2021/12/31
2021年オフラインネタ帳大放出祭84
「貴方が死んだから、松永はああなったんじゃないの?そもそも、この乱世も」
そう言ったあの子に、元信さんは微かに目を見開いて、そうかもしれないな、と綺麗に笑った。責任は取るさ、と言ってみせた元信さんは前を見る。認めた彼女に、あの子はたくさん言葉を告げる。貴方の死がきっかけで崩れた均衡により、たくさんの人が戦で死んだと。たくさんの血が流れたと。でも、それはきっと、元信さんが背負うことではない。彼女は否定をしないといつだったか、松永が告げた。本当にそうらしい。彼女は肯定するばかりで、否定なんかしなかった。あぁ、でもきっと、彼女は傷ついている。見えないだけで、深く深く。
「……私がまだ生きていた頃」
彼女は天女様から目を離し、どこか遠くを見た。つぶやくような声で告げる。
「男の私に美しい櫛や簪を用意してくれる変わった御仁がいた」
「……それがどうしたのよ」
「生きている私にはどうやってもそれを受け取る術はなかった。それを思い出した」
あの子は意味がわかっていない。何それ、というふうだった。自慢?とさえ言ったあの子に、彼女はそうじゃないよ、と困ったように笑ってその場を後にする。
ーー彼女が生きていたとして。いや、今も実際は他の世界で生きているみたいだが、あの子のいうようにそのまま生きていたとして。彼女は誰にも理解されない位置にいたに違いなかった。特に民衆や家臣からは信仰に似た感情を向けられる。若い武将達には憧れの視線をもらうこともあったのだろう。でも、それはきっと理解ではない。彼女を崇めるだけだ。彼女は自分の状態を正しく理解し、自分が自由になる方法はそれしかないと思ったのかもしれない。
ーー彼女が望んだものは、私たちが容易に手に入ると思っているようなもので、彼女が男として育てられたことで得ることができないものへと変じたのだ。
元信さんが消えれば、一時は穏やかだった世界は元の戦乱の世界へと戻っていく。そうして手のひらを返したように松永久秀という男は他勢力と敵対してみせた。ただ一人、私が先に辿り着いただけだった。いや、忠勝さんに吹っ飛ばされた先に私がいたというか。刃を向けないのかね?と尋ねた松永さんに、私は問いかける。
「……どうして、松永さんは元信さんの名前を貰わなかったんですか?」
問いに問いを重ねる。彼は私を見ると、「さて、」と惚けてみせた。家康がもうすぐ来れば、多分彼は死ぬ。彼女と同じく死体を残さず。だから、私は問いかける。それが残酷なことと知り得ながら。元信さんに問いかけたあの子と同じだと理解しながら。
「あなたが、……貴方が元信さんの名前を貰って、新しい名前を送っていれば、貴方が望んだものは手に入ったんじゃないですか!」
だってそうだ。彼が松平元信という名を貰いーーあるいは無くし、名のなくなった彼女に「ナマエ」と名づけていれば。彼女は現人神のように崇められた松平元信として生きることもなく、ただの『彼女』として彼のそばにいたはずなのだ。
「……君はあの天女と違って、なかなか聡明なようだ」
彼はそう言って目を伏せた。
「ならば、君にはわかるだろうーー溢れた水は元の場所に戻ることなどない」
その意味を咀嚼する。忠勝さんが来る音がする。直虎ちゃんの馬の足音が聞こえる。彼が手を宙に伸ばす。まるで月に手を伸ばすように。
「……死体は残さないと決めていてね」
「ナナシ!!」
パチン、と音が鳴る。爆風に体を煽られかけて、家康が支えてくれる。前には忠勝さんがたった。爆風が止み、彼がいた場所を覗き見る。その先には何もない。ただの焼け焦げた跡だけがそこにあった。
「松永と何を話したんだ?」
家康がそう私に尋ねたのは、忠勝さんに乗って空を飛んでいる時である。私は彼を見上げる。家康はきっと二人の関係に気がついていない。ただ、松永が自分の姉に変な執着を向けていると思っている。
「溢れた水は戻ることがないって言われた」
「溢れた水は戻ることがない……?」
「なんかの暗喩だと思う」
「……!」
「あぁそうか……だが、忠勝、あの松永だぞ?」
「忠勝さんはなんて?」
「覆水盆に返らず。後悔先に立たずということだな」
