんー、秘密って言われましたー、とか言ってたらなんとかなる。ということを繰り返してすり抜けようとしたら先輩が私についてのコメント言ってた。
「ナマエちゃんは異次元に生きてるので……」
「えっ、私同じ次元……」
衝撃的すぎたのでそう突っ込めば後ろからきたキャプテンが私にのしかかりながら口を開いた。
「もしくは宇宙人か」
「やばっ、正体バレた……?私実はアース199999の日本からきたんだよね」
「ナマエ、それだとみすぎの言ってた異次元になるよ」
そう突っ込んだキャプテンはアメコミ大好きウーマンだからな。私は口を開く。
「ぐぬぬ……m78からきたことは黙っていたかった」
「m78?」
「ウルトラマンだな。星に帰られたら日本は困るからお前はバスに乗れ」
通りがかりの稲瀬さんが私の首根っこを掴みながら口を開く。他人のインタビューは邪魔するな、マナー違反だ、と告げた稲瀬さんに「はーい」と返事をしておいた。

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「いや、苗字は確かに個人的な技術的な部分やメンタルも一級品ですが、アイツの評価するところはそこじゃない」
褒められる気配がする。記者に混じって監督の発言待機してたら稲瀬さんに首根っこ掴まれて引き戻された。くそう。なんかカメラ一台私追ってるけどやめなさい。離れた場所で稲瀬さんが手を離し私はバランスを取って起き上がる。
「インタビューは邪魔をするな」
「いや、だって褒められたいから……私まだ今年16歳だから褒められたらまだまだ育つ気がする。今から褒めていいよ!」
そう言えば先輩達から宇宙人だの異次元人だの言われる。褒められてるのかそれは。


二勝して帰国した日曜日、同じく代表選(アンダー大会の予選だろう)から帰ってきたか今から行く直に鉢合わせした。というか私を見つけたアタルがちょっとこっちにかけてきた。顔がいいね!と毎日のように言えば、完璧に慣れた彼はありがとなと笑うのだが。
「ナマエもおつかれ。相変わらず暴れてたな」
「まーね!でもまだまだやるよ!アタルも試合だったの?」
「いや、明後日だ」
「おお。みたい。アンダー男士の試合どこで見れんの?」
「さぁ、ネット配信もしてなさそうだけどな」
「ちぇー」
そう言いつつハイタッチするように片手を差し出す。目を瞬いた彼に、頑張れ、と口を開く。
「アタルなら点を取られないし活躍できるって私は知ってる」
「……おう」
ぱち、とハイタッチして、じゃあ帰ってきたら祝杯あげようぜ!と背中を叩いておく。そのまま手を振って別れれば、先輩に付き合ってんの?と言われた。同じサッカー馬鹿のクラスメイトです。
「めちゃくちゃ顔面が良い」
「確かに顔面よかった」
「学校でもモテモテだから面白いよ。先月だけで呼び出し5件あったから常日頃漫画みたいやつだなって思ってるし、面倒見てもらってる」
ふふんと笑いながら言えば、自慢することじゃないでしょ、と言われたが。

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「いやー、私は鈴木に経験を積んでほしいんだよね」
そうはっきり言えば鈴木は苗字正しく呼んだ!と喜び、周りが目を瞬いた。
「隣の山田くんもアタルも考えるタイプじゃん。鈴木はあんまり考えない自分の直感で選択肢選ぶ野生児タイプだから、色んな場面経験させて引き出し増やしたい。絶対面白いことなるから」
「なんだそれ」
「いや、私個人がボールを自分のものだって絶対自分は決めれるって言うFWに信頼があるだけというか……そう言う人物がいざ勝負どころでクレバーな面見せてくると、やべぇー!って私のテンションがぶち上がる」
いやー、私の節目節目に謎に決める堺さんがそのタイプだからな。懐かしい。うむうむ、
「諦めない奴にはボールは必ずやってくる。無駄が九割でも大事な1の部分で決めれるストライカーカッコいいじゃん。ね?佐藤。私はやんないけど」
肩をポンと叩いてそう告げる。また佐藤に戻ったとしょげた鈴木は可愛い。よーしよしよしと頭を撫でてしまう。
「ナマエ、甘やかすなよ」
「いやついこのタイプと自惚れタイプは甘やかしてしまう。可愛いくない?」
「可愛いくないよ、ナマエ」
「どこが可愛いの」
「鈴木はただの鈴木」
「越後くんの方が可愛い」
「アタルはこれやったら女子連に私が殺されるから」
「……」
なんだその露骨に拗ねた顔は。顔がいいからって許されると……許されると……。……。ええい!
「アタルはこの前相手に点決めさせなかったんでしょ!えらい!さすが私達のアタル!!!」
ヘッドロックしながらぐしゃぐしゃと頭を撫でる。ナマエいちゃつかないでって言われたけどどういう認識だ。