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似てるけど違う人、とは公式のアナウンスなのではあるのだが。こうしてみていると、実のところ同じ人なのではなかろうかと思うのだ。と、戻ったらなぜか学バサ時空だった私は思うのである。親の都合で転校し、書類を職員室に持って行くなり私をああ天女の片割れとか言ってくる松永さんがいたのである。これ絶対全員覚えてるやつじゃん。
絶対徳川くん(彼には記憶がない為そう呼んでいる)は嫌だろうけど、個人的に、あの2人の心情を察してしまった私は個人的に、くっついてほしい。でも何故かナマエさんがいない。ので、それとなく徳川くんに聞いたら、婿入りしたらしい。なんだって。またすれ違ってんの!?と内心百面相していたら、ナマエさんが学園にやってきた。しかも結構満身創痍な感じで。スーツケース一つだけを転がしてやってきた彼女に、徳川くんが飛び出した。
「ナマエね……元信兄さん!?」
「やぁ家康、元気そうだ」
「なんで兄さんが……その怪我!」
「まーそれはおいおい多分君の父親から話が行くとは思う。織田理事長はいるかな?」
「今は副理事長だが……理事長室にはいると」
「ありがとう……彼女か?」
「か、かの!?」
「あー、恐れ多いんでやめてください。徳川くんファン怖い」
首を左右に振る。いらないフラグはやめてほしい。彼女はそうか、と笑って理事長室に向かう。私と徳川くんは顔を見合わせて跡を追った。
「……どこぞの名家に婿入りした者がいるな」
部屋に入るなり松永がそう告げる。棘が含まれてるのがわたしには拗ねてるみたいにしか聞こえない。何気に三皇揃ってて尚且つ松永と美女と腹心がいるこの室内の圧よ。ナマエさんは気にすることなく、近くの椅子に座る。
「破断した」
「は?」
そう返したのは全員である。見事に全員はもって、見事に珍しい顔をしている。彼女はケラケラと笑う。
「いやぁ、彼女の父親にバレたんだ。で、そこから色々あって……破断して勘当された。働かないといきていけないから学校で働かせて寮にでも住まわしてもらおうかと」
「元信、待て、情報量が理解が追いつかない」
頭を抱えて秀吉が口を開く。徳川くんはかたまったままだ。
「元信よ、何がどうなってそうなった?」
「帝が理事長になったんです?」
「その話は後で良い」
「そもそも、結婚した彼女は君の性別を知っていたはずだと記憶しているが」
松永の言葉に彼女は肩をすくめた。
「まぁね。それを彼女は家族に伝えていなかったのが問題だし、結局は恋は盲目だっていうだろう?夢から覚めたのさ」
「具体的に言ってほしい」
「彼女に新しい男ができてね。まぁ、私も彼女の父親と仕事ばかりして構ってあげられなかったし……」
「そういうふうに元信さんが悪いって言われたのかもしれないけど、浮気した相手が全面的に悪いよ」
私がそうって突っ込めば、彼女は苦笑いしたが。
「その流れで性別がバレたのかい?」
「いや……まぁ、色々あったんだ」
濁すなぁ、と思う。徳川くんがいるからだろうか。マリアさんが首を傾げた。
「あら、濁すなんて父親に体を求められたりしたのかしら?」
「……いやぁ、バレる前までも何回かは回避したんだ、これでもな。女とばれてからはついに組み弾かれたから、婆娑羅で追い払ったら化け物扱い、そこから破断の話にいき、その責任を取る形で勘当された。まぁお互い籍はまだ入れてなかったから罰はつかなかったが」
それはまったくもって元信さんの責任ではないのでは。帝が笑いながら口を開く。
「あの者の一族がただただ愚劣の極みだったということが露呈してしまったな。其の方が働くときき株を買ったが、もう株の売り時か」
「まぁしばらくは私が悪いと言われそうですけどね」
「働き口の件は理解した。予と信長がなんとかして見せよう」
「だが、学園寮は満員のはずだ」
「ワシの家に来たらいい」
「ダメだ。ただでさえ父さんがキレてるんだよ。本家に迷惑をかけたくないしな」
「迷惑だなんて」
「ふむ、それならしばらく久秀の元に身を寄せてはどうだ?」
そう言えば元信さんは目を瞬いた。徳川くんがピシリと動きを止める。元信さんはそうすると頷いた。
「……掃除炊事洗濯ぐらいならできるし、久秀先生、ダメかな?」
元信さんの言葉に、松永がため息をつく。理事の提案なら仕方あるまい、と。やれやれというふうに。
「……君は先に手当てを受けて図書室ででも時間を潰すといい」
「編入手続きを進めておく。そうすればなよ竹も安心しよう。教員が生徒に手をあげるなど、犯罪であるからなァ?松永」
信長さんの言葉に、松永さんが卿にはそう見えるのかね?って言ってたけど。
「だが公よ、松平はこの高校創立以来の天才児だったことをお忘れかね?」
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一気に人身掌握したナマエさんを凄いと思う反面怖くもなる。やっば。この人魅力Sだろ。補助教員的な位置で働く彼女だが、一気にモブ含めて人身掌握したぞ。えっぐ。そりゃ戦国時代ナマエさんが生きづらくなるはずだよ。信仰芽生えてんじゃん。後、服部半蔵いないと思ったら三年にいてきっちり休憩時間にナマエさんに付き従ってんの凄すぎないか。
「個人的に松永教頭と松平さん推しなんで、他流派はちょっと」
そう言っていれば、オタ友はクワッと目を見開いた。
「ナナシがそんなこと言うから、もうそれにしか見えない」
「あの二人は絶対できてる」
とか言ってたらナマエさんに叱られたが。まぁ松永教頭は一応否定はするしなぁ。
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眠れない、ので、こっそりと部屋を出る。そのまま廊下を進めば月が見えた。松永邸はさすがというか、趣向が凝ってある屋敷である。与えられた客室も綺麗な部屋で、揃えられた調度品も質が良いものであるし、梅の香りが上品にするのだ。自分が借りている着流しも高そうなものだ。緊張というよりは、昔と変わらないその場の安堵もあるのではあるが、張り詰めていた糸がとけるまでが問題である。
そもそも、何を思って父親は私を男として育て、婿に入れるという暴挙にでたのか意味はわからなかった。縁側にかける。美しい庭には月が登っている。
「なんでこうなったかな」
いや、最初から失敗だったのだ。きっと。父親の選択も私の選択も。全てが失敗だった。私は失敗作というわけである。そのまま柱にもたれて目を伏せる。向き合うのももう面倒だった。一族の期待、父親の意図、彼女達の言い訳。笑顔で飲み下せばいいとわかってはいるが、それをしたところで私は幸せになれない。冷たい風がふく。このまま長い眠りにつけた方がどんなに楽だろう。そっと目を伏せる。全てが夢で、あの頃に戻れたらいいだなんて、繰り返しの繰り返して冒涜でしかないだろうが。
「冷えて体に障るぞ」
そう耳元で囁かれた言葉にゆっくり目を開く。そのまま見上げれば、久秀殿がいる。髪を下ろしている彼は珍しい。温かな羽織を私に被せると、彼は私に尋ねた。
「また月にでも帰るつもりかね?」
また。その言葉に私は困った顔をした。同じようなことを考えていたからだ。その時は相伴したいものだな、と告げて彼は隣に座る。そこで初めて彼が何かを持っていることに気づいた。シャン、と音をたてたのは簪だろう。彼はそれを私にあてがう。
「ああ、やはり君にはこの色がよく映える」
そう告げた彼に、貴方はまた、と私は困った顔をした。
「そのようなものは、私には似合わない」
簪をかざしていた彼の手に、手を重ねてさげる。彼はそれさえも愛おしいというふうにその手を振り払うこともせず、私を見下ろした。
「……君はあの二人の天女を覚えているかね?」
「覚えている。一人にひどく叱られてしまった。あの世界が乱世になったのは、私が身勝手に死んだからだと。保たれていた均衡が崩れたのも、戦で沢山人が死んだのも、全てが私の責任だと……貴方がどういう風になったかも」
そう言って彼から目を逸らし、彼の手からすりぬけ、もう一度柱にもたれかかる。そういう時代だった、とは私が責任を転嫁する時に使った言葉だ。時代が悪いのだと、よく言ったものだ。結局私は人を掻き乱すだけ掻き乱しただけだ。赤子の時、まだ親族以外の誰にも接さずに生きていた時、女と判った時点で殺してくれれば。目を伏せる。きっと自分の幸せと他者の幸せは両立しない。他者の幸せを叶えれば叶えるほど、私の幸せは遠ざかる。私は三河の国主であった松平元信として、私は「私」の幸せを望んではいけなかった。
「……こんなものは慰めにもならないだろうが、もし、君がいても私は時期にああなっていただろう。私はどうにも欲したものは手に入らないと気が済まないタチでね」
まぁ、それは今もなのだが。
彼はそう言って口を開く。