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監督に休みだから暇だ暇だと騒いでたら試合見に行くかとなった。仕事はいいのかこの人は。私はジュニアと一緒にサッカーしたいだけだぞ。と思ってたらなんかの決勝戦だったらしい。
「お!もしかしなくてもウチの高校じゃん!あっ待って、ホープちゃんとか福ちゃんとかひなちゃんいる!」
そう言って一番最前列に駆け寄る。ホープちゃん福ちゃんひなちゃんー!と呼べば三人がこちらを見た。サングラスかけさせられてるからしばらく私を見て首を傾げられたので、サングラスを外す。あーー!と私を指差しさしたホープちゃんはこちらに来た。
「ナマエちゃんじゃん!なんで!?」
「監督に暇を訴えてジュニアの練習まざろうとしたら連れてきてもらえた。望んだ結果と違うけどこれもまた一興!頑張ってね!」
「うん!」
「私達試合に出れないと思うしなぁ」
「アピールアピール。私を見ろ!出せ!というアピール!」
きゃいきゃいと騒いでいたら監督に首根っこ引っ張られた。ぐぇ、しまる。
『大人しくしろ』
『いやだって友達いたしさー。ちょっと待って、後ろの方で見るの?なんでドイツ語?』
ずるずると引きずられて後ろの方の席に座る。こちらを見てる女の子達にとりあえず手を振っといた。
『お前が知りたがってた同世代だ』
『ああなるほど』
『全国優勝した興蓮館とお前が通う能見率いる蕨の決勝試合だ』
『興蓮館はどこ?』
『東京の学校だ。昨日違う決勝試合があった。が、チームメンバーを見る限り、ほとんど一軍だな』
『人のこと言えないけどそれいいの?』
『出たがったんだろう。あっちの監督はそこはちゃんと考える、一番有力視されてるのはあの長い黒髪の来栖、フォワード。その同い年が、様子を見に来てるオレンジ色久乃木学園の梶。同じくフォワードの年代代表。その横にいる佃も年代代表のサイドバックだ。お前の学校にも曽志崎という完成されたボランチといわれるMFがいる。それも年代代表だ』
『へー、年代代表は関東圏ばっか?』
『いや、半々くらいだろうな。未来のナデシコもその持ち上がりだと言われていたが……お前が現れて良くも悪くも一変するだろう』
試合開始の笛が鳴る。稲瀬さんは前を見たままだ。
『持ち上げ過ぎは良くないよ』
『負け試合をひっくり返す奴が何言ってるんだ。この前のもお前がいなければお決まりのパターンだった。いっそのことあの監督が解任されれば俺が目指せるんだがな』
『ガチじゃん』
ケラケラ笑いながらそう言う。
『お前は』
『うん?』
『この国は女王になれると思うか?』
彼の言葉に私は口角を上げて笑う。
『なれるよ、私がいるんだから』
その言葉にやっと稲瀬さんは私をみた。今度は私がプレーを見る番だが。
『……というか、なってもらわないと困る。私は女王でありたいし、勝ちたい』
私は勝ちたい。誰よりも優れた選手でいたい。
『でもはっきり言って、今は王座を守るための力がない。女王の位置に座してしまえば、研究し尽くされるのは目に見えてる。ぶっちゃけ、私押さえられたら詰みでしょ』
『あいつらは、お前の兵士になりうるか』
『いやー、私の兵士は多分期待しなくても増えるよ。だから、私は私の首を跳ねにくるアリスが欲しい』
稲瀬さんを見てそうつげる。彼は目を瞬いてから、お前はそう言う奴だよな、と笑って見せたのだが。



稲瀬さんと深津先生は恐らく同期ぐらいの年齢である。深津先生にも稲瀬さんにも詳しく話は聞かないが。合わせて興蓮館の監督しているのも元は海外でプレーしていたプロ選手だ。同世代あたりだろう。そうそうに退場させられた曽志崎さんに、ゲームメイカー潰されたかー、と見つめた。まぁ私でもそうすることある。たまにだけど。
『深津先生はあんまり興味ないのかな。指示出さないしね』
『……アイツも色々あったからな。でも、今のアイツは選手を腐らしてるだけだ。選手を育てることも指示も何もしない、挙げ句の果てに覚悟も何にもない。奴はまだ監督をするべきじゃない』
そう言った稲瀬さんに、待ってるの?と尋ねる。彼は『待たない』とはっきり言った。
『俺はアイツを置いていく』
『ふーん』
そう言いつつ『いいなぁ、ライバル的な人』とかえす。そういうのって大事だと思うのだ。稲瀬さん思いっきりいやな顔したけど。この人もこんな顔するのかと、新たな一面にケラケラ笑う。
『私にもできるかな』
そう頬杖をついて口を開く。お間には多分無理だな、と言われたが。なんでだ。


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「稲瀬先輩、挨拶もなしなんて酷いじゃないですか」
帰りである。稲瀬さんをそう呼び止めたのは興蓮館の高萩監督である。稲瀬さんはわざとらしくため息をつくとかれをみた。
「教師なら引率したらどうだ?」
「生徒は今集合かけてるところですよ」
私は空気読める子だからな。ちゃんと大人しくしとくぞ。深津先輩にも挨拶していけばいいのに。今のアイツに挨拶するメリットがあるのか。そんなこと言わずに。苦笑いする高萩監督につい私は口を開く。
「今はってことはいつか挨拶するつもりだから大丈夫だよ」
「お前は黙ってろ」
頭を小突かれる。いたい。彼は目を瞬く。チームの子ですか、と尋ねた彼に、稲瀬さんが私の背中をおした。おっ、名乗っていいんだな。私はサングラスをあげつつ口を開く。
「東京ヴェルディユースの苗字ナマエです。高萩選手とお会いできて光栄です」
「あぁ、あの!!」
握手に応じてくれた彼に私は嬉しくなる。やったぜ!!
「君は今までどこに隠れてたんだい!?今まで世代代表に名前を連なることもなければ、全くの無名だったのに、あんな活躍するなんて!」
「……こいつはドイツ育ちだ。だから今まで名前があがっていない。そもそもドイツでプレーしてたからな」
稲瀬さんがそう注釈をいれる。彼は目を瞬いた。
「ドイツ……前チームは?」
「ジュニア時代はヘルタ、その次がポツダムだ。ポツダムはそのままコイツをプロチームに招き入れるつもりだったが、コイツの両親の仕事の都合で帰国することになってな。数千歩譲って納得も何もしてないクリフトが俺の元に紹介してきた」
ほう、そんな経緯があったのかと目を瞬く。ヘルタのジュニアとつぶやいて、



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