「しかし、愉快なことだな。もう一人の天女曰く、私が私になった原因も、君が死んだ原因も私にあるらしい」
目を開いて、彼を見る。首を左右に振った。それは違う。
「私が死んだ原因は貴方は関係はな……」
い、と言おうとすれば、彼は私の唇に冷えた人差し指を立てる。
「今度こそ、卿からは名を貰おう。松平元信という男の名を。これで君は晴れて自由の身というわけだ」
人差し指は、その手はそのまま下り、私の顎をかるく持ち上げた。目に宿った感情は慈愛だろうか。
「松平元信という名を私が貰った今、君はあの聖人君子ではない。好きな場所で生きたまえ。生活は帝や信長公が見てくれるだろう」
あぁ、相変わらず優しい人だ。きっと貴方は騙されていると誰かは告げるだろう。それでもよかった。嘘だとわからない嘘は真実と同じだ。
「本当に貴方は優しい人ですね」
目を伏せる。
「……もう一つ、我儘を」
「……仕方あるまい」
「貴方が許すのであれば、貴方の名を半分頂けますか」
彼が息をつめる。手がピクリと動く。
「私はあの頃から、貴方とならば死んだっていいんです」
わたしはゆっくり笑みを浮かべてそう告げる。簡単な話だ。拒まれれば、私は立ち去ればいい。またどこか遠くへ行けばいい。月から都を思う竹取の姫のように、遠くから彼を想えばいい。返答がない、から、わたしはそこから離れることを決める。
「……今宵は一層月が美しいな」
彼は月ではなくわたしを見てそう言った。その意味はもう多くに知りわたっている意味だろうか。冬の月見は確かに風流ではある、と言葉を続けた彼はそっと壊れ物を扱うような手で私の手を取ると、また私の耳元で囁く。
「だが、これ以上は体に障る。続きは帷の中で、如何かな?」
その言葉にわたしは頷くのだけれど。
==
「姉上」
そう呼びかけられた声に私は振り返る。息を切らして走ってきたのは従兄弟である徳川家康という青年だ。いや、実際は徳川家康という青年の体でやってきた、という方が正しい。
「竹千代」
そう彼を呼ぶ。ほとんどがイコールである中、徳川家康という青年だけがイコールではなかった。それもそうかも知れない。神様として崇められた弊害として彼は循環から抜け出してしまったのだろう。よく似ているから、なのか。竹千代は彼の体に降りてくる。今回もそうだろう。私の手を繋いだ彼は口を開く。
「姉上、徳川に戻ろう」
「竹千代、聞いただろう?私は勘当されたんだ。そして恐らく、一方的に私が悪くなってる今、徳川家もよく思っていない」
そう言えば彼は眉間にシワをよせた。
「きっと話が行き違ってるんだ。説明すれば理解してもらえるはずだ」
「竹千代、もういいよ」
「良くない!姉上、なんで諦めるんだ!」
彼はきつく私の手を掴む。諦めている。そうだった。そうかも知れない。でも、だ。困った顔をして笑う。
「竹千代、私は幸せになりたい」
「なら、余計に!」
「徳川の、松平の家に戻れば、多分それは手に入らないから」
徐々に彼は力を抜いていく。彼は目を大きく見開いて、私が何を言っているかわからないという風に、何か言葉を探しているように、私を見つめるだけだ。
「私はあの頃も、今も、名誉や利益、賛美が欲しいわけじゃない。常勝を、崇められることを望んだわけじゃない。私はただ、家族と、友人と、陽だまりのような日々をずっとすごしていたか過ごしていたかった。きっと一つの国の主になるには向いてなかったんだ」
「そんなことはない、姉上は、向いてないなんてことは、」
「いいや、竹千代。私は向いてないよ。きっと天下をすべる人間は、自分の幸せを望んでは行けないんだ。自分のことを顧みず、他者の幸せを考えていなければならない。私にはそれができなかった」
「そんなことは、ねぇ!姉上はいつもワシを気にかけていてくれた!いつも、人のことを優先して、いつも、笑っていて、」
そこで、彼は何かに気付いたのだろう。あぁ、そうか、と、納得した。姉上も、孤独だったのか、と。竹千代はポロポロと涙を流す。私はその涙を手で拭って抱き寄せる。昔、泣いてしまった彼をあやしたように。とんとんと背中を叩いて、もう一度口を開く。
「ごめんな、竹千代」
「……あの家にいても、姉上は幸せになれない……いや、あそこに姉上の幸せはないんだな」
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